日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PB(01-83)

ポスター発表 PB(01-83)

2017年10月7日(土) 13:00 〜 15:00 白鳥ホールB (4号館1階)

13:00 〜 15:00

[PB70] 高校生対象のスクール・学級・個別ワイドによるSSTの効果

原田恵理子1, 渡辺弥生2 (1.東京情報大学, 2.法政大学)

キーワード:高校生, ソーシャルスキルトレーニング, 3段階の教育援助

問題と目的
 近年,学校教育では,コミュニケーション能力を身に付ける心理教育の一つとしてソーシャルスキルトレーニング(Social Skills Training,以下SST)が積極的に活用され,総合的な学習の時間や特別活動,道徳の時間などにおいて実施され,全ての児童生徒を対象にして行われる予防教育的な支援としてなされている。これまでにも,スクールワイド(織田・宮前,2013)や学年単位(江村・岡安,2003;原田,2015;金山・小野;2006),学級(江村,2007;藤枝・相川,2001;渡辺・山本,2006),少人数(原田・渡辺,2011)で実践され,それぞれの研究において効果が実証されている。一方,スクールワイドや学年及び学級で実施されるSSTにおいて,各学級で実施されているにもかかわらず,ひとくくりでその効果を検証し,学年全体と学級,そして個別支援における効果の検証はなされていない。こうした予防教育は,3段階の教育援助の介入が重要とされている(石隈,1999)。また,担任教師によっては,指導案が同じであっても授業展開において,発問や教材を変えるといった工夫をする場合がある。そこで,本研究では,教師のSSTの経験の有無及び指導案の工夫の有無に注目し,効果の差を検討する。
方   法
(1)対象者:公立高校1年生8学級,統制群A高302名,実践群B高304名,合計606名。(2)測定尺度:中学生用社会的スキル尺度(嶋田,1998),中学生用レジリエンス尺度(石毛・無藤,2011)。遅刻・欠席・早退の件数。教師のSST経験の有無と実施回数及び振り返り。(3)SST手続きと内容:授業者;授業者は担任教師で教職課程の学生によるTAとペアになって授業を行った。1回目と5回目は第一筆者が全クラスを対象に体育館で講演をした。実施授業; LHRの時間における道徳の授業として計5時間。ターゲットスキル;ソーシャルスキルとは(ガイダンス),考えと気持ちを伝えるⅠ(コミュニケーションとは)・コミュニケーションⅡ(聴く)・感情のコントロール・あたたかいことばかけ。実施期間と頻度;20XX年10月中旬から11月上旬にかけて週に1度行った。なお,統制群の高校への事後教育として,11月中旬に全生徒が各学級で教職課程の学生によるSSTを受講した。
結果と考察
スクールワイド
 学校×性別×時期を独立変数,各下位尺度の合計の平均値を従属変数とした反復測定による分散分析を行った。その結果,全ての下位尺度で有意な差がみられなかった。つまり,スクールワイドにおけるSSTにおいては,学校間で効果に差はないことが明らかになった。
学級ワイド
 各学級において各下位尺度の合計の平均値で対応のあるt検定を行った。
 その結果,学級1は「自己志向性」(p<.05)が減少,学級2は「自己志向性」(p<.01)が上昇,学級3は「向社会的スキル」(p<.05)と「引っ込み思案行動」(p<.05)が減少したことが明らかとなった。つまり,学級1では自分の判断や行動を見直して自ら問題行動を解決しようとする自律的な傾向が減少する一方,学級2では上昇し,学級3では困っている人がいたら助けてあげるといった思いやり行動が減少する半面,友達に声をかけられない,仲間に入れないといった引っ込み思案行動が低められていた。
 以上より,学級ワイドにおける実践前後において3学級で変化があり,5学級には変化が認められなかった。したがって,スクールワイドにおけるSSTの実践前後の変化は認められなかったが,学級ワイドに着目すると,学級間によりSSTの効果に違いがあることが明らかとなった。
個別ワイド
 体調不良による不登校傾向で成績不良の男子1名を対象に効果を検証した結果,向社会的スキルと自己志向性の得点が上昇し, 2学期に増加した欠席・遅刻・早退が3学期で減少し,さらには成績下位者から脱し,学校生活に改善の兆しが認められた。
 以上より,統制群と実践群の学校間においてSSTの効果に差はなかったが,学級ワイドでは3学級で変化し効果の違いが見られた。その3学級の担任教師は事前研修で指示した理論に基づいて授業の工夫を行っており,これが個別支援にまで影響を及ぼしたのではないかと考えられた。3段階に介入する効果的なSSTは,担任教師の要因が影響すると考えられ,研修の在り方が課題である。