15:30 〜 17:30
[PC53] 中学生のいじめ経験と認知のゆがみ
キーワード:いじめ, 中学生, 認知のゆがみ
問題と目的
向社会的な感情を抑制し,反社会的行動を引き起こす認知のゆがみのメカニズムとしてBandura (1996, 2002)が提唱したSelective Moral Disengagement (選択的道徳不活性化:以下SMD)が国内外で注目されている。SMDは,青少年の反社会的行動やいじめとの関連が様々な研究で認められている(e,g., Barchia & Bussey , 2011 ; Gini, Pozzoli, & Hymel, 2014)。認知のゆがみは,いじめ加害者や傍観者の罪悪感や恥などの感情を抑制し,いじめの制止を妨げていると考えられる。しかし,国内で認知のゆがみといじめとの関連を検討した研究は少ない。そこで,本研究では中学生のいじめ経験と認知のゆがみとの関連について検討した。
方 法
調査対象者・時期 公立中学校2校の1年生計9クラス305名を対象とした。調査は2016年12月に実施した。
質問紙の構成 (a) いじめ経験:Self-reported behaviors during bullying episodes (Pozzoli & Gini, 2010)を参考に中学1年生の6月から12月までに学校でのいじめの加害経験,被害経験,制止経験,傍観経験がどの程度あるのかを5件法で質問した(15項目)。(b)認知のゆがみ:Caprara, Pastorelli, & Bandura (1995)の選択的道徳不活性化(SMD)を参考に作成し,5件法で質問した(18項目)。
結果と考察
2尺度について因子分析(主因子法・プロマックス回転)を行った(.35以下の負荷量を示した項目および二つ以上の因子に同程度の負荷量を示した項目は除外した)。固有値の減衰状況と解釈可能性に基づき,以下の結果を抽出した。(a)いじめ経験4因子:被害経験(α=.78, 4項目),加害経験(α=.66, 5項目),制止経験(α=.72,3項目),傍観経験(α=.75, 3項目),(b) 認知のゆがみ3因子:自己中心性(α=.90,9項目),道徳的正当化(α=.75,3項目),責任転嫁(α=.62,3項目)。
いじめ経験を類型化するため,いじめ経験の下位尺度(加害経験,被害経験,制止経験,傍観経験)に対し,Ward法,平方ユークリッド距離による階層クラスターを行った。3~5クラスターで検討したところ,解釈可能性から4クラスターが適切と判断された。各クラスターのいじめ経験の標準化された平均値を図1に示した。
次にクラスターの特徴を明らかにするため,いじめ経験を従属変数としたMANOVAを行った。その結果,いじめ経験4群間の多変量主効果が有意であった(F(3,241)=138.00, 57.33, 50.84, 96.52, ps <.001)。多重比較では,被害経験(1<2<3<4),加害経験(1,2,4<3),制止経験(1<2,3,4),傍観経験(1<2<4<3)という結果が得られた。クラスター1は,4つの下位尺度の標準得点すべてが0以下の値であったため,いじめに関する経験がほとんどないと判断し無経験群とした(n=59)。クラスター2は,制止経験が0より高いが,被害・加害・傍観において経験が0より少ないため低経験群とした(n=114)。クラスター3は,加害と傍観のいじめ経験が4群中で最も多いため,高加害・傍観群とした(n=43)。クラスター4は被害経験が4群中で最も多いため,高被害群とした(n=29)。
さらに,4クラスターと性別を独立変数,認知の歪みの3下位尺度を従属変数としたMANOVAを行った。その結果,クラスター4群間の多変量主効果のみが有意であり(F(3,239)= 23.82, 10.84, 3.61, p <.001, p <.001, p <.05),性差や交互作用は認められなかった。多重比較では,自己中心性(1,2,4<3),道徳的正当化(1,2,4<3),責任転嫁(1<3)という結果が得られた(図2)。これらの結果から,いじめへの関与が高い生徒は認知の歪みが高いことが示唆された。
向社会的な感情を抑制し,反社会的行動を引き起こす認知のゆがみのメカニズムとしてBandura (1996, 2002)が提唱したSelective Moral Disengagement (選択的道徳不活性化:以下SMD)が国内外で注目されている。SMDは,青少年の反社会的行動やいじめとの関連が様々な研究で認められている(e,g., Barchia & Bussey , 2011 ; Gini, Pozzoli, & Hymel, 2014)。認知のゆがみは,いじめ加害者や傍観者の罪悪感や恥などの感情を抑制し,いじめの制止を妨げていると考えられる。しかし,国内で認知のゆがみといじめとの関連を検討した研究は少ない。そこで,本研究では中学生のいじめ経験と認知のゆがみとの関連について検討した。
方 法
調査対象者・時期 公立中学校2校の1年生計9クラス305名を対象とした。調査は2016年12月に実施した。
質問紙の構成 (a) いじめ経験:Self-reported behaviors during bullying episodes (Pozzoli & Gini, 2010)を参考に中学1年生の6月から12月までに学校でのいじめの加害経験,被害経験,制止経験,傍観経験がどの程度あるのかを5件法で質問した(15項目)。(b)認知のゆがみ:Caprara, Pastorelli, & Bandura (1995)の選択的道徳不活性化(SMD)を参考に作成し,5件法で質問した(18項目)。
結果と考察
2尺度について因子分析(主因子法・プロマックス回転)を行った(.35以下の負荷量を示した項目および二つ以上の因子に同程度の負荷量を示した項目は除外した)。固有値の減衰状況と解釈可能性に基づき,以下の結果を抽出した。(a)いじめ経験4因子:被害経験(α=.78, 4項目),加害経験(α=.66, 5項目),制止経験(α=.72,3項目),傍観経験(α=.75, 3項目),(b) 認知のゆがみ3因子:自己中心性(α=.90,9項目),道徳的正当化(α=.75,3項目),責任転嫁(α=.62,3項目)。
いじめ経験を類型化するため,いじめ経験の下位尺度(加害経験,被害経験,制止経験,傍観経験)に対し,Ward法,平方ユークリッド距離による階層クラスターを行った。3~5クラスターで検討したところ,解釈可能性から4クラスターが適切と判断された。各クラスターのいじめ経験の標準化された平均値を図1に示した。
次にクラスターの特徴を明らかにするため,いじめ経験を従属変数としたMANOVAを行った。その結果,いじめ経験4群間の多変量主効果が有意であった(F(3,241)=138.00, 57.33, 50.84, 96.52, ps <.001)。多重比較では,被害経験(1<2<3<4),加害経験(1,2,4<3),制止経験(1<2,3,4),傍観経験(1<2<4<3)という結果が得られた。クラスター1は,4つの下位尺度の標準得点すべてが0以下の値であったため,いじめに関する経験がほとんどないと判断し無経験群とした(n=59)。クラスター2は,制止経験が0より高いが,被害・加害・傍観において経験が0より少ないため低経験群とした(n=114)。クラスター3は,加害と傍観のいじめ経験が4群中で最も多いため,高加害・傍観群とした(n=43)。クラスター4は被害経験が4群中で最も多いため,高被害群とした(n=29)。
さらに,4クラスターと性別を独立変数,認知の歪みの3下位尺度を従属変数としたMANOVAを行った。その結果,クラスター4群間の多変量主効果のみが有意であり(F(3,239)= 23.82, 10.84, 3.61, p <.001, p <.001, p <.05),性差や交互作用は認められなかった。多重比較では,自己中心性(1,2,4<3),道徳的正当化(1,2,4<3),責任転嫁(1<3)という結果が得られた(図2)。これらの結果から,いじめへの関与が高い生徒は認知の歪みが高いことが示唆された。