15:30 〜 17:30
[PC40] お互いのテーマが大きく異なる場合のピア・レスポンスにおける意見の述べ方
キーワード:ピア・レスポンス, レポート, 作文
目 的
ピア・レスポンス(以下PR)は様々な授業で取り入れられているが,同じテーマの作文である場合や,あるいはテーマが異なってもピア同士の分野が同じであり,プロダクトに対する既有知識が共通であることを前提とする場合が多いだろう。しかし,必ずしも実社会ではプロダクトに対する既有知識が共通である相手にアドバイスをする/受けるとは限らない。そこで本研究では,自分のプロダクトとは分野が異なるプロダクトに対して,どのように意見を述べるかを明らかにする。
方 法
参加者 レポートの書き方を学ぶ授業の受講者7名および教員1名。
調査日 2016年4月-2016年7月。
手続き この授業は1学期,75分×約30回で行われ,1つのレポートを書くことを目標としていた。受講者は1回目の授業で興味のある分野・テーマをあげ,2~6回目でそれに関する書籍の要約を報告した。7回目に何を調べたいのかを書いた研究計画を,教員と相談し具体化した。7回目までは授業中の受講者同士のアドバイスは基本的にはなく,講義および教員との相談のみであったが,教員と受講者のやりとりは他の受講者も見ていた。
PRは8回目から開始された。受講者は3名と4名のグループに分かれ,教員は基本的に受講者3名のグループにメンバーとして加わった(メンバー全員にアドバイスが終わった場合は,もう1つのグループへ移動してアドバイスすることもあった)。グループメンバーは固定ではなかった。
受講者がグループで報告したのは,8回目~16回目は研究計画に基づいた自分の興味のある分野の書籍の要約,レポートの構成を決定した17回目より後は,レポートの一部であった。PRですること(以下0~2)を書いたレジュメは6回目の授業で配布され,解説されていた。
0.初めてグループが一緒になった人に対しては,素朴な感想・印象を伝える(一緒のグループになるまで,直接感想をいう機会がないため)。
1.当日の資料について
研究計画との整合性(どの部分に当日の資料が相当するのか)
当日の資料の不明な点
2.次にやることについて
研究計画との整合性
レポートの構成が決定した後は,このレジュメの「研究計画」を「構成」に入れ替えてPRを行うように指示されていた。参加者A~Gのレポートのテーマは以下の7つであった。
A:音楽的な心地よさを知覚するメカニズム,及び心地よい音楽を作り出す方法
B:ポップカルチャーとその商業的な利用の展望
C:モンスターペアレントの現状と対策
D:アメリカナイゼーションによる日本文化への影響―進行するアメリカナイゼーションに日本はどう対応すべきか―
E:サブリミナル・マーケティングの問題点とその対策
F:日本企業の危機を救う人事システムの提案
G:日本における法的婚姻以外の結びつきとそれが認められるための提案
このようにそれぞれの分野は大きく異なっていた。
結果・考察
特にPR回数の前半である,書籍の要約が報告される回で,自分の経験を関係付けてピアの提出物に意見を述べることが見られた。
例1)A,B,C,DからなるグループにおいてAの提出物に対し,Bが高校時代の吹奏楽部での経験や知識に基づいた意見を述べる。
例2)C,D,FからなるグループにおいてDの提出物に対し意見を述べる際,Fが中学時代に歌舞伎を見た経験について話す。
例3)C,D,FのグループにおいてCの提出物に対し意見を述べる際,Fが年の離れた弟を通した,他の親とのやりとりの経験を話す。
Wertsch(1998)は専有を「他者に属する何かあるものを取り入れ,それを自分のものとする過程」としており,自分の経験と結びつけて相手の提出物の内容を理解し,意見を述べる過程は,専有と言えるのではないだろうか。
専有がなされたうえに,PRを繰り返すうちに相手のレポートのテーマに関する知識が深まったことで,PR後半の回では自分の経験を話す必要がなくなったと思われる。
引用文献
Wertsch, J. (1998). Mind as action. New York : Oxford University Press. (佐藤公治・田島信元・黒須俊夫・石橋由美・上村佳世子(訳) (2002). 行為としての心 北大路書房)
※本研究はJSPS科研費 15K02645の助成を受けている。
ピア・レスポンス(以下PR)は様々な授業で取り入れられているが,同じテーマの作文である場合や,あるいはテーマが異なってもピア同士の分野が同じであり,プロダクトに対する既有知識が共通であることを前提とする場合が多いだろう。しかし,必ずしも実社会ではプロダクトに対する既有知識が共通である相手にアドバイスをする/受けるとは限らない。そこで本研究では,自分のプロダクトとは分野が異なるプロダクトに対して,どのように意見を述べるかを明らかにする。
方 法
参加者 レポートの書き方を学ぶ授業の受講者7名および教員1名。
調査日 2016年4月-2016年7月。
手続き この授業は1学期,75分×約30回で行われ,1つのレポートを書くことを目標としていた。受講者は1回目の授業で興味のある分野・テーマをあげ,2~6回目でそれに関する書籍の要約を報告した。7回目に何を調べたいのかを書いた研究計画を,教員と相談し具体化した。7回目までは授業中の受講者同士のアドバイスは基本的にはなく,講義および教員との相談のみであったが,教員と受講者のやりとりは他の受講者も見ていた。
PRは8回目から開始された。受講者は3名と4名のグループに分かれ,教員は基本的に受講者3名のグループにメンバーとして加わった(メンバー全員にアドバイスが終わった場合は,もう1つのグループへ移動してアドバイスすることもあった)。グループメンバーは固定ではなかった。
受講者がグループで報告したのは,8回目~16回目は研究計画に基づいた自分の興味のある分野の書籍の要約,レポートの構成を決定した17回目より後は,レポートの一部であった。PRですること(以下0~2)を書いたレジュメは6回目の授業で配布され,解説されていた。
0.初めてグループが一緒になった人に対しては,素朴な感想・印象を伝える(一緒のグループになるまで,直接感想をいう機会がないため)。
1.当日の資料について
研究計画との整合性(どの部分に当日の資料が相当するのか)
当日の資料の不明な点
2.次にやることについて
研究計画との整合性
レポートの構成が決定した後は,このレジュメの「研究計画」を「構成」に入れ替えてPRを行うように指示されていた。参加者A~Gのレポートのテーマは以下の7つであった。
A:音楽的な心地よさを知覚するメカニズム,及び心地よい音楽を作り出す方法
B:ポップカルチャーとその商業的な利用の展望
C:モンスターペアレントの現状と対策
D:アメリカナイゼーションによる日本文化への影響―進行するアメリカナイゼーションに日本はどう対応すべきか―
E:サブリミナル・マーケティングの問題点とその対策
F:日本企業の危機を救う人事システムの提案
G:日本における法的婚姻以外の結びつきとそれが認められるための提案
このようにそれぞれの分野は大きく異なっていた。
結果・考察
特にPR回数の前半である,書籍の要約が報告される回で,自分の経験を関係付けてピアの提出物に意見を述べることが見られた。
例1)A,B,C,DからなるグループにおいてAの提出物に対し,Bが高校時代の吹奏楽部での経験や知識に基づいた意見を述べる。
例2)C,D,FからなるグループにおいてDの提出物に対し意見を述べる際,Fが中学時代に歌舞伎を見た経験について話す。
例3)C,D,FのグループにおいてCの提出物に対し意見を述べる際,Fが年の離れた弟を通した,他の親とのやりとりの経験を話す。
Wertsch(1998)は専有を「他者に属する何かあるものを取り入れ,それを自分のものとする過程」としており,自分の経験と結びつけて相手の提出物の内容を理解し,意見を述べる過程は,専有と言えるのではないだろうか。
専有がなされたうえに,PRを繰り返すうちに相手のレポートのテーマに関する知識が深まったことで,PR後半の回では自分の経験を話す必要がなくなったと思われる。
引用文献
Wertsch, J. (1998). Mind as action. New York : Oxford University Press. (佐藤公治・田島信元・黒須俊夫・石橋由美・上村佳世子(訳) (2002). 行為としての心 北大路書房)
※本研究はJSPS科研費 15K02645の助成を受けている。