The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PC(01-83)

ポスター発表 PC(01-83)

Sat. Oct 7, 2017 3:30 PM - 5:30 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

3:30 PM - 5:30 PM

[PC18] 受験競争観が学習動機づけに与える影響

英語学習における仮想的有能感に着目して

馬場正太郎 (東京外国語大学大学院)

Keywords:受験競争観, 動機づけ, 仮想的有能感

問   題
 グローバル化が進む日本では英語教育に対する関心が高く,国民の英語力の向上のため,大学入試改革をはじめとする教育改革が進められている。従来,大学入試は学習者の内発的動機を低め,自律的な学習を阻害するものと批判的に捉えられてきた。しかし外発的動機に基づく学習であっても,学習者が高い自己決定性をもって学習に取り組むことができる場合,必ずしも学習の自律性を阻害しないことが自己決定理論で指摘されている(Deci & Ryan,1985;Ryan & Deci, 2000)。鈴木(2014)は大学入試場面における競争の機能に対する学習者の認識である受験競争観に着目し,動機づけとの関連を調べ,受験競争を肯定的に捉える学習者ほど自己決定度の高い動機づけを有していることを明らかにした。
 一方,競争場面においては,他者との比較行為が必然的に伴うため(Buss,1986),学習者が自分の能力を他者や社会を基準にして相対的に評価するようになる(Ames,1984)。そのため,受験競争を肯定的に捉える学習者は,自己の直接的なポジティブ経験に関係なく,他者の能力を批判的に評価,軽視する傾向に付随して習慣的に生じる有能さの感覚である仮想的有能感(速水・木野・高木,2004)を高めている可能性がある。
 しかし学習者の受験競争を肯定的に捉える傾向および受験勉強への動機づけと仮想的有能感の関係についてはこれまで検討されてこなかった。そこで本研究では,受験競争観が学習者の英語動機づけおよび仮想的有能感が英語学習動機づけに与える影響について,受験競争観に着目して検討する。

方   法
調査時期 2016年10月
調査対象者 都内国立大学生・大学院生86名(男性19名,女性64名:平均年齢19.45歳(SD=1.29))。
使用尺度 受験競争観尺度(鈴木,2014),自己決定理論に基づく大学生用の英語学習動機づけ尺度(林,2011),Rosenberg(1965)の翻訳版自尊感情尺度(Mimura & Griffiths,2007),仮想的有能感尺度(Hayamizu, Kino, Takagi, & Tan,2004)を用いた。

結   果
 因子分析の結果,受験競争観尺度は受験競争を肯定的に捉える成長型競争観と,否定的に捉える傾向である消耗型競争観の2因子に分類された。英語学習動機づけ尺度は,自己決定性の低い動機(「外的調整」)と,自己決定性の高い動機(「取入れ的調整」「内的調整」)の2因子に分類された。自尊感情尺度および仮想的有能感尺度はそれぞれ1因子性が確認された。
 仮想的有能感が動機づけに与える影響について,受験競争観の違いで差が見られるかを明らかにするため,成長型競争観高群と消耗型競争観高群の2群に分け,多母集団同時分析を行った。その結果,成長型競争観高群では,自尊感情が自己決定性の高い動機を高め,仮想的有能感が自己決定性の低い動機および自己決定性の高い動機を高めていることが明らかになった。一方,消耗型競争観高群では,自尊感情が自己決定性の高い動機を低めていることが示唆されたが,仮想的有能感が動機づけに与える影響については有意なパスは認められなかった。

考   察
 成長型競争観を抱く傾向のある学習者は,仮想的有能感が,学習者の自己決定性の低い動機に加え,自己決定性の高い動機をも高めることが明らかになった。受験競争を肯定的に捉える学習者は,学校や予備校において他者の学習態度やテスト成績と比較することによって有能感を感じ,それによって動機づけを高めていると考えられる。本研究は,受験勉強を肯定的に受け止め,自律性の高い学習を遂行する者には,仮想的有能感が高まる傾向があるというリスクを抱えていることを明らかにした。
 学業場面において仮想的有能感が高い者は他者を批判的に見下し,共同活動への参加を積極的に行わない傾向があることが示唆されている(小平・青木・松岡・速水,2008)。コミュニケ―ション活動が重視される英語教育の現場において教員は,学習者らの自己決定性の高い動機づけを高めていくだけではなく,仮想的有能感が低減されるよう働きかけ,他者との適切な共同活動が行えるよう指導をしていく必要があると考えられる。