日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PA(01-83)

ポスター発表 PA(01-83)

2017年10月7日(土) 10:00 〜 12:00 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 〜 12:00

[PA46] 幼稚園連絡帳にみる家庭との関係構築のルールについて

高向山1, 若尾良徳#2, 梅崎高行3, 山際勇一郎4 (1.常葉大学, 2.日本体育大学, 3.甲南女子大学, 4.首都大学東京)

キーワード:幼稚園連絡帳, 談話分析, 関係構築

目   的
 高ほか(2016)では,月一度に記入された幼稚園出席簿における教諭のメッセージの分析から,語尾に「ね」の多用がみられ,家庭との関係構築に言語的調節メカニズムが働いていることが示唆された。ところが,出席簿には幼児でも解読できるひらがなの使用が多く,幼児と家庭の両方を意識した書き方になっている可能性も否定できない。そのため,本研究はバス通園の幼稚園で家庭との意思疎通として使用する連絡帳を分析対象とし,家庭との関係構築の特徴を明らかにすることを目的とする。
方   法
 静岡県にある大規模私立幼稚園にて2010年度から2012年度にかけて使用したTくんの連絡帳を分析に用いた。年少から年長にわたる3学年分の記録が対象となり,3学年の記録日数とメッセージ文数に関する情報は表1に示す。
結果と考察
①教諭のひと月当たりのメッセージの文数については,平均して10文前後だが,年度初め,発表会のある11月および年度末には増加する傾向がみられた(表2)。時期によってメッセージ文が相対的に多くなる傾向は,挨拶文や行事への振り返り,次年度への期待などの記述が関係しており,関係構築および維持に有効に機能すると考えられる。
②教諭からのメッセージには語尾で「ね」を活用する特徴がみられた(表3)。
 連絡帳では保育者と保護者との間に「われわれ意識」を持つようになるとみなされる「心理的収束」の開始と維持に有効に機能するのはこの「ね」の活用ではないかと考えられる(高ほか,2016)。
③確実性の高い情報の文書化(情報性)および共通認識の確認が構造化されたメッセージルール(意図性)がみられた(表4と表5)。この二つの特徴は談話行為として有効に機能する重要な要素である(ボウグランド&ドレスラー,1984)。
 教諭のメッセージからは,「ね」の活用と並行して,抽象的な表現を用いず,幼児の健康状態や食欲,活動の様子に関する具体的な記述により,家庭との共通理解を図りつつ,保護者が安心し前向きになるような記述の仕方がみられた。また,幼児の様子から推測する文章では,楽しさや嬉しさなどの積極的な推量表現しか使われないのもメッセージのルールとして捉えることができる。それにより,コミュニケーションが促進されたり,幼児の姿や気持ちに対して保護者が何等かの気づきを得たりする可能性が考えられる。さらに,教諭が時折書き込んだ幼児の様子に関する認識や期待では,おおよそ保護者や幼児も共通して持っている嬉しい気持ちや安心した思い,高ぶる期待と重なるように書かれていた。相手と情緒・情報を共有することで助長される親近感・連帯感から関係構築および維持に有効性が期待されるといえる。
④活字による情報交換と口頭による情報交換の区別(容認性)がみられた。内容や状況などによって,連絡帳に書き込みをする場合としなくてよいと判断される場合がみられるという現象は,メッセージにおける結束性が乱されることを当事者間である程度許容されることを意味する。このことは容認性(acceptability)とよばれ,何らかのプランないしゴールにとって適切な談話行為として機能するのである(ボウグランド&ドレスラー,1984)。それによって,一方的な伝達となりがちな単方向性が抑えられ,連絡帳が果たすコミュニケーション機能の双方向性が保たれると考えられる。  本研究は科学研究費(挑戦的萌芽研究・課題番号16K13078)の助成を受けて行った。