13:00 〜 15:00
[PB53] 大学生における稼得意識の検討(1)
稼得意識と経済への関心度の男女差
キーワード:ジェンダー, 将来展望, 自由記述
目 的
若者の貧困や非正規雇用が問題になっている。稼ぐ力を身につけリスクを回避するためには,自ら稼ぐ意志の早期の育成が重要である。本研究では「自ら稼ぐ意志」を稼得意識と名付ける。大学生の稼得意識を自由記述で捉え,どのような稼得意識を持っているか,それが何によって規定されているかを検討することで,今後のキャリア教育に有用な視点を得ることが本研究の目的である。なお,女性は結婚後夫の収入に頼ればよく,女性に稼ぐ力は必要ないとする風潮もあるが,低収入の女性ほど結婚率が低く,結婚しても夫との離別・死別後に貧困に陥りやすい。つまり稼ぐ力は男女問わず必要なのだが,この現状が理解されているのか確認するため本研究では稼得意識の男女差に着目した。
方 法
2017年1月,大学生130名(女性92名,男性38名)を対象に質問紙調査を行った。平均年齢は20.26歳であった(SD=0.93)。
稼得の予想 今後の人生で現実的にどれくらい稼げると思うかと,その理由の自由記述を求めた。
結婚後の収入割合の希望 結婚後の自分とパートナーの収入割合の希望を自由記述させた。
経済への関心 経済や金融問題などお金に関する問題への関心度について4件法で回答を求めた。
結 果
稼得の予想の記述を13のカテゴリーに分類した(Table1)。分類は心理学教員2名で行い,一致しない場合は協議した(協議前の一致率99.20%)。男性が多かったのは,“高収入”(正確確率検定, p<.01),“扶養”(χ2(1)=9.52, p<.01),“展望なし”(正確確率検定, p<.05)の記述であった。女性が多かったのは,“低収入”(正確確率検定, p<.05),“自立” (χ2(1)=12.55, p<.001)の記述であった。結婚後のパートナーとの収入割合の希望を,“自分が多い”,“半々”,“自分が少ない”に分類した。“自分が多い”は女性1名(1.09%),男性28名(73.68%)で男性が多く(正確確率検定, p<.001),“半々”は女性12名(13.04%),男性0名で女性が多く(正確確率検定, p<.05),“自分が少ない”は女性78名(84.78%),男性1名(2.63%)で女性が多かった(正確確率検定, p<.001)。経済への関心度を“関心あり”と“関心なし”の2群に分けた。女性は“関心あり”が45名(49.45%),“関心なし”が46名(50.55%),男性は“関心あり”が13名(36.11%),“関心なし”が23名(63.89%)であり,性別による偏りはなかった(χ2(1)=1.85, n.s.)。
考 察
男性は女性と比べ,高い収入を得ることや,パートナーよりも多く稼ぎ家族を扶養することを予想していた。女性は男性より収入の低さを予想する者が多く,ひとり食べていける程度に稼ぐことや,結婚後はパートナーに自分と同等以上の収入を求める者が多かった。しかし,稼ぐために努力したいと記述する割合や,経済への関心に男女差はなく,稼得に関する展望がない者は男性に多かった。つまり,女性の稼得意識の低さは,稼得への関心や努力する姿勢の欠如ではなく,男性が稼げる(稼ぐべき),女性は稼げない(稼がなくても良い)という性別役割に規定されているのであろう。女性の稼得意識を高めるためには性別役割意識への働きかけが重要であることが示された。
若者の貧困や非正規雇用が問題になっている。稼ぐ力を身につけリスクを回避するためには,自ら稼ぐ意志の早期の育成が重要である。本研究では「自ら稼ぐ意志」を稼得意識と名付ける。大学生の稼得意識を自由記述で捉え,どのような稼得意識を持っているか,それが何によって規定されているかを検討することで,今後のキャリア教育に有用な視点を得ることが本研究の目的である。なお,女性は結婚後夫の収入に頼ればよく,女性に稼ぐ力は必要ないとする風潮もあるが,低収入の女性ほど結婚率が低く,結婚しても夫との離別・死別後に貧困に陥りやすい。つまり稼ぐ力は男女問わず必要なのだが,この現状が理解されているのか確認するため本研究では稼得意識の男女差に着目した。
方 法
2017年1月,大学生130名(女性92名,男性38名)を対象に質問紙調査を行った。平均年齢は20.26歳であった(SD=0.93)。
稼得の予想 今後の人生で現実的にどれくらい稼げると思うかと,その理由の自由記述を求めた。
結婚後の収入割合の希望 結婚後の自分とパートナーの収入割合の希望を自由記述させた。
経済への関心 経済や金融問題などお金に関する問題への関心度について4件法で回答を求めた。
結 果
稼得の予想の記述を13のカテゴリーに分類した(Table1)。分類は心理学教員2名で行い,一致しない場合は協議した(協議前の一致率99.20%)。男性が多かったのは,“高収入”(正確確率検定, p<.01),“扶養”(χ2(1)=9.52, p<.01),“展望なし”(正確確率検定, p<.05)の記述であった。女性が多かったのは,“低収入”(正確確率検定, p<.05),“自立” (χ2(1)=12.55, p<.001)の記述であった。結婚後のパートナーとの収入割合の希望を,“自分が多い”,“半々”,“自分が少ない”に分類した。“自分が多い”は女性1名(1.09%),男性28名(73.68%)で男性が多く(正確確率検定, p<.001),“半々”は女性12名(13.04%),男性0名で女性が多く(正確確率検定, p<.05),“自分が少ない”は女性78名(84.78%),男性1名(2.63%)で女性が多かった(正確確率検定, p<.001)。経済への関心度を“関心あり”と“関心なし”の2群に分けた。女性は“関心あり”が45名(49.45%),“関心なし”が46名(50.55%),男性は“関心あり”が13名(36.11%),“関心なし”が23名(63.89%)であり,性別による偏りはなかった(χ2(1)=1.85, n.s.)。
考 察
男性は女性と比べ,高い収入を得ることや,パートナーよりも多く稼ぎ家族を扶養することを予想していた。女性は男性より収入の低さを予想する者が多く,ひとり食べていける程度に稼ぐことや,結婚後はパートナーに自分と同等以上の収入を求める者が多かった。しかし,稼ぐために努力したいと記述する割合や,経済への関心に男女差はなく,稼得に関する展望がない者は男性に多かった。つまり,女性の稼得意識の低さは,稼得への関心や努力する姿勢の欠如ではなく,男性が稼げる(稼ぐべき),女性は稼げない(稼がなくても良い)という性別役割に規定されているのであろう。女性の稼得意識を高めるためには性別役割意識への働きかけが重要であることが示された。