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[PA49] 保護者と保育者による子どもの発達評定の差異に関する文化比較
Keywords:就学前児, 発達スケール, 文化比較
就学前の子どもの発達を日本,中国,韓国で比較すると,全般的に韓国の子どもの発達が早く,それは韓国における早期教育熱の影響であることがYamagiwa et al. (2015),Kominato et al. (2016)などで議論されている。しかし,使用された東アジア発達スケール(青柳他,2013)は保護者が子どもを評定する方式を用いているため,表れた文化差は,他の2カ国と比べて韓国の保護者が回答に対して,子どもの実態よりも肯定的な評定を行っている傾向を示しているのかも知れない。そこで,この傾向について,保育者の評定との差を見ることによって検討を試みる。
方 法
実験協力者は,日本,中国,韓国の保護者と保育者であった。保護者は計4218名であり,そのうち,3歳,4歳,5歳の子どもの保護者2930名を本研究の分析対象とした。また,保育者は,保育士・幼稚園教諭416名であり,担当学年が無記入,複数担当等の場合を除いた217名を分析対象者とした。保護者は自分の子どもの発達の程度について,保育者は担当学年の一般的な子どもの発達の程度について,11尺度149項目の回答を依頼した。
結 果
保育者評定について,分散分析の結果,韓国の保育者の評定が他の2カ国より有意に高い項目数は,全項目数のうち3歳で45%,4歳で51%,5歳で46%とほぼ半数であったことに対して,日本あるいは中国の保育者の評定が3カ国で最も高い項目は全項目数のうちわずか3.1%であった。
次に,国別に保護者と保育者の評定差のずれを表1にまとめた。どの国においても評定の一致が項目全体の半数程度見られるが,保育者より保護者の評価が高い項目も多かった。なお,保護者より保育者の評価が高い項目は非常に少なく,韓国においては0%であった。また,韓国において評定差のある項目がどの年齢でもほぼ半数で一定であるのに対して,日本と中国では3歳の評定差が小さく,年齢が上がるにつれて大きくなる傾向が見られた。
考 察
保育者評定の結果は,韓国の就学前の子どもの発達が部分的に早いことを示していると言えるだろう。就学前であり,同じ東アジアの民族的にも近い子どもの生物学的差異は小さいと考えられるので,環境的要因,たとえば早期教育熱が影響していると思われる。また,保育者と保護者の評定差の一致がある程度見られたことは,上述の考察と一致すると考えることができる。
しかし,一方で両者の評定の違いも多く,そのずれの方向は保護者が保育者よりも高評定とほぼ一貫している。このずれについては,行為者・観察者の帰属の差異を使用する情報と動機づけが異なるという点から説明されるように,保護者と保育者の立場の違いに注目して解釈ができる。たとえば,保育者は保護者と比べて子どもの集団活動場面と多くあるいは限定的に接しているなど,両者で接する場面が異なる。下位尺度を概観すると,集団活動,道徳性などにおいて保護者の評定が高い。このような場面で保育者はより情報が多く,正確に評定していると考えられる。保護者はその情報が少なく,推測が多くなる。ここでいわゆる身びいきのような動機づけあるいは確証バイアスが働くかもしれない。保育者は保育者,教育者という比較的客観的な立場での接し方をとる。保護者の場合は自分の子どもとして接するので,確証バイアスや動機づけ的要因が影響しているかもしれない。この傾向については,3カ国に共通する保護者の心理的プロセスと考えられる。
結論として,韓国の子どもの発達が中国,日本より早いことに加え,3カ国で回答に対する一定の態度が影響しているが,その影響は韓国の保護者に強めに出ていると言えるだろう。
ところで,発達に伴うずれの傾向が韓国のみ変化が少なく,中国,日本では共通して保護者の評定が保育者より高くなる方向へ変化している。この点については,小学校入学へ近づくにあたり,子どもに対する期待の文化差が影響しているのかもしれない。今後の検討課題である。
方 法
実験協力者は,日本,中国,韓国の保護者と保育者であった。保護者は計4218名であり,そのうち,3歳,4歳,5歳の子どもの保護者2930名を本研究の分析対象とした。また,保育者は,保育士・幼稚園教諭416名であり,担当学年が無記入,複数担当等の場合を除いた217名を分析対象者とした。保護者は自分の子どもの発達の程度について,保育者は担当学年の一般的な子どもの発達の程度について,11尺度149項目の回答を依頼した。
結 果
保育者評定について,分散分析の結果,韓国の保育者の評定が他の2カ国より有意に高い項目数は,全項目数のうち3歳で45%,4歳で51%,5歳で46%とほぼ半数であったことに対して,日本あるいは中国の保育者の評定が3カ国で最も高い項目は全項目数のうちわずか3.1%であった。
次に,国別に保護者と保育者の評定差のずれを表1にまとめた。どの国においても評定の一致が項目全体の半数程度見られるが,保育者より保護者の評価が高い項目も多かった。なお,保護者より保育者の評価が高い項目は非常に少なく,韓国においては0%であった。また,韓国において評定差のある項目がどの年齢でもほぼ半数で一定であるのに対して,日本と中国では3歳の評定差が小さく,年齢が上がるにつれて大きくなる傾向が見られた。
考 察
保育者評定の結果は,韓国の就学前の子どもの発達が部分的に早いことを示していると言えるだろう。就学前であり,同じ東アジアの民族的にも近い子どもの生物学的差異は小さいと考えられるので,環境的要因,たとえば早期教育熱が影響していると思われる。また,保育者と保護者の評定差の一致がある程度見られたことは,上述の考察と一致すると考えることができる。
しかし,一方で両者の評定の違いも多く,そのずれの方向は保護者が保育者よりも高評定とほぼ一貫している。このずれについては,行為者・観察者の帰属の差異を使用する情報と動機づけが異なるという点から説明されるように,保護者と保育者の立場の違いに注目して解釈ができる。たとえば,保育者は保護者と比べて子どもの集団活動場面と多くあるいは限定的に接しているなど,両者で接する場面が異なる。下位尺度を概観すると,集団活動,道徳性などにおいて保護者の評定が高い。このような場面で保育者はより情報が多く,正確に評定していると考えられる。保護者はその情報が少なく,推測が多くなる。ここでいわゆる身びいきのような動機づけあるいは確証バイアスが働くかもしれない。保育者は保育者,教育者という比較的客観的な立場での接し方をとる。保護者の場合は自分の子どもとして接するので,確証バイアスや動機づけ的要因が影響しているかもしれない。この傾向については,3カ国に共通する保護者の心理的プロセスと考えられる。
結論として,韓国の子どもの発達が中国,日本より早いことに加え,3カ国で回答に対する一定の態度が影響しているが,その影響は韓国の保護者に強めに出ていると言えるだろう。
ところで,発達に伴うずれの傾向が韓国のみ変化が少なく,中国,日本では共通して保護者の評定が保育者より高くなる方向へ変化している。この点については,小学校入学へ近づくにあたり,子どもに対する期待の文化差が影響しているのかもしれない。今後の検討課題である。