日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PA(01-83)

ポスター発表 PA(01-83)

2017年10月7日(土) 10:00 〜 12:00 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 〜 12:00

[PA71] 中等教育における総合的な学習に関する学び方の質的検討

益谷真 (敬和学園大学)

キーワード:中等教育の総合的な学習, 学び方の質, テキストマイニング

 中学校や高校で計210時間を目安にして教科横断的・統合的に学ぶ「総合的な学習」は,PISA2012でも一定の成果をあげているようだが,半数の者が進学する高等教育との接続の観点からみると,探究的・協同的な学びの質や深まりを更に充実させていく必要性が指摘されている(中教審,2014)。また,進学しない者にとっても公教育の最終段階として,実社会で知識を活用できる汎用的能力を育成する主体的・協働的なアクティブ・ラーニングの充実が期待されている。初等教育の総合的な学習では,学級担任や生活科との連携によって教科を横断・統合しやすいが,中等教育では教科専任や進路指導の重視が,総合的な学習の質に影響を与えている。
 本報告では,高等教育を受け始めた大学新入生を対象にして,中等教育において総合的な学習がどのように行われ,潜在的な教育効果がどのように認識されているかを自己報告から探る。教育心理学的な関心として,課題解決のための協同学習,課題発見のための創発的な話し合いの技法,レポート作成のスキル,科学的興味関心や批判的思考,自己の生き方に関する哲学,ごまかし学習からディープラーニングへの転換などが,実際にどのように教育されているかを質的なデータで検討する。

方   法
データ収集
 対象者: 2015年から2017年にかけてN県にある国立大学の新入生計738名から4月の一般教養の心理学の授業で回答を集めた。
 調査項目: 学校の所在地(市町村),実施学年,学習テーマ,実施時間,学習成果の確認方法,成績評価の方法について自由記述で回答を求めた。
データマイニング
 テーマに関して自由記述から単語の出現頻度を集計した。他の調査項目はアプリオリにカテゴリーを設定して頻度を集計した。

結果と考察
 有効回答: 回答の18%が中学か高校のいずれかの総合的な学習で何をしたか不明であった。特別活動との区別や科目の位置づけが学習者に自覚されなかったのは,成績評価が明確でなかったことに因るのかもしれない。
学校所在地: N県が48%,東北・北海道22%,N県を除く北信越が16%,東海4%,近畿4%,中国・四国4%,九州2%であった。
 実施学年: 中学では1年8%,2年38%,3年28%,不明26%であった。高校では1年12%,2年52%,3年24%,不明12%であった。いずれも進路選択を考える2年生に集中した。
 実施時間: 中学では最頻値20時間,SD10.86時間,不明64%であった。高校では最頻値35時間,SD16.22時間,不明44%であった。活動時間の想起が困難な理由として,コスト算出の経験知が不足していると推測される。
 学習成果の確認: 中学も高校も,試験がないことから自覚がまったくできていなかった。成績評価がレポートや発表によって行われていることから,学習者にも自覚できるように観点別評価やルーブリック評価などの工夫が必要である。
 成績評価の方法: 中学も高校も,振り返りプリントや感想文によるのが68%,発表12%,不明20%で,通知票等のコメントであった。高校で期待される活動報告や研究報告といったレポート作成スキルは,十分指導されていないことが分かった。
 学習テーマ: 頻度の上位を以下に示す。中学校では体験型のキャリア学習が最も多かったが,高校では進学先の情報を調べる活動が主になっていた。中学校ではなかったが,高校では少数でも読書からの発展学習や課題・自由研究が行われていた。学年によって学習テーマが変わるケースが76%あった。頻度は少なくても,テーマとしては他にも中学校・高校の各々にユニークなプログラムもあった。
 【中学校】職場体験(156),職業(72),所在地の地誌・伝統・魅力(61),進路(59),修学旅行事前事後学習(53),福祉(16),文化祭(14),所在地の産業・特産(12),沖縄(11),討論(11),環境問題(10),歴史のある県内の地域(8),障害(8),部落差別・人権(8),災害(7),所在地域の伝統芸能(5),農業体験(4),社会問題(4)
 【高校】進路(145),大学調べ・オープンキャンパス・出前講義(76),職業・将来(75),著名人・出身者・大使等の講演会(47),課題・自由研究(24),小論文(23),修学旅行事前学習(22),文化祭(21),討論(17),読書(13),沖縄(8),海外研修事前学習(6),部落差別・人権(5),芸術・伝統芸能(4)