10:00 AM - 12:00 PM
[PD54] 体力の低下から生じるキャリア危機におけるキャリアレジリエンスの働き
Keywords:キャリアレジリエンス, 体力の低下, キャリア危機
目 的
岡田(2013)によると,企業就業者のトランジション(転機)のきっかけの一つに体力の低下がある。また岡田(2013)によると,体力の低下をきっかけとしたトランジションの心理状態としては,不安,自己の限界・無力感,役割の不透明感,戸惑いやギャップ,試行錯誤がある。このような否定的な心理状態を伴うトランジションはキャリア危機の一つと言える。
キャリア形成上の危機の克服に有効な概念としてキャリアレジリエンスがある。児玉(2015)はキャリアレジリエンスを“キャリア形成を脅かすリスクに直面した時,それに対処してキャリア形成を促す働きをする心理的特性”と定義し,問題対応力,ソーシャルスキル,新奇・多様性,未来志向,援助志向の5つの構成要素から成ることを明らかにした。本研究では,体力の低下から生じるキャリア危機におけるキャリアレジリエンスの働きを明らかにすることを目的とする。
児玉(2015)をふまえ,キャリア危機経験の緩和の働きを確認するため,体力低下を経験した者を対象に,その際の心理的状態とキャリアレジリエンスとの関係を相関分析で明らかにすることとした。また,キャリア危機のキャリア形成に及ぼすネガティブな影響を緩和する働きを確認するため,キャリア形成の諸指標を目的変数とし,統制変数(年齢),キャリア危機経験,キャリアレジリエンス,キャリア危機経験とキャリアレジリエンスの交互作用を説明変数として順に投入する階層的重回帰分析を行い,交互作用項が有意な影響を示した場合は単純傾斜分析を行うこととした。
方 法
2015年12月にWebによる調査を実施し,企業就業者1,000名分(男性500名,女性500名;平均年齢44.10歳)のデータを収集した。キャリアレジリエンス,体力の低下の経験の有無とその際のネガティブな心理状態(不安,無力感,役割の不透明感,戸惑い,試行錯誤の5種類),キャリア形成の指標として職業的アイデンティティと職務内容満足を測定した。
結 果
α係数 キャリアレジリエンスの構成要素のうち問題対応力のα係数は.87,ソーシャルスキルは.84,新奇・多様性は.85,未来志向は.73,援助志向は.78となった。また,児玉・深田(2005)によると職業的アイデンティティは3つの因子から成り,各因子のα係数を算出したところ,職業的実現感のα係数は.77,職業役割獲得感は.76 ,職業的喪失感は.69となった。職業的喪失感はα係数の値が低かったため,以降の分析からは除外することとした。職務内容満足のα係数は.72となった。
相関分析 体力の低下経験者(n=525)を対象に,心理状態として尋ねた5項目の得点とキャリアレジリエンスの得点との相関を算出した。その結果,問題対応力と未来志向は,ネガティブな心理状態の項目のうち3項目以上との間に,新奇・多様性および援助志向は1項目との間に有意もしくは有意傾向の負の相関を示した。
階層的重回帰分析 体力の低下を経験しており,かつそれに伴い否定的な心理状態に陥っている場合,キャリア危機を経験していると判断した。ただしネガティブな心理状態を複数項目で尋ねているため,一つでもその状態に当てはまっていればキャリア危機と判断した。キャリア危機の経験無に0を,経験有に1を代入し,ダミー変数とした。ステップ1で年齢を,ステップ2でキャリア危機経験の有無を,ステップ3でキャリアレジリエンス5因子を,ステップ4でキャリアレジリエンスの各因子とキャリア危機経験の有無との交互作用項をそれぞれ説明変数として投入し,目的変数をキャリア形成の諸指標とした階層的重回帰分析を行った。R2の変化量の有意性検定の結果,ステップ3とステップ4で有意な変化量を示した場合,有意な交互作用項に関して単純傾斜分析を行うこととした。しかし結果としてはステップ3とステップ4でR2の有意な変化量はみられなかった。
考 察
体力の低下を経験した者を対象とした相関分析の結果より,キャリアレジリエンスの構成要素のうちソーシャルスキル以外の4つの保有度合が高いほど,ネガティブな心理状態になりにくい,すなわちこれらの保有がキャリア危機の経験を緩和すると解釈できる。
一方,階層的重回帰分析の結果より,体力の低下によるキャリア危機の経験がキャリア形成に及ぼすネガティブな影響を緩和する働きを示すキャリアレジリエンスの構成要素は確認されなかった。
(本研究は科学研究費助成事業 基盤研究(C)課題番号26380887の助成を受けています)
岡田(2013)によると,企業就業者のトランジション(転機)のきっかけの一つに体力の低下がある。また岡田(2013)によると,体力の低下をきっかけとしたトランジションの心理状態としては,不安,自己の限界・無力感,役割の不透明感,戸惑いやギャップ,試行錯誤がある。このような否定的な心理状態を伴うトランジションはキャリア危機の一つと言える。
キャリア形成上の危機の克服に有効な概念としてキャリアレジリエンスがある。児玉(2015)はキャリアレジリエンスを“キャリア形成を脅かすリスクに直面した時,それに対処してキャリア形成を促す働きをする心理的特性”と定義し,問題対応力,ソーシャルスキル,新奇・多様性,未来志向,援助志向の5つの構成要素から成ることを明らかにした。本研究では,体力の低下から生じるキャリア危機におけるキャリアレジリエンスの働きを明らかにすることを目的とする。
児玉(2015)をふまえ,キャリア危機経験の緩和の働きを確認するため,体力低下を経験した者を対象に,その際の心理的状態とキャリアレジリエンスとの関係を相関分析で明らかにすることとした。また,キャリア危機のキャリア形成に及ぼすネガティブな影響を緩和する働きを確認するため,キャリア形成の諸指標を目的変数とし,統制変数(年齢),キャリア危機経験,キャリアレジリエンス,キャリア危機経験とキャリアレジリエンスの交互作用を説明変数として順に投入する階層的重回帰分析を行い,交互作用項が有意な影響を示した場合は単純傾斜分析を行うこととした。
方 法
2015年12月にWebによる調査を実施し,企業就業者1,000名分(男性500名,女性500名;平均年齢44.10歳)のデータを収集した。キャリアレジリエンス,体力の低下の経験の有無とその際のネガティブな心理状態(不安,無力感,役割の不透明感,戸惑い,試行錯誤の5種類),キャリア形成の指標として職業的アイデンティティと職務内容満足を測定した。
結 果
α係数 キャリアレジリエンスの構成要素のうち問題対応力のα係数は.87,ソーシャルスキルは.84,新奇・多様性は.85,未来志向は.73,援助志向は.78となった。また,児玉・深田(2005)によると職業的アイデンティティは3つの因子から成り,各因子のα係数を算出したところ,職業的実現感のα係数は.77,職業役割獲得感は.76 ,職業的喪失感は.69となった。職業的喪失感はα係数の値が低かったため,以降の分析からは除外することとした。職務内容満足のα係数は.72となった。
相関分析 体力の低下経験者(n=525)を対象に,心理状態として尋ねた5項目の得点とキャリアレジリエンスの得点との相関を算出した。その結果,問題対応力と未来志向は,ネガティブな心理状態の項目のうち3項目以上との間に,新奇・多様性および援助志向は1項目との間に有意もしくは有意傾向の負の相関を示した。
階層的重回帰分析 体力の低下を経験しており,かつそれに伴い否定的な心理状態に陥っている場合,キャリア危機を経験していると判断した。ただしネガティブな心理状態を複数項目で尋ねているため,一つでもその状態に当てはまっていればキャリア危機と判断した。キャリア危機の経験無に0を,経験有に1を代入し,ダミー変数とした。ステップ1で年齢を,ステップ2でキャリア危機経験の有無を,ステップ3でキャリアレジリエンス5因子を,ステップ4でキャリアレジリエンスの各因子とキャリア危機経験の有無との交互作用項をそれぞれ説明変数として投入し,目的変数をキャリア形成の諸指標とした階層的重回帰分析を行った。R2の変化量の有意性検定の結果,ステップ3とステップ4で有意な変化量を示した場合,有意な交互作用項に関して単純傾斜分析を行うこととした。しかし結果としてはステップ3とステップ4でR2の有意な変化量はみられなかった。
考 察
体力の低下を経験した者を対象とした相関分析の結果より,キャリアレジリエンスの構成要素のうちソーシャルスキル以外の4つの保有度合が高いほど,ネガティブな心理状態になりにくい,すなわちこれらの保有がキャリア危機の経験を緩和すると解釈できる。
一方,階層的重回帰分析の結果より,体力の低下によるキャリア危機の経験がキャリア形成に及ぼすネガティブな影響を緩和する働きを示すキャリアレジリエンスの構成要素は確認されなかった。
(本研究は科学研究費助成事業 基盤研究(C)課題番号26380887の助成を受けています)