日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PD(01-83)

ポスター発表 PD(01-83)

2017年10月8日(日) 10:00 〜 12:00 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 〜 12:00

[PD32] ルールの操作による予測活動が後続の課題解決に及ぼす効果

佐藤誠子 (石巻専修大学)

キーワード:ルール学習, 操作, 大学生

問題と目的
 ルール学習場面において,学習者は明示的にルールが教えられても課題解決に適用できないことは多くの先行研究で指摘されている(麻柄他,2006;工藤2005など)。佐藤・永山(2016)は,ルールの適用に関わる学習者要因を検討する中で,事前誤ルール所有者の方が事前個別判断者よりも事後課題でのルール適用が促進されていたこと,ただし事前個別判断者でも,学習過程においてルールに関連する質問を生成していた者は事後課題でルールを一貫して適用できていたことを明らかにした。学習者による質問は,教授されたルールを一旦受け入れ,それが正しいとした場合にどのようなことが予想できるかを導き出すことで生成される。ここにルールの操作が関与するといえる。本研究では,学習過程においてルールの操作による予測を導出させる援助が事後の課題解決を促すかどうかについて検討することを目的とする。
方   法
 調査協力者 私立大学生123名(文系学部90名,理系学部33名)である。
 手続き 心理学関連の講義内で調査冊子を配付し一斉に実施した。調査者が問題を読み上げ,進度を確認しながら行った。実験群と対照群の2群構成であり,実験群では,予想確認の段階においてルールの操作により新たな予測を生成することが求められた。
 課題構成 学習課題として光合成ルールを取り上げた。1事前認識問題:ホウレンソウ,キャベツ,松(以上,葉),ピーマン,キュウリ,エダマメ(以上,実),ヒマワリ,チューリップ(以上,茎),ワカメ,ゼニゴケ(以上,非種子)の写真を提示し,それぞれ光合成の有無をたずねた。2光合成ルールの教授:ルール「光合成は植物の緑色の部分(葉緑体)でおこなわれている」について,ピーマンの実を例に説明した。3スイカ予想:スイカ(実)の緑色部分の光合成の有無について,a)直観でどう思うか,b)先のルールが正しいならばどう思うか,それぞれたずねた。4(1)予想確認:スイカも光合成することをスライド上で説明した。4(2)課題:【実験群】先の光合成ルールが正しいとすると他にどんなことが予想できるか,a~cの文の空欄に自由に記述させた。「a.光合成がおこなわれているところはすべて( )色をしているだろう。b.( )も光合成するだろう。c.( )は光合成しないだろう。」続いて「これまでの説明を受けて,光合成に関してあなたが調べてみたいと思ったこと,疑問に思ったことなどを箇条書きで書いてください」と教示し自由記述を求めた。【対照群】光合成に関して調べてみたいと思ったこと,疑問に思ったことを自由記述させた。5トマト予想:熟す前の緑色のトマト(実)の光合成の有無について3と同様にたずねた。6(1)予想確認:トマトも緑色のときに光合成をし,熟すと葉緑素が分解されリコピン(赤い色素)が増えること,実が赤色になると光合成をしなくなることをスライド上で説明した。6(2)課題:4(2)と同様。実験群では,先のa~cに加えて,d.ルールが正しいとすれば他にどんなことが予想できるかを自由記述させた。7事後認識問題:1の植物10問に加えて,ホワイトアスパラガス,紅葉したカエデの葉(以上,緑以外)の2問を提示し,それぞれ光合成の有無をたずねた。
結果と考察
 事前認識問題の完全正答者および回答不備の者を除く103名(実験群50名,対照群53名)が分析対象者となった。各群における事前認識問題の平均正答数に差がなかったことから2群を等質とみなして分析する。事後認識問題について,葉,実,茎,非種子植物,緑以外の植物それぞれの一貫正答者数の割合を群ごとに算出した(Table1)。その結果,「実」では比率の差が有意であり(χ2(1)=6.59, p<.05),「緑以外」では有意傾向であった(χ2(1)=2.89, p<.10)。ルールの操作による予測活動の援助が,後続のルール適用を促進しえたといえる。ただし,その優位性がみられたのは「実」と「緑以外」のみであった。学習者がルールの適用範囲をある程度限定した形で捉えていた可能性がある。そこで,実験群で生成された予想について6(2)dの記述内容を分析した。その結果,ルールのeg探しとみられる記述(例:豆も光合成するだろう)は4名,ルールの裏操作の記述(例:赤い草は光合成しないだろう)は6名,独自にルールを補強した記述は7名にとどまった。他,提示されたルールの繰り返しが9名,紹介された事例のまとめが5名,無記入・他19名であり再生的思考にとどまる学習者が少なからずみられた。学習目標の達成に向けて思考を方向づけるような援助がさらに必要になることが示唆される。