日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PC(01-83)

ポスター発表 PC(01-83)

2017年10月7日(土) 15:30 〜 17:30 白鳥ホールB (4号館1階)

15:30 〜 17:30

[PC66] 保育学生に対するTeacher Trainingの実践(1)

スキル,知識及び効力感における変化の検討

松田侑子1, 濱田祥子2 (1.弘前大学, 2.比治山大学)

キーワード:保育学生, Teacher Training

 保育者(幼稚園教諭・保育士)は,発達障害を疑われる子どもの問題に気づき,早くから援助のキーパーソンとなりうる立場にありながらも,支援や対応を手探りで行っているという現状がある(小保内, 2013)。こうした問題の背景として,養成校での教育において,保育の場で障害児に接する際の具体的な対応法が十分教えられていないことが指摘されている(小林他, 2001; 望月他, 2001; 小川他, 2010)。つまり,保育者養成で行われる発達障害に関する教育の在り様については,検討の余地を残しているといえるだろう。
 これを踏まえ,本研究では,保育学生を対象として,Teacher Training(以下,TT)を試行し,その効果について検討することを目的とした。TTとは,親を対象とした,発達障害を持つ子どもに対する治療的な援助であるペアレント・トレーニング(Parent Training)の,教師版である。これを保育学生に試験的に導入し,活用可能性を探る。
方   法
 2016年10月下旬にTTプログラムを実施し,その事前(Time1),事後(Time2),2か月後(Time3)の3時点において質問紙調査を実施した。TTプログラムは3回のセッション,各回1時間半であった。行動療法における基本的な考え方,行動の分類,注目する・ほめるスキルに関する内容で構成した。
調査対象者:中国地方にある私立の四年制大学1校に在籍する大学生53名である(男性5名,女性48名)。学年の内訳は,3年生24名,4年生28名,不明1名である(平均年齢21.39歳±1.28)。
調査項目:①養育スキル尺度(三鈷, 2008):幼児期の子どもを持つ親の養育スキルを測定する尺度である。今回は「誘導的しつけ」「注目・関与」「物的報酬」「援助的コミュニケーション」「きげんとり」「不適切な行動の無視」の下位尺度を使用した。
②保育者効力感尺度(三木・桜井, 1998):保育における自信を測定する。
③Knowledge of Behavioral Principle as Applied to Children日本語短縮版(志賀, 1983;以下,KBPAC):学習理論に基づいた知識・理解の程度を測定する。25項目の内,本研究における介入の内容と関連のある10項目を使用した。
結果と考察
 各養育スキルについて反復測定の一要因分散分析を行った(Table1)。Time1からTime2に至る養育スキルにおいては,「援助的コミュケーション」「不適切な行動の無視」「注目関与」「きげんとり」で想定された変化が認められた。従って,今回のTTプログラムを通じて三項随伴性を理解し,行動の増減に関するスキルについての基本的な知識を得られたものと考えられる。
 しかし,2か月後のTime3では,「援助的コミュニケーション」,「注目関与」,「きげんとり」は元のTime1のレベルに戻っていた。従って,これらについては継続的にフォローアップしていく必要があるといえるだろう。また,「物的報酬」については漸増が認められたため,これについては,TTの中でどのように扱うか,更なる検討が求められる。
 また,効力感についてはTime1からTime3を通じて変化が示されなかった。KBPACの正答数がTime2で上昇した点を考慮すると,TTにより知識の習得はなされたものと考えられるが,自分自身に対する認知が変容するほどの効果はまだ認められてないといえるだろう。
 KBPACの正答数はTime3の時点でTime1時点のレベルに戻っていた。従って,経験の中で自分のスキルとして実践する機会がないと,やはり元の自分のやり方に落ち着いてしまう可能性が高い。
(MATSUDA Yuko & HAMADA Shoko)