13:00 〜 15:00
[PB29] モンティ・ホール・ジレンマにおける規範的意思決定の阻害要因の検討
現状維持バイアスと自己決定感の側面から
キーワード:モンティ・ホール・ジレンマ, 現状維持バイアス, 自己決定
問題と目的
モンティ・ホール・ジレンマ(以下,MHD)とは,条件付き確率の計算を伴う二者択一の意思決定課題である。プレーヤーは3枚のドアから当たりと予想するドアを選択し,ゲームの司会者は残る2枚のうちの当たりでない1枚を開ける。プレーヤーは,もとの選択を維持するか,それとも開いていない1枚に選択を変えるのかを尋ねられる。選択を保持して当たる確率は1/3,選択を変更して当たる確率は2/3であり,規範的意思決定は「選択の変更」であるが,Granberg & Brown(1995)によると,1回の試行の場合,約9割が「選択の保持」を選ぶ。
このように,解説を聞いているにもかかわらず規範的意思決定ができない理由を,Greenberg & Dorr(1998)ならびにInman & Zeelenberg(2002)らは,自ら選んだ選択肢を変更するのには抵抗があるという現状維持バイアスで説明している。
本研究では,Deci & Ryan(1985)の自己決定理論も踏まえ,MHD課題を,最初の選択を放棄しても,次の段階で再び選択を行わせるという構造へと課題をアレンジすれば,現状維持にこだわらず,計算上で,より当たる確率が高い選択肢を選ぶ傾向は高まるのではないかと予想した。
本研究の仮説は以下の通りである。
仮説1 確率に対する解説がある群では,事前に比べて事後は「変更」を選択率が高い。
仮説2 確率に対する解説がない群においても,オリジナルのMHDに比べて二段階選択課題では「変更」の選択率が高い。
さらに,解説あり群においては二段階選択課題の「変更」の選択率は100%に近いと予想する。
方 法
対象者:実験に先立ち,弘前大学の学生199名を対象に吉中・五十嵐・平岡(2012)で用いられた数学テストによって,被験者の数学能力の下限を,基本的な確率の乗法を理解している者,上限を基本的な条件確率の量化までは可能な者に設定し,男性9名,女性16名を抽出した。この中からMHDを事前に知っていた者を除き,問題の解説あり群11名と解説なし群12名が設定された。
事前テスト:日本語版MHD課題文(三好・生駒・若林・服部,2004)を参考にPCで実験用プログラムを作成して課題提示を行った。被験者は練習問題1問のあと,本試行5題に回答した。1問ごとにドアを変えるか変えないか,選んだドアの当たる確率の予想,当てるために何を考えたかの自由記述を紙に記入した。その後,解説あり群は,MHDの解説として代表的な,「場合分け」「余事象」を使う方法の組み合わせによる説明を受けた。
事後テスト1:事前テストと同じ手続き5試行。
事後テスト2:二段階選択課題5試行。この課題ではまず被験者に5枚のドアから1枚をまず選ばせ,次にヒントとして残る4枚のドアのうち,当たりではない2枚のドアを開けた後で,最初のドアという選択を保持するのか,それとも残りのまだ開いていない2枚のうちのどちらか1枚のドアを開けるのかを選択させた。計算上は,変えないで当たる確率は20%,変えて当たる確率は40%である。
結果と考察
全体的な結果をTable 1に示す。事前テストと解説なし群の事後の結果では保持の方が多かった。保持と変更の確率は各々50%で等しいという帰無仮説を立てて二項検定による検討を行ったところ,解説あり群の事前と解説なし群の事後テスト1で有意差がみられた。解説なし群の事後テストで,一貫して変更しない者は6名に上った。
しかしながら,解説なし群の事後テスト2では保持と変更の選択率はほぼ拮抗し,また一貫して保持する者は2人に留まるなど仮説2を支持する方向の結果となった。
一方,解説あり群では事後テストでは逆に変更の方が有意に選択率が高かった。事後テストで全回答一貫して保持という者は一人もいなくなったことからみても,仮説1は支持されたと考えられる。また,事後テスト2の解説あり群では,96.7%と変更であり,また,12名中の10名が全問変更と100%にかなり近い数字での変更がみられた。
以上の結果から,解説と課題構造の変更には一定の効果があることが示唆された。
モンティ・ホール・ジレンマ(以下,MHD)とは,条件付き確率の計算を伴う二者択一の意思決定課題である。プレーヤーは3枚のドアから当たりと予想するドアを選択し,ゲームの司会者は残る2枚のうちの当たりでない1枚を開ける。プレーヤーは,もとの選択を維持するか,それとも開いていない1枚に選択を変えるのかを尋ねられる。選択を保持して当たる確率は1/3,選択を変更して当たる確率は2/3であり,規範的意思決定は「選択の変更」であるが,Granberg & Brown(1995)によると,1回の試行の場合,約9割が「選択の保持」を選ぶ。
このように,解説を聞いているにもかかわらず規範的意思決定ができない理由を,Greenberg & Dorr(1998)ならびにInman & Zeelenberg(2002)らは,自ら選んだ選択肢を変更するのには抵抗があるという現状維持バイアスで説明している。
本研究では,Deci & Ryan(1985)の自己決定理論も踏まえ,MHD課題を,最初の選択を放棄しても,次の段階で再び選択を行わせるという構造へと課題をアレンジすれば,現状維持にこだわらず,計算上で,より当たる確率が高い選択肢を選ぶ傾向は高まるのではないかと予想した。
本研究の仮説は以下の通りである。
仮説1 確率に対する解説がある群では,事前に比べて事後は「変更」を選択率が高い。
仮説2 確率に対する解説がない群においても,オリジナルのMHDに比べて二段階選択課題では「変更」の選択率が高い。
さらに,解説あり群においては二段階選択課題の「変更」の選択率は100%に近いと予想する。
方 法
対象者:実験に先立ち,弘前大学の学生199名を対象に吉中・五十嵐・平岡(2012)で用いられた数学テストによって,被験者の数学能力の下限を,基本的な確率の乗法を理解している者,上限を基本的な条件確率の量化までは可能な者に設定し,男性9名,女性16名を抽出した。この中からMHDを事前に知っていた者を除き,問題の解説あり群11名と解説なし群12名が設定された。
事前テスト:日本語版MHD課題文(三好・生駒・若林・服部,2004)を参考にPCで実験用プログラムを作成して課題提示を行った。被験者は練習問題1問のあと,本試行5題に回答した。1問ごとにドアを変えるか変えないか,選んだドアの当たる確率の予想,当てるために何を考えたかの自由記述を紙に記入した。その後,解説あり群は,MHDの解説として代表的な,「場合分け」「余事象」を使う方法の組み合わせによる説明を受けた。
事後テスト1:事前テストと同じ手続き5試行。
事後テスト2:二段階選択課題5試行。この課題ではまず被験者に5枚のドアから1枚をまず選ばせ,次にヒントとして残る4枚のドアのうち,当たりではない2枚のドアを開けた後で,最初のドアという選択を保持するのか,それとも残りのまだ開いていない2枚のうちのどちらか1枚のドアを開けるのかを選択させた。計算上は,変えないで当たる確率は20%,変えて当たる確率は40%である。
結果と考察
全体的な結果をTable 1に示す。事前テストと解説なし群の事後の結果では保持の方が多かった。保持と変更の確率は各々50%で等しいという帰無仮説を立てて二項検定による検討を行ったところ,解説あり群の事前と解説なし群の事後テスト1で有意差がみられた。解説なし群の事後テストで,一貫して変更しない者は6名に上った。
しかしながら,解説なし群の事後テスト2では保持と変更の選択率はほぼ拮抗し,また一貫して保持する者は2人に留まるなど仮説2を支持する方向の結果となった。
一方,解説あり群では事後テストでは逆に変更の方が有意に選択率が高かった。事後テストで全回答一貫して保持という者は一人もいなくなったことからみても,仮説1は支持されたと考えられる。また,事後テスト2の解説あり群では,96.7%と変更であり,また,12名中の10名が全問変更と100%にかなり近い数字での変更がみられた。
以上の結果から,解説と課題構造の変更には一定の効果があることが示唆された。