The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PB(01-83)

ポスター発表 PB(01-83)

Sat. Oct 7, 2017 1:00 PM - 3:00 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

1:00 PM - 3:00 PM

[PB67] 特別支援教育における教員の役割に関する研究(7)

小学校での特別支援教育における教員サポートの実践について

石橋裕子1, 林幸範2, 今林俊一3 (1.帝京科学大学, 2.池坊短期大学, 3.鹿児島大学)

Keywords:特別支援教育, 教員サポート, 小学校

研究の目的
 特別支援教育における教員の役割について,本稿では小学校での教員サポートの実践について報告する。
問題の所在
 特別支援教育が始まって10年が経過する。この間,様々な法が整備され,アクティブラーニングやユニバーサルデザインでの授業が提唱された。一方,複数在籍している発達障害児をはじめとした支援対象児(以下,「対象児」)への対応について,大学では学んでおらず研修の機会も決して多いとは言えない教師にとって,様々な悩みやトラブルを抱えていることが少なくない。本稿では,都内A区B小学校Cクラスで筆者が実践している事例を報告し,特別支援教育を円滑に進めるために必要なサポートを考察する。
都内A区B小学校の概要
 各学年およそ2クラスで,在籍児童数500名程度の小学校である。特別支援学級はなく,特別支援教室もまだ設置されていない。クラス替えは原則的に奇数学年で実施される。産休代替や特定科目の少人数指導担当講師等,多くの者が「非正規採用」である。すなわち,学習指導や学級運営についての研修を受けていない者が多い。
低学年Cクラスの概要
 担任教師は20代女性の産休代替教員で,在籍児童数はおよそ30名。対象児が6名おり,その児童に振り回されていわゆる「学級崩壊」を起こしている状態である。そのため,管理職をはじめ空き時間の教員が毎時間当該クラスに入り,担任のサポートを行っている。スクールカウンセラーも,来校の度に当該クラスで数時間,対象児と関わっている。
実践期間と内容
 2016年11月~2017年3月,校長と日程調整を行い,月1回程度ボランティアで訪問。クラスで授業を観察して担任と管理職へのアドバイスを実施した。なお,毎回観察前に管理職からクラスの状況を聞き,観察の参考材料とした。
クラスでの観察内容等の一部
 ①授業を見ながら掲示されている作品をチェッして対象児の特徴をつかみ,どこに着席しているのかを見つける。即ち,あらかじめどの児童が対象児かは聞かず,作品を見て対象児を見極める。②一人一人の言動と担任教師との関係性,対象児と周囲の児童との関連性を観察。③担任の授業展開と教室環境を観察し,十分に行えている点と改善が検討できる点とを整理。
対象児の実態
 D児:日直が号令を掛けても反応が遅く,クラス全員がD児の姿勢が正せるのを待って挨拶をする。そのため,授業時間が少なくなることが多い。授業中は滅多に教科書やノートを広げない。担任が声かけするがあまり効果はない。日常生活では虚言と見受けられる事案が多数ある。また,保護者から担任や管理職へのクレームが多い。良く筆箱を落とす。E児:教科書とノートは開いているが,終始,自分の興味のある絵を描いたり,しまってあるはずの道具を出し入れしている。担任が声かけするがあまり効果はない。F児:板書を写すのに多くの時間を要する。G児:板書を写し始めるまでにお気に入りの筆記具が見つかるまで,筆箱の中身を何度も出し入れする等の「儀式」が必要。H児,I児:落ち着いて着席できずに絶えず歩き回り,廊下へも出る。
担任の改善検討点
 ①45分の中で何度も黒板を消す。②挙手をしている子ではなく答えられないので挙手していない子を指す。答えられないことへのフォローがない。③笑顔がない。④個人思考の時間がなく,常に説明しているか指名している状態。⑤挙手している児童に気づかない。⑥授業が「展開」で終了し「終末」がない。
教室環境
 ①教卓に他の時間で使用する大きな教具がのっている。②教室後方の作品前にも大きな教具が置かれ,児童の作品を隠している。
助言内容の一部
 ①授業に必要のない教具はしまい,児童の作品は隠さない。②話し続けるのではなく活動時間を増やす。③個人思考の時間を取り,解答できる児童を増やす。④黒板は子どものノートと同じなので45分間消さず,必要であればミニ黒板等を使用する。⑤板書が遅い児童へは穴埋めで書けるプリントを配付する等,合理的配慮をする。⑥「展開」で終わらさず必ず「振り返り」を行う。⑦「協同学習」を実施すると一人一人に役割が生まれて離席できにくくなる。離席は居場所がないからである。
考   察
 ペアでの「協同学習」実施後はH児,I児の離席が減り,クラスが落ち着いた。担任の笑顔が増え,クラス全体が見渡せるようになった。G児へは休み時間に準備を促し,F児へは板書が写しやすいよう工夫したプリントを配付した。D児,F児は,少しずつではあるが授業に参加する姿が見られ,管理職等が支援に入る回数が減った。筆者が助言する前に管理職が多くの指摘とアドバイスをしていたとのことだが,なかなか整理・実行できなかったようである。以上等から,まず担任の大変さを受容し,実施できていることを認めた上で大学教員等の専門家がアドバイスすることが有効であると言えよう。