13:30 〜 15:30
[PE06] 幼児の誤信念理解と実行機能
理由づけ質問と選択肢質問による検討
キーワード:誤信念課題, 実行機能, 理由づけ
目 的
他者の心的状態や欲求の理解についての研究は「心の理論」研究として広く行われている。心の理論を測定する誤信念課題では,およそ4歳から5歳の間に他者の誤った信念を表象し,それに基づく行動の予測が可能になることが明らかとなっている(Wellman, Cross, & Watson, 2001)。
近年では心の理論と実行機能の関連についての研究も多くなされている(e.g., 小川・子安,2008,2010; 島,2017a)。実行機能は目標達成に向けて自身の行動や思考の計画,調整,コントロールを行う機能の総称であり(Carlson, 2005),実行機能の発達が心の理論の発達に影響を与えていると考えられている。
ところで,島(2017b)では心の理論の発達が(1)分かっているが表現できない段階,(2)表現できるが説明できない段階,(3)他者の誤信念を正しく表象し,その理由も説明できる段階,の3段階に分けられる可能性を示唆している。そこで,本研究では心の理論の発達のどの段階において実行機能が影響を与えるのかを検討することを目的とする。
方 法
実験参加者 A県内の幼稚園に通う年少児20名,年中児36名,年長児35名を対象とした。
課題 <誤信念課題> マクシの課題(Wimmer & Perner, 1983)と同型の課題を紙芝居形式で実施した。紙芝居終了後,主人公はどこを探すか(予測質問),なぜそこを探すと考えたか(理由づけ質問)を問い,その後,理由づけに関する4つの選択肢から1つを選択させた(選択肢質問)。本研究ではこのうち,理由づけ質問と選択肢質問を分析の対象とする。<実行機能> 葛藤抑制を測定するために赤/青課題(範囲:0-10),認知的柔軟性を測定するためにDCCS(範囲:0-8),ワーキングメモリを測定するために単語逆唱スパン課題(範囲:1-5)を実施した。
結果と考察
誤信念課題については,理由づけ質問は年少児において誤答者が多く,選択肢質問には学年間に有意な偏りはなかった(Table 1)。また,実行機能の3課題の得点はいずれも年少児と年中児の間で有意な差が認められた。
続いて,選択肢質問と理由づけ質問の正誤を組み合わせて実験参加者を4群に分割した。内訳は,(1)選択肢質問と理由づけ質問のいずれにも正答した者:24名,(2)理由づけ質問に正答し,選択肢質問に誤答した者:15名,(3)選択肢質問に正答し,理由づけ質問に誤答した者:35名,(4)選択肢質問と理由づけ質問のいずれにも誤答した者:17名であった。これら4群において実行機能課題の得点に差があるかを検討したところ,赤/青課題とDCCSにおいては群間差が有意であり,単語逆唱スパン課題においては有意ではなかった。赤/青課題とDCCSについて多重比較(Bonferroni法)を行った結果,赤/青課題においては1群と3・4群の間で,DCCSにおいては1群と3群の間で有意差が認められた(Table 2)。
これらの結果は,理由づけに正答できる者(特に1群)は誤答の者よりも高い実行機能を有していること,選択肢を用いて他者の心を推論する場合には実行機能は関連しないことを示している。先行研究の知見(Frye et al., 1995; Onishi & Baillargeon, 2005; Shima, 2016)と合わせて考えると,実行機能は(1)分かっているが表現できない段階(4群)と(3)他者の誤信念を正しく表象し,その理由も説明できる段階(1・2群)の間((2)表現できるが説明できない段階(3群))に影響するものと考えられる。
他者の心的状態や欲求の理解についての研究は「心の理論」研究として広く行われている。心の理論を測定する誤信念課題では,およそ4歳から5歳の間に他者の誤った信念を表象し,それに基づく行動の予測が可能になることが明らかとなっている(Wellman, Cross, & Watson, 2001)。
近年では心の理論と実行機能の関連についての研究も多くなされている(e.g., 小川・子安,2008,2010; 島,2017a)。実行機能は目標達成に向けて自身の行動や思考の計画,調整,コントロールを行う機能の総称であり(Carlson, 2005),実行機能の発達が心の理論の発達に影響を与えていると考えられている。
ところで,島(2017b)では心の理論の発達が(1)分かっているが表現できない段階,(2)表現できるが説明できない段階,(3)他者の誤信念を正しく表象し,その理由も説明できる段階,の3段階に分けられる可能性を示唆している。そこで,本研究では心の理論の発達のどの段階において実行機能が影響を与えるのかを検討することを目的とする。
方 法
実験参加者 A県内の幼稚園に通う年少児20名,年中児36名,年長児35名を対象とした。
課題 <誤信念課題> マクシの課題(Wimmer & Perner, 1983)と同型の課題を紙芝居形式で実施した。紙芝居終了後,主人公はどこを探すか(予測質問),なぜそこを探すと考えたか(理由づけ質問)を問い,その後,理由づけに関する4つの選択肢から1つを選択させた(選択肢質問)。本研究ではこのうち,理由づけ質問と選択肢質問を分析の対象とする。<実行機能> 葛藤抑制を測定するために赤/青課題(範囲:0-10),認知的柔軟性を測定するためにDCCS(範囲:0-8),ワーキングメモリを測定するために単語逆唱スパン課題(範囲:1-5)を実施した。
結果と考察
誤信念課題については,理由づけ質問は年少児において誤答者が多く,選択肢質問には学年間に有意な偏りはなかった(Table 1)。また,実行機能の3課題の得点はいずれも年少児と年中児の間で有意な差が認められた。
続いて,選択肢質問と理由づけ質問の正誤を組み合わせて実験参加者を4群に分割した。内訳は,(1)選択肢質問と理由づけ質問のいずれにも正答した者:24名,(2)理由づけ質問に正答し,選択肢質問に誤答した者:15名,(3)選択肢質問に正答し,理由づけ質問に誤答した者:35名,(4)選択肢質問と理由づけ質問のいずれにも誤答した者:17名であった。これら4群において実行機能課題の得点に差があるかを検討したところ,赤/青課題とDCCSにおいては群間差が有意であり,単語逆唱スパン課題においては有意ではなかった。赤/青課題とDCCSについて多重比較(Bonferroni法)を行った結果,赤/青課題においては1群と3・4群の間で,DCCSにおいては1群と3群の間で有意差が認められた(Table 2)。
これらの結果は,理由づけに正答できる者(特に1群)は誤答の者よりも高い実行機能を有していること,選択肢を用いて他者の心を推論する場合には実行機能は関連しないことを示している。先行研究の知見(Frye et al., 1995; Onishi & Baillargeon, 2005; Shima, 2016)と合わせて考えると,実行機能は(1)分かっているが表現できない段階(4群)と(3)他者の誤信念を正しく表象し,その理由も説明できる段階(1・2群)の間((2)表現できるが説明できない段階(3群))に影響するものと考えられる。