日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PA(01-83)

ポスター発表 PA(01-83)

2017年10月7日(土) 10:00 〜 12:00 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 〜 12:00

[PA68] 幼児対象の社会性と情動の学習(SEL-8N)プログラムの実践効果

保護者評定を含めた検討

山田洋平1, 小泉令三2 (1.島根県立大学短期大学部, 2.福岡教育大学)

キーワード:社会性と情動の学習, 幼児, 心理教育プログラム

問題・目的
 山田・小泉(2015)では,幼児対象のSELプログラム(Social and Emotional Learning of 8 Abilities at Nursery School;以下,SEL-8N)の実践効果を検証した結果,教師評定により幼児の社会性の肯定的変化が示された。しかし,統制群を設定しなかったため,幼児の肯定的変化が発達的変化である可能性が残った。また,園生活以外での行動の変化については検討がなされていない。
 そこで本研究では,幼稚園児の社会性における幼児対象のSEL-8Nの実践効果を,実験群と統制群との比較(研究1)および親評定による検討(研究2)を行うことを目的とする。
研究1 教師評定による効果検討
方   法
調査対象者と評定者:実験群はA県内私立幼稚園1園の年中・年長学級8学級の幼児258名(年中児124名,年長児134名),評定者は学級担任8名。統制群はA県内同系列の別の私立幼稚園1園の年中・年長学級8学級の幼児260名(年中児129名,年長児131名),学級担任8名が評価者。調査時期:pre調査を2016年7月,post調査を翌年2月に実施。調査内容:子どもの強さと困難さアンケート(以下,SDQ)(Matsuishi et al., 2008),5因子各5項目の計25項目。実施内容:2016年7月~翌年2月に計13回のSEL-8N(1回の活動は15~20分程度)を実験群の幼児全員を対象に実施。
結果・考察
 SDQ各因子の変化量(post調査-pre調査)得点を算出し,群間差をt検定により検討した結果,困難さ尺度,仲間関係の問題,向社会性において有意差が見られた(Table1)。この結果からSEL-8N実施による幼児の社会性の改善が示された。特に,他者とのかかわりによる肯定的な変化が示された。

研究2 保護者評定による効果検討
方   法
評定者:実験群の保護者19名(年中10名,年長9名)。調査時期と調査内容:研究1と同様。
結果・考察
 SDQの各因子得点(総和得点)を算出し,時期についてt検定を行った結果,困難さ尺度,情緒の問題,仲間関係の問題,向社会性において有意差(有意傾向を含む)が見られた(Table2)。
総合考察
 研究1では,教師評定による統制群との比較によって,特に他者とのかかわりに関するSEL-8Nの実践効果が示された。研究2では,保護者評定を行い,SEL-8Nによって獲得した社会性が園の生活以外でも定着している可能性が示された。研究2では研究1で効果を示した因子に加えて,体調不良や心配事の多さなど幼児の内的状態を示す情緒の問題での効果が示された。この結果については,本研究での実践効果が,長い間幼児の様子を観察している保護者にしか気づかない僅かな効果であった可能性が考えられる。
 今後は統制群の保護者評定を加えた検討の他,フォローアップ調査によりSEL-8N実施効果の維持や定着について検討したい。
引用文献
Matsuishi et al. (2008). Scale properties of the Japanese version of the Strengths and Difficulties Questionnaire (SDQ): a study of infant and school children in community samples. Brain and Development, 30, 410-415.
山田洋平・小泉令三 (2015). 幼児版社会性と情動の学習(SEL-8N)プログラムの実践効果― SDQアンケートを用いた検討― 日本教育心理学会総会発表論文集, 57, 513.