日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PA(01-83)

ポスター発表 PA(01-83)

2017年10月7日(土) 10:00 〜 12:00 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 〜 12:00

[PA09] 子ども意思決定支援をふりかえるツールの検討

食事場面の支援を記録するアプリの試作

北原靖子1, 蓮見元子2, 川嶋健太郎3 (1.川村学園女子大学, 2.川村学園女子大学, 3.東海学院大学)

キーワード:子ども意思決定支援, 食事, アプリ

問題提起
 育児に熟達した保護者や保育者は,子どもの意思決定が円滑・的確に行われるよう,やりとりの要所(準備・選択肢提供・対応)でサポートを工夫している(北原他,2015;川嶋他,2016)。しかし,自己主張より抑制を重視してきた伝統的風土では,自分で決める力を育てる意識は必ずしも熟成していない。また少子化が進む今日では,子どもサポート自体に経験不足と困難を感じる大人も多い(神山他,2016)。そこで本研究者達は,子どもをサポートする立場にある大人が,子どもへの意思決定支援をふりかえりブラッシュアップを図るものとして,子どもの食事記録の中に「意思決定サポート」を組み込む提案を行った(北原他,2017;2016)。本調査では,本提案を元にケータイ・アプリを開発し,簡便な育児支援ツールとして役立てる可能性について,2調査を元に検討した。

調査1(食事場面におけるサポートの実態把握)
目的:食事は,子どもにとっては楽しい意思決定の機会だが(蓮見他,2016),大人にとっては各種しつけが気になる場面でもある。サポートを行う場面として「食事」を選ぶことに問題ないか検討した。
方法:3歳~6歳児をもつ全国の母親600名を対象にWeb調査を行い,食事を含む複数場面で子どもの意思決定をどの程度待つか尋ねた。
結果:待つ程度全場面平均は7段階4.9に達した。場面の効果は有意で(F(5,2795)=91.36,p<.001),食事は自由遊びと公共の場の中間に位置していた。
調査2(アプリ実装変数の試用)
目的:前回予備調査によれば,記録つけを通して意思決定支援への意識は高まったが,意思決定支援自体になじみが薄いこと,支援の分類や手応えの評定基準がわかりにくいこと,やりとりの連鎖をどこで区切るか不明瞭なことなど,複数の課題が露わになった。そこで今回は,食事の「行動目標を立て,その達成度を点検評価する」という,もっとも単純な形態のふりかえりを実践して,簡便で確実な入力の在り方を探った。
方法:協力者1名(X氏・30代女性)に調査趣旨を説明し,ふりかえりする食事回を決め,子どもサポート「栄養(ちゃんと)」「文化(きれいに)」「意思決定(たのしく)」を自身の食事目標として各々設定してもらった。結果は目標に照らし「○:よくできた」「△:やった」「-:できなかった」から1つ選ぶとし,30日記録してもらった。
結果:C氏が記録できた昼食25日分のデータから,各目標内容と評定結果状況をまとめた(表1)。
事後面接によれば,Aは実践も評定も容易だったが,100回など具体化すればよりよかったとされた。Bは弁当や会食では実践できず,何度も評定に困ったとされた。Cでは,一人の独り言を「よ くできた」とするか躊躇したが,次第に慣れたとされた。評定に不都合を感じても目標の直し方がよくわからず,変更はしなかったとのことだった。

総合考察
 調査1から,意思決定支援をふりかえる場として食事を取り上げるのに支障はないと言えた。一方調査2からは,自分単独で行う目標を立ててふりかえる場合でも,目標の具体化が不十分だったり,外的状況に影響を受けやすかったり,不自然であったりすると「やりにくい」のがわかり,妥当で評定しやすい目標設定が肝要と考えられた。
 子どもとのやりとりを経て展開される意思決定支援であれば,一般人が自分で適切に目標設定し使いこなすのはさらに難しく,アプリ化にあたっては専門家のSVを伴う利用が適当と考えられた。