15:30 〜 17:30
[PC62] 障害のある幼児の記録から保育者は何を読み取るか
SCATによる実践知解読の試み
キーワード:SCAT, 実践知, 自閉症スペクトラム
目 的
近年,障害のある幼児の配慮事項に関して丁寧な接続が求められ,その活用の1つとして様々な記録媒体があげられる。例えば,幼稚園教育要領(H30)では,特別な配慮を必要とする幼児への指導として,「個別の教育支援計画を作成し活用すること」「個々の幼児の実態を的確に把握し,個別の指導計画を作成し活用すること」が明記されている。幼保小接続では,就学支援シートの活用が報告されている(松井 2007,真鍋 2011など)。また,平成28年から合理的配慮が義務づけられ,その情報もまた適切に移行される必要がある。
しかしながら,同じ記録であっても,それぞれの立場によってその読み取り方は異なってくることが考えられる。また,その読み取りの実践知に基づく教育的配慮が,園での合理的配慮にいかにつながってくるかは明らかになっていない。よって,本研究では,①障害のある幼児の記録がどのように読み取られるのかという実践知を明らかにすること,②それを踏まえて実践知がかかわりや合理的配慮とどのように結び付くのかを検討する。
方 法
A幼稚園教諭(経験年数23年)に,障害のある幼児の2事例からどのような配慮が考えられるのかをインタビューした。インタビューは,平成29年3月に実施され,約100分であった。その後,SCAT(大谷 2007, 2011)を用いて分析した。なお,本発表で分析対象としたのは,2つの事例のうち,自閉症スペクトラム児の1事例のみである。また,倫理的配慮として,事前に調査目的及び手順について説明し,同意を得た。
結果と考察
以下,分析結果を記す。なお,記述におけるアンダーラインは,SCATで現れた構成概念である。
1)A教諭の実践知としての
障害児の記録の読み取り
障害のある幼児の記録から保育者が何をどのように読み取るのか。この中で,保育者が大事にしているのは,興味関心見極めである。そのためには,困り感見極め,障害児関係安定見極めを行いつつ,獲得過程細分化することで,直列的経験つながりをつくる。これは,障害児の興味関心見極めをしなければ,経験未かさなりとなるため,つながり経験のかさなりをつくることが必要であると考えている(Figure1:当日資料参照)。
2)クラス全体の育ちと
障害のある幼児の育ちのバランス
障害のある幼児に対しては,3歳児ではクラス運営不安がある中で,障害児の安定通園目標,障害児関係安定目標,保護者関係安定目標が上げられていた。また,集団内の活動では,指示内容短文化のため,障害児の集団内遅れ潜在化となるため,集団活動緩慢化ながらも集団活動に参加することができている。
一方,5歳児になると,障害児に対しては幼児関係づくり目標となる。だが,5歳児になると,集団活動迅速化,活動指示長文化するため,集団内遅れ顕在化となる。そのため,障害児の集団活動参加可能力見極め,間接支援見極め,直接支援見極めが求められる。
3)障害のある幼児の
長期目標に準じた合理的配慮
障害のある幼児の4歳児に対しては,集団活動参加を行い,保育者もそこに支援を行う。だが,集団活動参加目標のためには幼児活動参加目的同僚や保育者支援的同僚の役割を担う同僚保育者(加配)が求められる。
A幼稚園教諭は,障害児の日々活動に対してミクロな視点で配慮を考えつつ,3歳児の障害児関係安定目標,4歳児の集団活動参加目標,5歳児の幼児関係づくり目標と長期的目標を見通しつつ,その時期に応じた合理的配慮としての加配を必要としていた。
合理的配慮は,これまで日々の活動といったミクロな視点で語られることが多かったが,本研究では長期的目標の見通しに応じた合理的配慮としての加配の必要性が明らかになった。
以上のように,保育者は障害児の記録から「見極め」「つながり」「かさなり」という視点から,その子の3年間の育ちを想定し,支援の方法を考えていた。また,長期的目標の見通しにおける合理的配慮の必要性を捉えることができた。
今後は小学校教諭への分析も含めて,検討していくことが必要である。
近年,障害のある幼児の配慮事項に関して丁寧な接続が求められ,その活用の1つとして様々な記録媒体があげられる。例えば,幼稚園教育要領(H30)では,特別な配慮を必要とする幼児への指導として,「個別の教育支援計画を作成し活用すること」「個々の幼児の実態を的確に把握し,個別の指導計画を作成し活用すること」が明記されている。幼保小接続では,就学支援シートの活用が報告されている(松井 2007,真鍋 2011など)。また,平成28年から合理的配慮が義務づけられ,その情報もまた適切に移行される必要がある。
しかしながら,同じ記録であっても,それぞれの立場によってその読み取り方は異なってくることが考えられる。また,その読み取りの実践知に基づく教育的配慮が,園での合理的配慮にいかにつながってくるかは明らかになっていない。よって,本研究では,①障害のある幼児の記録がどのように読み取られるのかという実践知を明らかにすること,②それを踏まえて実践知がかかわりや合理的配慮とどのように結び付くのかを検討する。
方 法
A幼稚園教諭(経験年数23年)に,障害のある幼児の2事例からどのような配慮が考えられるのかをインタビューした。インタビューは,平成29年3月に実施され,約100分であった。その後,SCAT(大谷 2007, 2011)を用いて分析した。なお,本発表で分析対象としたのは,2つの事例のうち,自閉症スペクトラム児の1事例のみである。また,倫理的配慮として,事前に調査目的及び手順について説明し,同意を得た。
結果と考察
以下,分析結果を記す。なお,記述におけるアンダーラインは,SCATで現れた構成概念である。
1)A教諭の実践知としての
障害児の記録の読み取り
障害のある幼児の記録から保育者が何をどのように読み取るのか。この中で,保育者が大事にしているのは,興味関心見極めである。そのためには,困り感見極め,障害児関係安定見極めを行いつつ,獲得過程細分化することで,直列的経験つながりをつくる。これは,障害児の興味関心見極めをしなければ,経験未かさなりとなるため,つながり経験のかさなりをつくることが必要であると考えている(Figure1:当日資料参照)。
2)クラス全体の育ちと
障害のある幼児の育ちのバランス
障害のある幼児に対しては,3歳児ではクラス運営不安がある中で,障害児の安定通園目標,障害児関係安定目標,保護者関係安定目標が上げられていた。また,集団内の活動では,指示内容短文化のため,障害児の集団内遅れ潜在化となるため,集団活動緩慢化ながらも集団活動に参加することができている。
一方,5歳児になると,障害児に対しては幼児関係づくり目標となる。だが,5歳児になると,集団活動迅速化,活動指示長文化するため,集団内遅れ顕在化となる。そのため,障害児の集団活動参加可能力見極め,間接支援見極め,直接支援見極めが求められる。
3)障害のある幼児の
長期目標に準じた合理的配慮
障害のある幼児の4歳児に対しては,集団活動参加を行い,保育者もそこに支援を行う。だが,集団活動参加目標のためには幼児活動参加目的同僚や保育者支援的同僚の役割を担う同僚保育者(加配)が求められる。
A幼稚園教諭は,障害児の日々活動に対してミクロな視点で配慮を考えつつ,3歳児の障害児関係安定目標,4歳児の集団活動参加目標,5歳児の幼児関係づくり目標と長期的目標を見通しつつ,その時期に応じた合理的配慮としての加配を必要としていた。
合理的配慮は,これまで日々の活動といったミクロな視点で語られることが多かったが,本研究では長期的目標の見通しに応じた合理的配慮としての加配の必要性が明らかになった。
以上のように,保育者は障害児の記録から「見極め」「つながり」「かさなり」という視点から,その子の3年間の育ちを想定し,支援の方法を考えていた。また,長期的目標の見通しにおける合理的配慮の必要性を捉えることができた。
今後は小学校教諭への分析も含めて,検討していくことが必要である。