日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PC(01-83)

ポスター発表 PC(01-83)

2017年10月7日(土) 15:30 〜 17:30 白鳥ホールB (4号館1階)

15:30 〜 17:30

[PC34] 日本における各教科等の学びで育成可能なコンピテンシーの構造

関口貴裕 (東京学芸大学)

キーワード:資質・能力, 汎用的スキル, 態度・価値

 仕事や生活のあり方が大きく変化しつつある21世紀を生きる子ども達にどのようなコンピテンシー(資質・能力)を育成すべきかについて,現在,世界中で様々な議論が行われ,それに基づく教育改革が進められている。これらの議論から提案されたコンピテンシーの枠組みには,ATC21Sの「21世紀型スキル」など様々なものがあるが,いずれにも共通しているのは,特定分野の知識・技能だけでなく,汎用的・横断的なスキル(例:批判的思考力,以下スキル)と,何らかの態度・価値(例:責任感)の育成を謳っている点である。こうした動きは我が国の教育改革にも反映され,次期学習指導要領では,未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」と,学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の育成がこれまで以上に強調されている。
 これを踏まえ本研究では,日本の小・中学校における各教科等の学びで,どのようなスキル,態度・価値が育成可能か(研究1),またそれらは互いにどのように関係するか(研究2)を検討した。
研 究 1
 東京学芸大学に勤務する教科教育の教員18名に,それぞれが専門とする教科等の学習内容また活動を通じ育成可能なスキル,態度・価値を自由記述で回答してもらった。その結果,スキルについて96件,態度・価値について90件の回答が得られた。そこで,これらの回答を3名の評価者で内容の類似性をもとに分類し,各教科等の学びで育成可能なコンピテンシーとして以下に示す7つのスキルと8つの態度・価値を見いだした。
 【スキル】批判的思考力,問題解決力,協働する力,伝える力,先を見通す力,感性・表現・創造,メタ認知力
 【態度・価値】愛する心,受容・共感・敬意,
協力しあう心,より良い社会への意識,好奇心・探究心,正しくあろうとする心,困難を乗り越える力,向上心
研 究 2
 上記のスキル,態度・価値の育成方法への示唆を得るために,これらが互いにどのように関係するかを検討した。そのためにそれぞれのスキルと態度・価値を自己評価する質問紙を作成し,中学生から得られた自己評価データを分析した。
 【方法】 東京都内の公立中学校2年生224名に,7つのスキルと7つの態度・価値(「愛する心」を除く)のそれぞれについて,自分がどの程度それを持っているかを回答してもらった。質問は各スキル(全21問),態度・価値(全16問)について2~5問であり,スキルならば「授業の学びや活動の中で,~について考えることができる」,態度・価値ならば「授業の学びや活動の中で,~したいと思う」のように,「~ができる」程度と「~と思う」程度を6段階(1:非常に当てはまらない~6:非常に当てはまる)で自己評価するものであった。
 【結果および考察】 スキル,態度・価値ごとに各生徒の平均評定値を算出し,それぞれのスキルと態度・価値の間の相関係数を算出した。スキルでは「協働する力」が様々な態度・価値と関係していた(「受容・共感・尊重」「協力する心」「好奇心・探究心」「困難を乗り越える力」「向上心」とそれぞれr > .50)。スキルに関わる活動を通じ態度・価値が育成されると仮定するならば,授業における協働的な活動などを通じて,様々な態度・価値が育成されると考えられる。一方,態度・価値で見ると「好奇心・探究心」(「先を見通す力」を除く6つのスキルとr > .50),「受容・共感・敬意」「困難を乗り越える力」(ともに4つのスキルとr > .50)が様々なスキルと関係していた。態度・価値が学びを導くと仮定すると,これらの態度・価値を高めることが様々なスキルの育成に繋がるのかも知れない。また,「正しくあろうとする心」「より良い社会への意識」は,スキルとはあまり関係していなかった。
 さらに各生徒の回答データに対しスキル,態度・価値別に探索的因子分析(最尤法+プロマックス回転)を行った結果,スキルについて4つの因子が抽出され,それぞれ「批判的思考力」「問題解決とプランニング」「協働する力」「伝える力」(α=.82~.86)と命名された。また,態度・価値について3つの因子が抽出され,「協力と貢献」「正しさと受容」「学びに向かう力」と命名された(α=.83~.90)。このことからスキル,態度・価値の育成に際しては,これらの共通因子の力を意識することが効果的だと考えられる。
 本研究は,文部科学省機能強化経費「日本における次世代対応型教育モデルの研究開発」プロジェクト(東京学芸大学)の研究として行われた。