日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PA(01-83)

ポスター発表 PA(01-83)

2017年10月7日(土) 10:00 〜 12:00 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 〜 12:00

[PA29] ピア・コーチングの会話分析

RIAS転用の可能性

西垣悦代1, 藤村あきほ2 (1.関西医科大学, 2.立命館大学大学院)

キーワード:コーチング, 会話分析, RIAS

背景と目的
 コーチング(coaching)とは,コーチとクライアントとの関係の中で,個人の潜在能力を開放し,その人自身の能力を最大限に高める活動である(Whitmore, 1992)。具体的なスキルにはカウンセリングとの共通点も多い。大学生を対象としたコーチング心理学演習では,自己成長への動機づけ,目標の明確化,コミュニケーションスキルの向上に効果ありとの結果がある。筆者らは学生を対象にピア・コーチングを実施し,西垣ら(2014, 2015)によるCCSES-R(コーチングコンピテンシー自己効力感尺度)を用いてコーチンススキル自己効力感の測定を行ってきたが,本研究ではセッションの会話の客観的な評価を行うことにした。分析ツールには,国際的に確立されているRIAS(Roter Method of Interaction Process Analysis System)を用いた。RIASは200以上の国際学術誌掲載論文で採用されている医療会話分析システムである。本研究は,RIASがコーチングの会話分析に転用可能かどうかの検証を目的として,学生によるピア・コーチングの会話分析を行った。
方   法
学生ペアによるピア・コーチングセッションを,同意を得てICレコーダーに録音し,作成された逐語録を2名のコーダーがRIASのカテゴリーに従って分類した。分析の対象としたセッションは,コーチとクライアントの立場が明確に保たれていたものAと,やや友人的な立場になりがちであったBである。いずれも約4ヶ月のコーチトレーニングを受けた異なるペアによるセッションである。それぞれの録音時間はAが7分26秒,Bが28分25秒,発話数(utterance)はAが55,Bが471であった。
結   果
 すべての発話はRIASのカテゴリーに従って分類が可能であった。全発話に対するコーチの発話カテゴリーの比率はAが58.4%,Bが47.5%であった。コーチの発話のうち社会情緒的発話がAでは53.3%, Bでは50.7%,業務的発話がAは46.7%,Bでは46.8%であった。コーチの社会情緒的発話のサブカテゴリー割合をFigure 1に示した。Bのコーチはあいづちと自己開示の割合が多かった。
コーチ,クライアントそれぞれの業務的発話のサブカテゴリー割合をTable 1に示した。Aのコーチは開かれた質問割合の多く,Aのクライアントの情報提供割合が多かった。情報提供のサブカテゴリーはRIASの医療的サブカテゴリーが不要であり,事実と,思考(願望・意見・決意を含む)に分類することが適当であると思われた。
考   察
 RIASを用いたピア・コーチングの会話分析は情報提供サブカテゴリー以外はそのまま分類可能で,異なるタイプのセッションの特徴を捉えることができた。今後事例を増やして検討を進めたい。