日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PB(01-83)

ポスター発表 PB(01-83)

2017年10月7日(土) 13:00 〜 15:00 白鳥ホールB (4号館1階)

13:00 〜 15:00

[PB45] 不適切な読解表象はいかに形成されるか(2)

説明的文章に関する大学生の「まとめ」の分析

工藤与志文1, 舛田弘子2 (1.東北大学, 2.札幌学院大学)

キーワード:文章理解, 読解表象, 想念の「侵入」

目   的
 「不適切な読解表象はいかに形成されるか(1)」における「まとめ」の分析により,読者の7割近くが不適切な読解表象を形成していることがわかった。さらに,文章のどの部分を利用してまとめているかという点を分析することにより,不適切な表象を形成した読者は,適切な表象を形成した読者と比較して,読者独自の「解釈」の記述が多い点が明らかとなった。そこで,本研究では「解釈」の内容をカテゴリーごとに整理し,まとめの不適切性との関連を検討する。
結   果
 複数例見られたものを,カテゴリー別に例示する。
A) 電車内でのアナウンスに対する疑問・批判(13例)
・携帯電話はPMに影響はなく,22㎝以上離せば全く問題がないということ。さらに,電車内でのアナウンスは全く無意味であり,必要がない。
B) 携帯電話以外の危険性の警告(7例)
・総務省は「携帯電話は…22㎝離す」という指針を出しているが,それが必要なのは古い機種の話であり,もうすでにサービスが終了し,現在は使われていないため,最近の機種ではほとんど影響がないということ。それよりも日常生活で使用している電化製品の方が電波の強いものがあり,注意する必要がある。
C) 携帯電話の使用マナー(6例)
・携帯電話はマナー違反であるが,PMには何ら影響しないということ
D) 患者の不安(5例)
・携帯電話はPMに影響しないにもかかわらず,電車内で「優先席付近では…お切りください」というアナウンスや電光掲示で流れるため,患者が不安になってしまうということ。
E) PMの進歩(4例)
・PMは進化しているということ。PMを使っている人に携帯電話を怖がらなくていいよということ。
F) 記事の真実性に対する疑問(3例)
・自分の80歳近い祖母が心臓にPMを装着しているのですが,22㎝かどうかのきわどいラインでいつも気分が悪くなってしまい,時には気を失います。このような記事は発信してほしくないと感じました。
G) 情報リテラシーの重要性(2例)
・優先席の付近では心臓PMなどを装着した不整脈患者のためにケータイの電源を切ってと呼びかけられているが,実際最近の機種では影響はない。世の中には不確かな情報が流れることによってそれを信じ不安が募るが,本当に正しいのか判断した上で信じることが大事。
H) 携帯電話以外での対策の必要性(2例)
・確かに患者の立場からしたら不安だ。でも今の携帯電話は全く影響がないといって,一番気を付けなければいけないのは,他の電子機器の方が危険だということ。携帯電話よりも他の電子機器をPMに影響がないものを作ったほうが良いのかもしれない。
I) 日本の特殊性(2例)
・携帯電話の電波が心臓PMに悪い影響を与えてしまうために,電車やバスの優先席付近では電源を切りなさいというアナウンスが流れるが,実際は影響はなく,このような認識があるのは日本だけであるため,この認識を見直すべきであるということ。
 ここで例示された内容は文章に直接登場してこないものである。むしろ文章内容から読者が触発された意見・感想・主張などがない交ぜとなったものであろう。明らかに感想文のようなものもあり,課題の意図を読者が取り違えた可能性は捨てきれない。しかし,教示では「新聞記事なので,私たちに説明や解説をしたり,何か情報を知らせようとするための文章である」点を強調したうえで,「文章が全体として説明・解説・知らせようとしている事」をまとめるよう求めている。この点を考慮するならば,読者が文章から直接得られる情報とそこから触発された自身の想念を十分に区別できていない可能性がある。
考   察
 舛田・工藤(2013)は,文章読解における知識の再構造化に際して,不適切な知識の関連づけにより誤った再構造化が生じる現象を見出すとともに,これを知識領域間の線引きが不十分なために生じる知識の「侵入」と名付けた。今回の文章読解においても,読者の側で文章から得られる情報とそこから触発された想念の間の線引きが不十分であり,読解表象の形成過程において,本来持ち込まれるべきではない想念の「侵入」を許した可能性があるだろう。