13:30 〜 15:30
[PE14] 困り感を持つ生徒への発達支援(2)
教師はいつ生徒を”個”で捉え”集団”で捉えるのか
キーワード:生徒認知, 協働, 教師の働きかけ
問題と目的
普通学級にいる子どもの多様化により,教師は様々な働きかけを行っていくことが求められている。蘭(1988)は学級での生徒に対する教師の働きかけが,生徒をどう見るかという生徒認知の仕方に帰属すると述べている。この生徒認知について,松嶋(2005)は教師の生徒指導経験の語りを分析し,教師が生徒を「個‐集団」という2重の視点で捉え,その間を往還しながら生徒指導に当たっていることを示した。しかし,この個と集団という相反する視点間の往還が,生徒指導ではなく授業という個人の集合体の中でどのように為されるのかに関する研究は数少ない。
そこで,本研究では教師の 個と集団という生徒を見る視点の往還プロセスについて,高校での授業を事例的に分析し,その変容の様相を示すことを目的とする。
方 法
神奈川県内の市立定時制高校で,2017年1月23日と1月30日に行った心理学の授業を分析対象とした。この授業のクラスは24人から構成され,1年間通して授業は26回行われた。授業者は筆者であった。この授業の目的は他者と協働することを体験的に学ぶことであり,毎回授業前にアイスブレイクを行い,授業中にもグループワークを多く取り入れている。
授業内容はビデオカメラで撮影され,教師の語りはボイスレコーダーで録音された。データは厳重に保管され,個人情報が漏洩しないように留意された。本研究ではビデオデータ,ボイスレコーダーの録音記録及びTが授業後に書いていた授業の反省日記からこの授業の中での生徒Aと教師Tのやり取りをエピソードにし,質的に分析した。
結果と考察
始めに,1月23日と1月30日の授業にかけてのTとAのエピソードを記述する。
23日の授業においてAはアイスブレイクに参加しなかった。元々協働活動には消極的であったAだが,活動に参加することを拒んだことはなかったため,TはAに声をかけた。調子が悪いのかと尋ねると,やりたくないとAは答える。Tが辛かったら帰っても良いよと言うと,Aは荷物を持って出ていってしまった。Tは授業後,Aの担任へ授業中のAの様子を伝え,「来週も待っている」と伝言してもらうよう依頼した。そして,Aの担任よりAが心理学の授業を受けている仲の良い生徒と別の授業で論争になっていたことが明らかとなった。
30日,Aが授業へ来たため,授業が始まる前にTはAと話したところ,Aは今日もグループワークをやりたくないと言った。そこでTは授業前のアイスブレイクを周囲に気を配りつつ,Aとペアを組んで行った。授業内でのグループワークに差し掛かった時,偶然ペアがいなかった生徒Bにどうするか尋ねたところ,Aとペアを組むと言ってペアを組んだ。授業後,Aの授業の感想を見たところ,楽しくグループ活動をできたという感想が見られた。
このエピソードは(1)Aの協働活動に対する拒否反応,,(2)Aの授業途中退出,(3)授業後のTのフォロー,(4)次週のAの出席とアイスブレイクへの参加,(5)授業内でのグループワークという5場面に分類することができる。(1)ではTは自身の働きかけに対し拒否反応を示したAと接する。従って,個という視点で生徒を捉えていたと考えられる。(2)ではTはAが授業を途中退出したことを止められなかったことから,生徒を集団として捉え,A個人に焦点を当てられなかったことが考えられる。しかし,(3)で集団への注意を向ける必要がなくなったTはAに視点を向けメッセージを送ったため,Aという個人に焦点を当てていたと推察される。(4)では集団を気にしつつも,Aと2人でアイスブレイクを行っていたことから,個人に焦点を当てていたと考えられる。 (5)ではBの自発的な助けが入ったことから,AとBを気にしつつも集団全体を見渡すようになる。従って,生徒を集団として捉えていたことが推察される。
以上より,授業者は自身の働きかけから予期される反応とは異なる反応を示した生徒がいた場合,その生徒を個人として捉え,その他の生徒には焦点を当てていないことが推察された。さらに,個として生徒を捉えるにはそのきっかけが必要であり,そのきっかけがない場合には生徒を集団として捉えていることを示唆された。
普通学級にいる子どもの多様化により,教師は様々な働きかけを行っていくことが求められている。蘭(1988)は学級での生徒に対する教師の働きかけが,生徒をどう見るかという生徒認知の仕方に帰属すると述べている。この生徒認知について,松嶋(2005)は教師の生徒指導経験の語りを分析し,教師が生徒を「個‐集団」という2重の視点で捉え,その間を往還しながら生徒指導に当たっていることを示した。しかし,この個と集団という相反する視点間の往還が,生徒指導ではなく授業という個人の集合体の中でどのように為されるのかに関する研究は数少ない。
そこで,本研究では教師の 個と集団という生徒を見る視点の往還プロセスについて,高校での授業を事例的に分析し,その変容の様相を示すことを目的とする。
方 法
神奈川県内の市立定時制高校で,2017年1月23日と1月30日に行った心理学の授業を分析対象とした。この授業のクラスは24人から構成され,1年間通して授業は26回行われた。授業者は筆者であった。この授業の目的は他者と協働することを体験的に学ぶことであり,毎回授業前にアイスブレイクを行い,授業中にもグループワークを多く取り入れている。
授業内容はビデオカメラで撮影され,教師の語りはボイスレコーダーで録音された。データは厳重に保管され,個人情報が漏洩しないように留意された。本研究ではビデオデータ,ボイスレコーダーの録音記録及びTが授業後に書いていた授業の反省日記からこの授業の中での生徒Aと教師Tのやり取りをエピソードにし,質的に分析した。
結果と考察
始めに,1月23日と1月30日の授業にかけてのTとAのエピソードを記述する。
23日の授業においてAはアイスブレイクに参加しなかった。元々協働活動には消極的であったAだが,活動に参加することを拒んだことはなかったため,TはAに声をかけた。調子が悪いのかと尋ねると,やりたくないとAは答える。Tが辛かったら帰っても良いよと言うと,Aは荷物を持って出ていってしまった。Tは授業後,Aの担任へ授業中のAの様子を伝え,「来週も待っている」と伝言してもらうよう依頼した。そして,Aの担任よりAが心理学の授業を受けている仲の良い生徒と別の授業で論争になっていたことが明らかとなった。
30日,Aが授業へ来たため,授業が始まる前にTはAと話したところ,Aは今日もグループワークをやりたくないと言った。そこでTは授業前のアイスブレイクを周囲に気を配りつつ,Aとペアを組んで行った。授業内でのグループワークに差し掛かった時,偶然ペアがいなかった生徒Bにどうするか尋ねたところ,Aとペアを組むと言ってペアを組んだ。授業後,Aの授業の感想を見たところ,楽しくグループ活動をできたという感想が見られた。
このエピソードは(1)Aの協働活動に対する拒否反応,,(2)Aの授業途中退出,(3)授業後のTのフォロー,(4)次週のAの出席とアイスブレイクへの参加,(5)授業内でのグループワークという5場面に分類することができる。(1)ではTは自身の働きかけに対し拒否反応を示したAと接する。従って,個という視点で生徒を捉えていたと考えられる。(2)ではTはAが授業を途中退出したことを止められなかったことから,生徒を集団として捉え,A個人に焦点を当てられなかったことが考えられる。しかし,(3)で集団への注意を向ける必要がなくなったTはAに視点を向けメッセージを送ったため,Aという個人に焦点を当てていたと推察される。(4)では集団を気にしつつも,Aと2人でアイスブレイクを行っていたことから,個人に焦点を当てていたと考えられる。 (5)ではBの自発的な助けが入ったことから,AとBを気にしつつも集団全体を見渡すようになる。従って,生徒を集団として捉えていたことが推察される。
以上より,授業者は自身の働きかけから予期される反応とは異なる反応を示した生徒がいた場合,その生徒を個人として捉え,その他の生徒には焦点を当てていないことが推察された。さらに,個として生徒を捉えるにはそのきっかけが必要であり,そのきっかけがない場合には生徒を集団として捉えていることを示唆された。