日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PC(01-83)

ポスター発表 PC(01-83)

2017年10月7日(土) 15:30 〜 17:30 白鳥ホールB (4号館1階)

15:30 〜 17:30

[PC29] 質の高い要約文章作成のためには何が重要か

読み手及び書き手としての意識とメタ認知の影響

懸田孝一1, 松村朋美#2 (1.北海道教育大学, 2.札幌市立札苗緑小学校)

キーワード:要約, メタ認知

 文章を要約する作業には,文章内容の理解とその理解に基づいた文章の産出という2つの認知過程が関与する。そして,質の高い要約文章を作成するためには,元の文章内容を正確に把握した上で,それにとらわれすぎることなく情報の取捨選択や文章の構成を適切に行うことだと言える(和田・植田, 2013)。
 では質の高い要約文章を作成するためには何が重要なのだろうか。先行研究から,文章読解や文章産出それぞれにおいては,その文章の知識やスキルの他に,読み手及び書き手のとしての意識が重要であることが示されている(e. g., 岸, 2010, Schraw & Bruning, 1996)。また,文章読解や文章産出にはメタ認知が大きく関与する(e.g., 秋田, 2008, 﨑濱, 2013)。
 そこで本研究では,読解過程と産出過程からなる要約文章作成において,読み手あるいは書き手としての意識やメタ認知といった内的側面がどのように影響するかを検討することとした。

方   法
参加者
 北海道教育大学教育学部旭川校の学生38名。
課題
 要約文章作成課題 『社会脳とは何か』(千住,2013)を一部改編した課題文章を要約する。文章の総文字数は3017字であった。字数の制限はなく,制限時間は30分とした。
 読解に対する読み手の信念尺度 和田・植田(2013)の全10項目を使用した。「書き手の意図に沿って読むべきである」というTM信念4項目と,「読み手の意図によって読み方は変わる」というTA信念6項目の2因子で構成されている。
 文章産出意識尺度 崎濱(1999)の全45項目を使用した。「伝わりやすさ」因子15項目,「読みやすさ」因子12項目,「読み手の興味・関心」因子10項目,「簡潔性」因子8項目の4因子で構成されている。
 メタ認知尺度 吉野・懸田・宮崎・浅村(2008)の全19項目を使用した。質問紙は活動的側面9項目と知識的側面10項目から構成されている。
手続き
 まず,要約文章作成課題を行い,読解に対する読み手の信念尺度,文章産出意識尺度,メタ認知尺度の順に行った。所要時間は約45分であった。

結果と考察
要約文章の得点化
 和田・植田(2013)に倣い,要約において情報をいかに再構成しているかを表す“情報の取捨選択と再構成”と要約文章としての全体的な良さを表す“文章の分かりやすさ”の観点で得点化した。
 情報の取捨選択と再構成 情報の取捨選択と再構成の4項目(項目1:元の文章の適切な情報を選択しているか,項目2:元の文章の情報をできるだけ多く含めているか,項目3:各々の情報について,元の文章とは表現を変えているか,項目4:元の文章にある複数の情報を統合しているか)について,実験に参加していない学部学生1名と第二著者が独立に7段階で評価した。各項目の評定者2名の平均値を情報の取捨選択と再構成の得点とした。
 文章の分かりやすさ 実験に参加していない学部学生4名が「内容がわかりやすく伝わるか」を10段階で評定した。評定者4名の平均値を文章の分かりやすさの得点とした。
読み手の信念,書き手の意識,メタ認知と要約文章の質との関連
 読み手の信念(TM信念,TA信念),書き手の意識(「伝わりやすさ」,「読みやすさ」,「読み手の興味・関心」,「簡潔性」),メタ認知(メタ認知知識,メタ認知活動)と,要約文章の質(情報の取捨選択と再構成,文章の分かりやすさ)との関係を検討するために,各得点間の相関分析を行った。
 その結果,読み手の信念得点と要約文章得点の間には有意な相関は認められなかった。また,書き手の意識得点と要約文章得点との間では,文章産出意識尺度得点の「読みやすさ」因子得点と文章の分かりやすさ得点との間にのみ有意な正の相関が認められた(r = .422, p < .01)。一方で,メタ認知活動得点と要約文章得点の間に有意な正の相関が認められた(情報の取捨選択と再構成:r = .352, p < .05,文章の分かりやすさ:r = .381, p < .05)。これらの結果から,質の高い要約文章が作成されるためには,まずメタ認知が十分に働くことが重要であると考えられる。そして,書き手としてどのような意識をもっているかが読み手としてどのような信念をもっているかというよりもより大きく要約文章の質に影響することが示唆された。