10:00 〜 12:00
[PA62] ストレッサーに対する納得という教師の方略
キーワード:ストレス, 教師
問題と目的
職業上のストレッサーは,例えそれが有害で脅威のあるものであったとしても避けることは難しい。人はそのようなとき,意図的か否かは別として,「納得するしかないから」等の理解の下,乗り切ろうとする。精神的健康の問題が指摘されることが多い教師はどのように納得しているのだろうか。本研究は教師のストレッサーに対する納得について,その構造を探索すると共に,経験量によりこれを比較することで,教師の納得の特徴を検討することを目的とする。
方 法
2017年5月に,小中高等学校,特別支援学校の教師8名及び教員免許状を取得し定期的な学校実習を行っている教職大学院の学卒院生10名の計18名を対象に,山本(2017)の教師用ストレッサーに対する納得暫定尺度を用いて調査を実施した。田中・杉江・勝倉(2003)の教師用ストレッサー尺度の項目を示し,その9下位尺度に示された「部活動指導」や「校務分掌」等のストレッサーごとに,「それぞれのストレッサーに出あったとき,各項目について,あなたはどの程度思いますか?」と問い5件法で回答を求めた。
結果と考察
18名から9ストレッサー分の計162件の回答が得られた。分布に偏りの見られた項目を除外した上で因子分析(主因子法,プロマックス回転)により,納得の構造を探索したところ,明瞭な解が得られた(累積寄与率60.44%,因子間相関-.19)。第1因子は暫定尺度作成時のカテゴリー『妥協』とよく一致するものであった。第2因子は同じく『意義』に含まれるものであったが,挑戦や向上心に関する項目が天井効果により除外されたことから,周囲に対する貢献を中心とするものだと考えられた。以下では『妥協』『意義』と呼ぶこととした。
各因子に高い負荷量を示した項目を用いて下位尺度を構成することを試み内的整合性を検討したところCronbachのα係数は前者で.79,後者で.72であり,やや低い値に留まった。そこで教師の納得の特徴を検討するにあたり,ここでは因子得点を生成することにした。
因子得点について[ストレッサー×経験×因子]の3要因の分散分析を行ったところ,ストレッサー要因の主効果(F(8,144)=3.05,p<.01,η2=.052)と[経験×因子]の交互作用(F(1,144)=10.14,p<.01,η2=.130)が有意であった。そこで水準ごとの単純主効果を検討したところ,『妥協』における経験要因が有意で院生が高く(F(1,144)=10.87,p<.01,η2=.076),『意義』における経験要因が有意傾向で教師の方が高かった(F(1,144)=3.46,p<.10,η2=.025)。また教師における因子要因が有意で『意義』が高く(F(1,144)=6.26,p<.05,η2=.044),院生では『妥協』が高かった(F(1,144)=4.01,p<.05,η2=.028)。ストレッサー要因について多重比較した結果,「児童生徒との関係」「個別指導」に対しては他のストレッサーよりも納得できない様子が見られた(MSe=0.57,p<.05)。
教師はストレッサーを『意義』に基づく貢献により価値づけを行い,また『妥協』的に受け容れることで納得しようとしていることが示唆された。また経験により妥協への依存を低減させ,意義を重視する姿勢に変化することがうかがえた。
職業上のストレッサーは,例えそれが有害で脅威のあるものであったとしても避けることは難しい。人はそのようなとき,意図的か否かは別として,「納得するしかないから」等の理解の下,乗り切ろうとする。精神的健康の問題が指摘されることが多い教師はどのように納得しているのだろうか。本研究は教師のストレッサーに対する納得について,その構造を探索すると共に,経験量によりこれを比較することで,教師の納得の特徴を検討することを目的とする。
方 法
2017年5月に,小中高等学校,特別支援学校の教師8名及び教員免許状を取得し定期的な学校実習を行っている教職大学院の学卒院生10名の計18名を対象に,山本(2017)の教師用ストレッサーに対する納得暫定尺度を用いて調査を実施した。田中・杉江・勝倉(2003)の教師用ストレッサー尺度の項目を示し,その9下位尺度に示された「部活動指導」や「校務分掌」等のストレッサーごとに,「それぞれのストレッサーに出あったとき,各項目について,あなたはどの程度思いますか?」と問い5件法で回答を求めた。
結果と考察
18名から9ストレッサー分の計162件の回答が得られた。分布に偏りの見られた項目を除外した上で因子分析(主因子法,プロマックス回転)により,納得の構造を探索したところ,明瞭な解が得られた(累積寄与率60.44%,因子間相関-.19)。第1因子は暫定尺度作成時のカテゴリー『妥協』とよく一致するものであった。第2因子は同じく『意義』に含まれるものであったが,挑戦や向上心に関する項目が天井効果により除外されたことから,周囲に対する貢献を中心とするものだと考えられた。以下では『妥協』『意義』と呼ぶこととした。
各因子に高い負荷量を示した項目を用いて下位尺度を構成することを試み内的整合性を検討したところCronbachのα係数は前者で.79,後者で.72であり,やや低い値に留まった。そこで教師の納得の特徴を検討するにあたり,ここでは因子得点を生成することにした。
因子得点について[ストレッサー×経験×因子]の3要因の分散分析を行ったところ,ストレッサー要因の主効果(F(8,144)=3.05,p<.01,η2=.052)と[経験×因子]の交互作用(F(1,144)=10.14,p<.01,η2=.130)が有意であった。そこで水準ごとの単純主効果を検討したところ,『妥協』における経験要因が有意で院生が高く(F(1,144)=10.87,p<.01,η2=.076),『意義』における経験要因が有意傾向で教師の方が高かった(F(1,144)=3.46,p<.10,η2=.025)。また教師における因子要因が有意で『意義』が高く(F(1,144)=6.26,p<.05,η2=.044),院生では『妥協』が高かった(F(1,144)=4.01,p<.05,η2=.028)。ストレッサー要因について多重比較した結果,「児童生徒との関係」「個別指導」に対しては他のストレッサーよりも納得できない様子が見られた(MSe=0.57,p<.05)。
教師はストレッサーを『意義』に基づく貢献により価値づけを行い,また『妥協』的に受け容れることで納得しようとしていることが示唆された。また経験により妥協への依存を低減させ,意義を重視する姿勢に変化することがうかがえた。