日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PC(01-83)

ポスター発表 PC(01-83)

2017年10月7日(土) 15:30 〜 17:30 白鳥ホールB (4号館1階)

15:30 〜 17:30

[PC17] 文章理解力の発達に及ぼす読書のジャンルの影響

図書貸出数を用いた縦断研究による検討

上田紋佳1, 猪原敬介2, 小谷田照代#3, 塩谷京子#4 (1.ルーテル学院大学, 2.くらしき作陽大学, 3.静浦小中一貫学校, 4.関西大学)

キーワード:文章理解力, 読書, 縦断研究

 児童期に読む本のジャンルが文章理解力に及ぼす影響は,横断研究を中心に検討され始めているが,長期的な視点から十分に検討されているとは言い難い。Lawrence (2009)では夏休みの期間の前後の変化を検討し,語彙力を夏休み前後に測定し,文脈から意味を推測する力の高い群のみで,物語のジャンルの読書量のみ語彙力の向上に有意な正の効果がみられ,説明文章の読書量ではそのような効果がみられなかったことを報告している。
 本研究では,Lawrence (2009)と比して10ヶ月間という長期の期間を設け,読む本のジャンルが文章理解力に及ぼす影響を検討することを目的とする。読書量として,読んだ本のジャンル別に図書貸出数を算出し,それらの図書貸出数と10ヶ月後の文章理解力との関係を縦断調査によって検討した。
方   法
参加者
 公立の小中一貫学校2年生から8年生(2016年度時点)が調査に参加した。1回目の調査(Time 1)は2016年4月に,2回目の調査(Time 2)は2017年2月に行われた。そのうち,2回の調査に参加した生徒を分析対象とした。
測定指標
 文章理解力の測定として,標準化された検査である「Reading-Test読書力診断検査」 (福沢・平山, 2009)を用いた。図書貸出数は,2015年度の1年間と,2016年4月から2017年2月までの11か月間の期間の図書貸出数を用いた。図書貸出数のジャンルは,日本十進分類法の区分によって,フィクション(9類の文学),絵本,ノンフィクション(雑誌と0から8類までの合計)の3つのジャンルに分類し,分析を行った。
手続き
 すべて協力校の教員によって,授業中などの時間に行われた。
結果および考察
 文章理解力の正答率の平均およびジャンル別の図書貸出数をTable 1に示した。
 文章理解力のTime 2時点の正答率を目的変数として,階層的重回帰分析を行った。統制変数として,Step 1ではTime 1時点の正答率を投入した。Step 2において,2016年度の絵本,ノンフィクション,フィクションの図書貸出数を投入した。さらに, Step 3で,2015年度の絵本,ノンフィクション,フィクションの図書貸出数を投入した。
 階層的重回帰分析の結果,すべての学年でStep 1における偏回帰係数は有意な正の値であった。Step 2による分散説明率の増分は,すべての学年で有意ではなかった。また,Step 2における各ジャンルの偏回帰係数は有意な値ではなかった。6年生においてのみStep 3による分散説明率の増分は有意であり(△R^2=.13, p <.05),フィクションの図書貸出数の偏回帰係数は正の値であり有意であった(β=.449,p <.05)。
 分析の結果, Step 2で分散説明率の有意な増分が認められなかったことから,直近の読書量は文章理解力の変化に寄与しないといえる。一方,6年生においてのみStep 3で分散説明率の有意な増分が認められた。さらに,フィクションの正の効果がみられ,Lawrence(2009)と同様の結果が得られた。今後は,どのようなジャンルの文章理解力の向上に,読書が長期に寄与するのかを検討する必要があるだろう。