日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PC(01-83)

ポスター発表 PC(01-83)

2017年10月7日(土) 15:30 〜 17:30 白鳥ホールB (4号館1階)

15:30 〜 17:30

[PC71] 小学生における無気力感メカニズムの検討

学年別データによる検討

牧郁子 (大阪教育大学)

キーワード:小学生, 無気力感, 学年別

目   的
 近年実施された小学生・中学生を対象とした調査結果で,日本の子どもは欧米の子どもよりも抑うつ得点が高いことが報告されている(傳田,2004)。こうしたことからも,子どもの抑うつは,現代の心理学において看過できない重要課題となっているといえる。こうした抑うつの予防としては,その前段階としての「無気力感」に着目し,発達段階によるメカニズムを明確化した上で,そのメカニズムに沿って介入することが有用と考える。これまで中学生における無気力感は,牧ら(2007)や牧(2011)によって,随伴性認知,コーピング・エフィカシー,思考の偏りといった変数から構成されることが確認されている。中学生は具体的操作期から形式的操作期への移行時期にあたり,行動と結果の随伴性判断がより現実的になる思春期(鎌原・樋口,1987; Weisz & Stipek,1982)であり,認知システムが劇的に変化する時期(中村,2014)でもある。一方思春期前の小学生は,発達的に認知システムが十分成長していないことが予想され,中学生における無気力感のメカニズムとは違う可能性が考えられる。以上から牧(2016a)は,児童期の認知情動発達を鑑み,中学生における無気力感の構成要因と示唆されている随伴経験,非随伴経験,コーピング・エフィカシー,思考の偏りに,保護者との情動交流を加え,小学校4年生から6年生を対象に調査を行い,合計得点を用いて無気力感モデルを検討した。そこで本研究では,児童期の無気力感における発達的違いを考察するため,学年別にメカニズムの検討を行った。

方   法
【調査協力者】
 大阪府・滋賀県の小学生4年生~6年生1556名を対象に,調査を行い,分析可能な1534名(男子=802名,女子=732名;4年生= 502名,5年生=533名,6年生=499名;平均年齢10.84歳,SD= 0.89)を対象に検討を行った。
【調査用紙】
 児童用・情動交流尺度(牧,2016b)・児童用・随伴経験尺度(牧,2015)・児童用・コーピング・エフィカシー尺度(牧,2015)・児童用・思考の偏り尺度(牧,2015),および小学生用の無気力感尺度(笠井ら,1995)を無記名式で実施した。なお本調査は,各協力校の管理職に調査内容の事前説明を行い,調査項目チェックを受けた上で実施した。

結果と考察
 牧(2016a)による小学生の無気力感モデルを参考に,学年別の無気力感構造をパス解析にて検討した。その結果,各学年とも概ね全体データによる構造(牧,2016a)と同様であったが,情動交流尺度を起点としたパスに,学年による違いが認められた。具体的には,4年生はポジティブ情動の送受信から思考の偏りへの有意な負のパスが認められたが,5年生・6年生には認められなかった。また4年生はネガティブ情動の子ども送信から思考の偏りへの有意な正のパスが認められたが,5年生・6年生では有意な負のパスが認められた。さらに5年生のみ,ポジティブ情動の送受信から無気力感への有意な負のパスと,ネガティブ情動の保護者受信からコーピング・エフィカシー,随伴経験,非随伴経験への有意な正のパスが認められた(Fig.1)。
 以上の結果から,小学生における無気力感のメカニズムは,認知情動発達・学年特異的観点双方から,考察する必要性が示唆された。

注1)牧 郁子(2016b).児童用・感情交流尺度作成の試み(2)信頼性・妥当性の再検証 日本教育心理 
学会第58回総会発表論文集,294.では「感情交流尺度」と命名したが,児童期の発達段階を鑑み「情動交流尺度」に変更した

注2)本研究は日本学術振興会・科学研究費・基盤研究
(C)「小学生における無気力感メカニズムと教師介入
プログラムの検討」(課題番号25380927)の助成を受け
て実施された。