15:30 〜 17:30
[PC79] 学生相談における危機レベルと精神的健康度との関連について
項目反応理論を用いて
キーワード:学生相談, 危機レベル, 項目反応理論
はじめに
わが国の学生相談においては,「病気のある・なし」にかかわらず,「分け隔てなく接する」(高石,2004)ことが,学生対応の理念として共有されつつある。
また,学生が危機対応を必要とする場面,すなわち学生の危機レベルについては,必ずしも病理の程度や有無とは関連しないことは,広く知られている。しかし,この点について,エビデンスを伴う実証研究はなされていない。
目 的
本研究においては,学生の病理と,学生の危機レベル・相談転帰・学生相談カウンセラーの連携先との関連を明らかにすることを目的とする。
方 法
2008年度から2012年度までに,A大学Bキャンパスに入学した大学生1467名(男子690名,女子777名)について,後述の手続きにより,精神的健康度を測定および共通尺度化した。そのうち,2009年度初めから2012年度末までに,新規に学生相談を利用した143名(男子72名,女子71名)を,本研究の調査対象者とした。
精神的健康度の測定には,2008年度入学者には,UPIとGHQ-30を実施した,2009・2010年度入学者には,UPI,GHQ-30,K10の3者,2011年度・2012年度入学者には,UPI-GR(Graded Response)(酒井,2015),GHQ-30,K10を実施した。なお,年度ごとに一部異なる検査を用いているが,項目反応理論を用いた分析により,共通尺度θ上において直接に対比が可能である。項目反応理論による回答データの分析には,EasyEstimationシリーズ(熊谷,2009)のうち,多件法回答への対応版である,EasyEstGRM(熊谷,2015)を使用した。
これらの検査はいずれも,新入生オリエンテーション時に実施された。調査対象者には,実施の際に,結果は個人が特定されないように統計的に処理されること,調査に協力しなくても不利益はないことを明示した。
学生相談を利用した学生の,危機レベルの評価については,窪田(2005)を学生相談に援用した,内野他(2010)による基準を用いた。すなわち,①当事者・関係者レベルへの対応,②部局レベルへの対応,③全学レベルへの対応,の3段階として評定した。
相談内容分類については,研究時までA大学において慣例的に用いられてきた分類を使用した。
相談の転帰は,継続,中断,終結の3つの評定を用いた。各学生相談利用学生について,臨床心理士資格をもつ学生相談カウンセラー2名による協議により評定を行った。
学生相談カウンセラーの連携先については,医療,障害学生支援部門,修学支援部門など,実際の連携先を,より一般化された呼称で用いた。
相談内容分類と連携先をもとに,学生相談カウンセラーに必要とされる対応を類型化した。類型化に際しては,学生相談カウンセラーと,学生相談経験をもつ心理学系大学教員の2名で協議して行った。この2名はいずれも臨床心理士有資格者である。
これらのデータをもとに,その関連について明らかにした。
結 果
危機レベル③の学生は,θ=-1.0からθ=1.9までの間に分布していた。
学生相談カウンセラーに必要とされる対応は,8つに類型化できた。また8つの類型のうち,危機対応が主と考えられる「危機対応型」の学生は,θ=-1.0からθ=0.9までに分布していた。また,その相談転帰はすべて「終結」であり,「中断」はみられなかった。
考 察
学生の危機レベルは,必ずしも精神的健康度とは関連していないことがわかった。
また,主として学生相談カウンセラーによる危機対応が必要とされるか否かについても,必ずしも学生の精神的健康度とは関連してないことがわかった。
これらの点を踏まえ,「病気のある・なし」にかかわらず,「分け隔てなく接する」(高石,2004)という学生相談の理念について,学生の危機レベルや,学生への危機対応が,必ずしも病理とは関連しないという観点から,一定のエビデンスが与えられたといえよう。
わが国の学生相談においては,「病気のある・なし」にかかわらず,「分け隔てなく接する」(高石,2004)ことが,学生対応の理念として共有されつつある。
また,学生が危機対応を必要とする場面,すなわち学生の危機レベルについては,必ずしも病理の程度や有無とは関連しないことは,広く知られている。しかし,この点について,エビデンスを伴う実証研究はなされていない。
目 的
本研究においては,学生の病理と,学生の危機レベル・相談転帰・学生相談カウンセラーの連携先との関連を明らかにすることを目的とする。
方 法
2008年度から2012年度までに,A大学Bキャンパスに入学した大学生1467名(男子690名,女子777名)について,後述の手続きにより,精神的健康度を測定および共通尺度化した。そのうち,2009年度初めから2012年度末までに,新規に学生相談を利用した143名(男子72名,女子71名)を,本研究の調査対象者とした。
精神的健康度の測定には,2008年度入学者には,UPIとGHQ-30を実施した,2009・2010年度入学者には,UPI,GHQ-30,K10の3者,2011年度・2012年度入学者には,UPI-GR(Graded Response)(酒井,2015),GHQ-30,K10を実施した。なお,年度ごとに一部異なる検査を用いているが,項目反応理論を用いた分析により,共通尺度θ上において直接に対比が可能である。項目反応理論による回答データの分析には,EasyEstimationシリーズ(熊谷,2009)のうち,多件法回答への対応版である,EasyEstGRM(熊谷,2015)を使用した。
これらの検査はいずれも,新入生オリエンテーション時に実施された。調査対象者には,実施の際に,結果は個人が特定されないように統計的に処理されること,調査に協力しなくても不利益はないことを明示した。
学生相談を利用した学生の,危機レベルの評価については,窪田(2005)を学生相談に援用した,内野他(2010)による基準を用いた。すなわち,①当事者・関係者レベルへの対応,②部局レベルへの対応,③全学レベルへの対応,の3段階として評定した。
相談内容分類については,研究時までA大学において慣例的に用いられてきた分類を使用した。
相談の転帰は,継続,中断,終結の3つの評定を用いた。各学生相談利用学生について,臨床心理士資格をもつ学生相談カウンセラー2名による協議により評定を行った。
学生相談カウンセラーの連携先については,医療,障害学生支援部門,修学支援部門など,実際の連携先を,より一般化された呼称で用いた。
相談内容分類と連携先をもとに,学生相談カウンセラーに必要とされる対応を類型化した。類型化に際しては,学生相談カウンセラーと,学生相談経験をもつ心理学系大学教員の2名で協議して行った。この2名はいずれも臨床心理士有資格者である。
これらのデータをもとに,その関連について明らかにした。
結 果
危機レベル③の学生は,θ=-1.0からθ=1.9までの間に分布していた。
学生相談カウンセラーに必要とされる対応は,8つに類型化できた。また8つの類型のうち,危機対応が主と考えられる「危機対応型」の学生は,θ=-1.0からθ=0.9までに分布していた。また,その相談転帰はすべて「終結」であり,「中断」はみられなかった。
考 察
学生の危機レベルは,必ずしも精神的健康度とは関連していないことがわかった。
また,主として学生相談カウンセラーによる危機対応が必要とされるか否かについても,必ずしも学生の精神的健康度とは関連してないことがわかった。
これらの点を踏まえ,「病気のある・なし」にかかわらず,「分け隔てなく接する」(高石,2004)という学生相談の理念について,学生の危機レベルや,学生への危機対応が,必ずしも病理とは関連しないという観点から,一定のエビデンスが与えられたといえよう。