10:00 〜 12:00
[PD18] 高校生に残る葉状図形求積数0.57の指導影響
受験用便法指導は本当に無害なのか
キーワード:ごまかし勉強, 葉状図形求積数, 数学教育
問題と目的
藤澤(2002a,2002b) で指摘の「ごまかし勉強」の蔓延は,依然として衰えを見せていない。ごまかし勉強を誘発するテスト出題や指導が未だに横行しているためと考えられる。試験を乗り切る便法指導に悪影響はないと指導者達は主張するが,本当にそう言い切れるのかを知るため,本研究では葉状図形求積数0.57を取り上げ,この影響を調べる。葉状図形とは正方形に内接する2つの四分円弧に囲まれた2頂点図形のことで,「正方形の面積×0.57」を暗記して求積問題に対処する抜け道指導が小学生になされていることが問題視されている。本当に悪影響がないなら,高校生になれば誰でも正攻法で問題解決が可能なはずである。
方 法
首都圏にある私立の中高一貫校(入試Aランク校)の高1男子86名を対象に,1辺8cmの正方形に内接する葉状図形の面積を,設問(1)π≒3.14,設問(2)π≒3.142 に場合分けして計算させる出題の質問紙調査をし,解法を分析した。(解答時間は10分で,生徒の半数は習熟度別2段階編成上位学級,半数は下位学級である。)実施に当たっては結果が成績評価に影響しないことを対象者に伝え,無記名用紙を使い,調査者には本人特定が一切不可能な体制にした。
結 果
この問題の数学的解法は,まず2種類ある円周率をπとおいて一般式32π-64を求めておき,2種の円周率を順に代入すればよい(モデル化型)。一般式を出さないとしても,2題は解法が同一なので,片方の計算過程を利用して,他方の異なる部分の計算だけを行っても解が求められる(数値利用型)。更にモデル化を一切考えずに,2設問を別問題と考え,個々に初めから数値を順に計算して解を求める方法もある(算数解答型)。この3タイプが正攻法である。
有効回答中,正攻法による解答は,上位学級43名中38名,下位学級42名中41名であった。正攻法解答のタイプ別内訳はFigure1の通りになった。
本調査で,設問(1)をπ≒3.14とし,設問(2)をπ≒3.142 に場合分けしたのは,「正方形の面積×0.57」という便法が適用できない時に,どう対処するかを見るためである。
正攻法でない「正方形の面積×0.57」の利用者は,上位学級に5名,下位学級に1名存在し,上位学級の方がはるかに多かった。この6名のうち4名は設問(2)を正攻法で解くことができたが,上位学級の2名はπ≒3.142 の時には解法を見つけ出すことすらできなかった。
考 察
調査対象校は数学に関して習熟度別学級編制を行っているが,Figure 1からわかるように,問題の取り組み方が2学級で異なっており,上位学級の方が一般化しながら問題を解こうとし,下位学級の方が算数的個別対処をしやすい傾向が見られた。
これは,中学時代の数学教師が数学的発想法を教授しようと努力しており,教師の教えを忠実に受容しようとする生徒が,結果的に上位学級に集まった結果だと見ることができる。
「正方形の面積×0.57」は円周率が3.14の場合しか成立せず,0.57は数学的に有意味な定数ではない。しかし0.57は受験指導で広く教えられ,その根拠も説明できない小学生が多いのが実態だ。
今回0.57の利用者が上位学級に多かったのは,受験指導を無批判に受け入れる態度が災いしたとも考えられる。(1)で0.57を利用しても(2)が正攻法で解けるなら悪影響はないだろうが,0.57のせいで思考停止状態に陥った人には,便法指導の悪影響があったことになるだろう。これは他の学校や学年でも調査の必要があると考えられる。
藤澤(2002a,2002b) で指摘の「ごまかし勉強」の蔓延は,依然として衰えを見せていない。ごまかし勉強を誘発するテスト出題や指導が未だに横行しているためと考えられる。試験を乗り切る便法指導に悪影響はないと指導者達は主張するが,本当にそう言い切れるのかを知るため,本研究では葉状図形求積数0.57を取り上げ,この影響を調べる。葉状図形とは正方形に内接する2つの四分円弧に囲まれた2頂点図形のことで,「正方形の面積×0.57」を暗記して求積問題に対処する抜け道指導が小学生になされていることが問題視されている。本当に悪影響がないなら,高校生になれば誰でも正攻法で問題解決が可能なはずである。
方 法
首都圏にある私立の中高一貫校(入試Aランク校)の高1男子86名を対象に,1辺8cmの正方形に内接する葉状図形の面積を,設問(1)π≒3.14,設問(2)π≒3.142 に場合分けして計算させる出題の質問紙調査をし,解法を分析した。(解答時間は10分で,生徒の半数は習熟度別2段階編成上位学級,半数は下位学級である。)実施に当たっては結果が成績評価に影響しないことを対象者に伝え,無記名用紙を使い,調査者には本人特定が一切不可能な体制にした。
結 果
この問題の数学的解法は,まず2種類ある円周率をπとおいて一般式32π-64を求めておき,2種の円周率を順に代入すればよい(モデル化型)。一般式を出さないとしても,2題は解法が同一なので,片方の計算過程を利用して,他方の異なる部分の計算だけを行っても解が求められる(数値利用型)。更にモデル化を一切考えずに,2設問を別問題と考え,個々に初めから数値を順に計算して解を求める方法もある(算数解答型)。この3タイプが正攻法である。
有効回答中,正攻法による解答は,上位学級43名中38名,下位学級42名中41名であった。正攻法解答のタイプ別内訳はFigure1の通りになった。
本調査で,設問(1)をπ≒3.14とし,設問(2)をπ≒3.142 に場合分けしたのは,「正方形の面積×0.57」という便法が適用できない時に,どう対処するかを見るためである。
正攻法でない「正方形の面積×0.57」の利用者は,上位学級に5名,下位学級に1名存在し,上位学級の方がはるかに多かった。この6名のうち4名は設問(2)を正攻法で解くことができたが,上位学級の2名はπ≒3.142 の時には解法を見つけ出すことすらできなかった。
考 察
調査対象校は数学に関して習熟度別学級編制を行っているが,Figure 1からわかるように,問題の取り組み方が2学級で異なっており,上位学級の方が一般化しながら問題を解こうとし,下位学級の方が算数的個別対処をしやすい傾向が見られた。
これは,中学時代の数学教師が数学的発想法を教授しようと努力しており,教師の教えを忠実に受容しようとする生徒が,結果的に上位学級に集まった結果だと見ることができる。
「正方形の面積×0.57」は円周率が3.14の場合しか成立せず,0.57は数学的に有意味な定数ではない。しかし0.57は受験指導で広く教えられ,その根拠も説明できない小学生が多いのが実態だ。
今回0.57の利用者が上位学級に多かったのは,受験指導を無批判に受け入れる態度が災いしたとも考えられる。(1)で0.57を利用しても(2)が正攻法で解けるなら悪影響はないだろうが,0.57のせいで思考停止状態に陥った人には,便法指導の悪影響があったことになるだろう。これは他の学校や学年でも調査の必要があると考えられる。