日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PC(01-83)

ポスター発表 PC(01-83)

2017年10月7日(土) 15:30 〜 17:30 白鳥ホールB (4号館1階)

15:30 〜 17:30

[PC70] 小規模中学校における予防的心理教育プログラムの効果

対人関係ゲームと構成的グループエンカウンターを用いた実践

高橋淳一郎 (日本文理大学)

キーワード:小規模中学校, 対人関係ゲーム, 構成的グループエンカウンター

問題と目的
 各学年で1クラスしか編成できない小規模校は地方を中心にいくつも存置しているが,文部科学省(2016)からも社会的スキルが育ちにくいという難点が挙げられている。また,そのほとんどが小学校1年生から中学校3年生まで同じクラスで過ごすことになり,人間関係が固定化されてしまうことから一度芽生えた不適応感は拭い去りにくいものがある。そのような環境の中で筆者は,スクールカウンセラーの立場で継続的な予防的心理教育プログラムを実践してきた。本研究ではプログラムによる中学生の不適応感やソーシャルスキルの1年間における変化を検討することを目的に分析をおこないたい。

方   法
被験者 A県B市内の小規模中学校の生徒50名(1年生23名・2年生14名・3年生13名)を対象とした。
介入方法 月に1回程度の頻度で複数学年を同時に運営する対人関係ゲームプログラムを実施した。ただし,2年生は12月に,3年生は6月と11月にそれぞれ構成的グループエンカウンターを実施した。
効果測定 1年間のプログラム実施前(pre-test)と後(post-test)に生徒の不適応感を測定するために「TK式DEL検査(鈴木・大黒,1982)」より<学校不適応><対人不適応><自己不適応>の3因子に関する質問項目(30項目・2件法)を回答してもらった。また,生徒の社会的スキルの変化を見るため「ソーシャルスキル尺度(中学生用)(上野・岡田,2006)」より<仲間関係スキル><コミュニケーションスキル>の2因子に関する質問項目(28項目・4件法)を各学級担任に評定してもらった。これらについて前後の結果を対応のあるt検定によって比較検討した。

結果と考察
 効果測定の結果は,以下のTable 1に示す通りである。不適応感については3因子すべてにおいて有意差が見られず,pre-testからpost-testへの変化はないことが明らかになった。これは高橋ら(2005)などの先行研究と同様の結果となった。
 次にソーシャルスキルの変化については,「仲間関係スキル」において3つの下位尺度を含めて有意差が見られなかった。本研究で対象となった生徒たちは小学校1年生からずっと同じメンバーで学校生活を送っている。このことから仲間関係においては中学校段階では「開始」の必要性がなく,本研究の実践の中でもそのような場面には遭遇しなかったことで変化が生まれなかったと考えられる。また,「仲間関係の維持」や「仲間への援助」については学校規模が小さいがゆえにモデルが少なく,複数学年を同時に運営する形式で実践をおこなっても十分にスキルが上昇するには至らなかったものと考えられる。「コミュニケーションスキル」では4つの下位尺度を含めてすべて有意差が見られ,pre-testよりもpost-testで数値が上昇した。本研究では生徒たちは「他者と関わり協力する」という内容のプログラムを多く継続的に経験しており,プログラムの中では何らかの形で他者とコミュニケーションをとる必要に迫られたことからコミュニケーションにおける各種スキルが上昇したものと考えられる。
 本研究では人間関係が狭く行動モデルが少ない小規模校においても,介入の方法を工夫することによってソーシャルスキルの一部については育成できることが立証された。また,「コミュニケーションスキル」が上昇したことにより,今後も介入を継続することによって仲間関係と不適応感の改善が見込めるのではないかと期待している。