日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PB(01-83)

ポスター発表 PB(01-83)

2017年10月7日(土) 13:00 〜 15:00 白鳥ホールB (4号館1階)

13:00 〜 15:00

[PB17] リバウンドしやすい知識とリバウンドしにくい知識

植松公威 (東北生活文化大学)

キーワード:リバウンド, 範囲画定, ルール学習

問題と目的
 Hashweh(1986)は「範囲画定」という教授方略を提案した。これは対立的な関係にある過去経験と科学的な新情報を統合し,両者を共存させるものである。即ち「~の範囲では過去経験が成り立ち」,「~の範囲では科学的な新情報が成り立つ」というように,両者の妥当性を認め,「場合分け」を提示する。学校教育において学習者は科学的な新情報を受け取り,「誤概念」は一旦衰退する。しかし,学習者は過去経験を再度,経験し,一旦衰退した「誤概念」が復活(リバウンド)する恐れがある(植松, 2008)。しかし「範囲画定型ルール」によって両者の妥当な範囲が画定されている場合には,たとえ過去経験が繰り返されても科学的な新情報は否定されないため,「誤概念」のリバウンドは生じにくいと推測される。
方   法
概要「球根やイモなどを植えて育てる植物にはタネができない」という「誤概念」を取り上げる。過去経験は「チューリップを育てるときには球根を植えた」である。科学的な新情報は「花が咲けば,タネができる」である。これは「非画定型ルール」に相当する。「範囲画定型ルール」は「花の咲く植物では,もとの植物と同じ性質のものをつくるならば,体の一部(球根,茎,根など)を植え,もっと優れた性質のものをつくる(品種改良する)ならば,タネをつくってまく」となる。冊子の構成は,過去経験の情報→事前テスト→「誤概念」の強固さの程度の判定→読み物(「範囲画定型ルール」または科学的な新情報の提示)→事後テストⅠ→過去経験の情報→事後テストⅡである。学習者は「誤概念」の程度(強または弱)×読み物の種類(「範囲画定型ルール」または科学的な新情報のみ)によって4群に分けられる。
学習者 宮城県内の私立の大学,短大で心理学関係の授
業を履修する学生149名。
課題 事前,事後Ⅰ,事後Ⅱは共通。チューリップなどにタネができるかどうかを判断してもらった。チューリップ,ヒヤシンス,ジャガイモ,タマネギがターゲット4事例。各事例には花が咲くという情報が伝えられた。
誤概念の強固さの程度 「花が咲く植物には『花が咲けば,タネができる』という法則(ルール)があります。この法則はチューリップやヒヤシンスにもあてはまると思いますか」と示し,「あてはまると思う」または「あてはまらないと思う」のいずれかに○をつけてもらった。前者に〇ならば弱,後者に〇ならば強と判断した。
結果と考察
 事前テストでチューリップに〇をつけた21名を除外し,「画定・強」群46名,「新情報・強」群48名,「画定・弱」群19名,「新情報・弱」群15名を分析対象とする。「画定・強」群では読み物によって「誤概念」の事例数が減少し,リバウンドしなかった(以下「修正」と表現)者は40名(87%),「新情報・強」群で「修正」できた者は30名(63%),「画定・弱」群で「修正」できた者は15名(79%),「新情報・弱」群で「修正」できたのは8名(53%)であった。Figure1にターゲット4事例における「誤概念」反応数の変化を示す。過去経験の情報をはさんだ事後テストⅡにおいて「画定・強」以外の3群で「誤概念」のリバウンドが起きた。特に「新情報・強」群で大きなリバウンドが起き,リバウンドが起きなかった「画定・強」群との間に違いが見られた。一方,「画定・弱」群と「新情報・弱」群の間には目立った違いが見られなかった。「範囲画定型ルール」によるリバウンド抑制は「誤概念」を強固にもっている学習者に有効であったと言える。「画定・弱」群では「範囲画定」の情報そのものが意味をもたなかった者もいたと推測される。