日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PC(01-83)

ポスター発表 PC(01-83)

2017年10月7日(土) 15:30 〜 17:30 白鳥ホールB (4号館1階)

15:30 〜 17:30

[PC32] いじめ防止教育のアクティブ・ラーニングによる取組み

今野紀子1, 土肥紳一2, 宮川治3 (1.東京電機大学, 2.東京電機大学, 3.東京電機大学)

キーワード:いじめ防止教育, アクティブ・ラーニング, 教員養成

目   的
 いじめ防止対策推進法が平成25年に施行され,いじめ防止と対応について,学校や行政等の責務が明確に規定された。本稿では,教員養成課程の大学生を対象とし,アクティブ・ラーニングを用いたいじめ防止教育の取組みの有用性と今後の課題について検討する。
方   法
2.1実施の流れ:アクティブ・ラーニングとは,教員による一方向的な講義形式の教育の代わりに,学修者の能動的な学修への参加を積極的に取り入れた教授・学習法の総称であるが,今回,いじめ防止と対応策を,教員養成のための教職課程科目授業内の課題とした。調査研究発表を担当するグループ(1グループは6名程度)は,グループのメンバーで協力しながら以下の学習課題に取り組み,その成果を40分間のプレゼンテーションで発表した。発表グループ以外の学生は,発表グループのプレゼンテーションを聴いて質疑を行ない,それらに対して必要に応じた助言等のフィードバックを教員が行うことで,当該学修が深化するよう工夫した。
2.2学習課題:いじめの定義,歴史(過去からの流れ),現状(統計や関連ニュースなど),社会的背景や要因,いじめに関わる児童生徒の特徴,求められる学校(教員)の対応,求められる家庭(家族)の対応,防止対策について調査研究する。
2.3 対象者:2016年6月~7月,大学生37名を対象に実施した。当該データの利用および発表に関しては,十分な説明を行い,同意を得た。
2.4評価方法:学修後,以下の10項目について5段階リッカート尺度(1[まったくない]~5[非常にある])で評価した。前興味関心度(Q1学修前,いじめについてどの程度興味があったか)・後興味関心度(Q2学修後,いじめについてどの程度興味がわいたか)・前知識度(Q3学修前,いじめについてどの程度知識があったか)・後知識度(Q4学修後,いじめについてどの程度知識を得たか)・児童生徒理解度(Q5いじめに関わる児童生徒についてどの程度理解できたか)・学校の対応理解度(Q6求められる学校の対応についてどの程度理解できたか)・家庭の対応理解度(Q7求められる家庭の対応についてどの程度理解できたか)・防止策理解度(Q8防止対策についてどの程度理解できたか)・学びの重要度(Q9いじめについて学ぶことは,どの程度重要だと思うか)・学びの意欲度(Q10いじめについて,さらに学んでみたいと思うか)。また,自由記述形式の質問により学びの振り返りとアクティブ・ラーニングに対する意見・感想を調査した。
結果と考察
 評価結果をTable 1に示す。ウィルコクソンの順位和検定の結果,発表グループと非発表グループの各評価結果には有意な差は認められなかった。また,発表グループ・非発表グループともに学修後,知識度が1%水準で有意に上昇した。
 Figure 1にCS分析(目的変数:学びの意欲度,説明変数:その他9項目とした)の結果を示す。学びの意欲の向上には,前・後興味関心度を高めることが有用であることが示された。
 発表グループの学生からは,主体的に調査研究したことで,児童生徒理解やいじめの防止対策を深く学べたとの意見が多かった。非発表グループの学生からは,「発表者の意見も内容に含まれていて理解が進んだ」「同世代の考えが聞けてよかった」という感想や意見が述べられた。今回のアクティブ・ラーニングを用いたいじめ防止教育の学びでは,発表グループと非発表グループの間で,学びに有意な差は認められず,どちらの立場でも有意義な学修となったことが示された。今後の課題としては,学修達成度を判断する基準をルーブリックで分かりやすく示す工夫や,学びを促進させるファシリテーターの適切な介入方法について,より検討する必要がある。