日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PA(01-83)

ポスター発表 PA(01-83)

2017年10月7日(土) 10:00 〜 12:00 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 〜 12:00

[PA13] 保育者の協同的な遊びへの提案技術に関する一考察

5歳児S児が仲間に入れてあげない場面事例から

栗原ひとみ1, 佐々木宏之2 (1.植草学園大学, 2.新潟中央短期大学)

キーワード:保育者, 協同的な遊び, 援助技術

問題と目的
 保育現場において乳幼児の協同性を育むことは重要なことである。特に5歳児保育においては,協同的に遊びを展開していく楽しさを感じることが求められる。しかし白石(1994)は発達心理学の立場から,協同するかかわりは子どもたちの自由な関係に任せておいただけでは育むことができないと指摘している。そして大きな目標のために,一人ひとりが何をすべきかを,子どもたちのなかで考えられるように問題提起をし,子どもの主体性を尊重しながら集団を方向づけていくのが保育者の腕のみせどころだと述べている。そこで本研究は,保育者がどのように協同的遊びについて提案していけばいいのかを具体的場面事例を用いて考察することとした。
 鯨岡(2006)は「教え導く働き」と,「寄り添い支える働き」を保育の両義性としている。栗原・佐々木(2016)は昨年の総会にて保育者の「寄り添う援助行為」についてA児(5歳女児)の場面事例を通して明らかにした。本研究はその続編として,A児を仲間に入れてあげなかったS児(5歳女児)への援助を分析し,「教え導く働き」の中でも保育者の協同的な遊びの提案技法を明らかにしたい。
方   法
対象:新潟県内保育所クラス担任B先生
録画日時:2015年3月2日午前9時~12時
記録方法:ビデオカメラによる音声と映像の記録
分析の方法:音声データの逐語録から,①B先生と5歳女児Sとのやりとりを抽出し,S児の現状を把握,②B先生がどのようにS児の成長課題を捉えているのかを検討,③成長課題の克服に向けて,保育士が援助する内容の具体案を考察する。
結果と考察
第一段階 状況の把握
 S児は自分のしたい遊びに他児を誘い遊びを始める。自分の意に沿わない他児(A児)はその遊びに入れない。遊んでいる間はS児が遊びを取り仕切っている。
第二段階 S児の理解
 遊びに没頭するのではなく,常に周りを気にしている。勝負事では自分が一番にならないと気が済まない様子が見られる。自分を優位に位置付けないと不安なのではないか。また,自分の思いを主張することは得意だが,他児(A児含む)が何を感じているのかを思い馳せるのは不得手である。
第三段階 成長課題の把握
 第一にS児が他児と張り合う関係で自分を優位に位置付けなくても安心できるような気を許せる友だち関係を構築すること,第二に他児に自分の思いを押しつけるのではなく,他児とやり取りしながら協同して遊ぶからこそ楽しいことを知る。
第四段階 援助する内容の具体的提案
 S児が他児に思いを馳せる遊びを提案する。例えば,お手紙ごっこで,貰ったり,書いたりする。書く際には友だちに思いを馳せることが出来,貰った時にはその友だちに,気を許せるような親しみを抱けるようにする。次に,2チームでお互い助け合って他のチームと競う遊びを提案する。例えばカルタ取りを個人戦でなくペア対戦にして取る順番は交互にする等協力し合う面白さがもてるようなルールを工夫する。
第五段階 試行錯誤と援助の繰り返し
 遊んでいる最中や遊びが終わった時にS児も 他児も満足しているか,そして他児とのやり取りが,相手の意見も聞きながら遊びの面白さに向けて相乗的になっているか,という2点に着目し,見守り必要に応じて援助する。
結   語
 保育者はその子どもの課題に応じて援助技術を駆使して成長を育んでいる。その専門的技術を一層明確にすることで専門性を明らかにしたい。