13:30 〜 15:30
[PE27] 児童のネガティブ情動の表出場面における教師の判断
仮想場面における問題認識と教師効力感による影響
キーワード:ネガティブ情動, 教師効力感, 実践的判断
問題と目的
初等教育現場において,児童の情動面に配慮した教育実践の重要性が指摘されて久しい(Mayer, 2014)。しかし,児童に対する情動的支援(emotional support)の効果を検証した先行研究が多く(e.g., Pianta & Stuhlman, 2004),情動的支援を行う教師側に焦点を当てた研究は少ない。
先行研究では,教師が児童のネガティブ情動を問題視し(Eisenberg et al, 1993),対応に情動的消耗を感じることが指摘されている(Tsoulupas et al.,2010)。またこの情動的消耗は,教師効力感が高い教師ならば低減できることもわかっており(Tsoulupas et al.,2010),児童のネガティブ場面に対して蓄積される教師の長期的な問題認識に教師効力感が影響を及ぼすと考えられる。
しかし従来の研究は,児童のネガティブ場面に対する教師の問題認識を,教師が児童に対して指導や支援を行う実践過程において検討していない。そのため,実践を想定した教師の問題認識や実践判断に教師効力感が及ぼす影響については明らかになっていない。そこで本研究は,児童のネガティブ場面における教師の問題認識と実践判断に対し,教師効力感が及ぼす影響を明らかにする。
方 法
公私立小学校22校の教師344名(男性136名,女性208名,平均教職年数13.16年)に協力を依頼し,質問紙調査を行った。
仮想場面の提示 児童がネガティブ情動を表出する仮想場面を提示し,場面における問題認識と実践判断をたずねた。仮想場面は,現職の小学校教員数名と協議し,教師間で問題認識と実践判断の差異が現れやすいと考えられる状況を設定した。
「授業中です。明日の学年発表に向けて準備をしています。まだ発表の準備は終わっていません。そんななか,Aが作った作品をBがあやまって壊してしまいました。Aは怒り,Bの作品を壊して仕返しをしました。2人の様子が気になったCの子たちが,自分たちの活動の手を止め,そばにやってきました。」(Figure 1)
問題認識 当該場面に対する問題認識を(1)他児童問題度(Cの子どもたちに対する問題度)(2)学習重要度(学年発表の準備を進める重要度)の2つの観点から7件法でたずねた。
実践判断 情動の衝動性や一過性,また実践状況のジレンマを鑑み,指導のタイミングと指導場所の2つの観点から対応を選択式でたずね,その選択理由を自由記述式で問うた。その後,選択理由の内容について分類し,3つの実践判断型を得た(「感情焦点型」「学習焦点型」「関係焦点型」)。
教師効力感 教師効力感尺度(春原,2007)の各因子から計16項目を選定した(5件法)。因子分析の結果,「教科指導効力感」(M=3.61, SD=0.91)「生徒指導効力感」(M=3.55, SD=0.96)が得られた。
結果と考察
問題認識に対する教師効力感の影響 他児童問題度(M=2.84, SD=1.46)と学習重要度(M=4.96, SD=1.60)を目的変数とする階層的重回帰分析を行った。Step1 に担当学年,Step 2に担当学年と各教師効力感,Step3 にStep2で投入した説明変数に加え2つの教師効力感の交互作用項を投入したところ,他児童問題度と学習重要度の双方で,いずれのStepにおいても回帰モデルが有意ではなく,AdjR2も.00~.02と低かったことから,問題認識に対する教師効力感の影響は認められなかった。
実践判断に対する教師効力感の影響 指導のタイミングに対する実践判断型を目的変数,各教師効力感,担当学年,各問題認識,また各教師効力感と各問題認識の交互作用項を説明変数として,変数増加法(Wald法)による二項ロジスティック回帰分析を行った。その結果,関係焦点型と学習焦点型の生起確率を説明する適合モデルにおいて,教科指導効力感が高い場合,または他児童問題度が高い場合に,関係焦点型よりも学習焦点型の判断が行われやすいことが明らかとなった。また関係焦点型と感情焦点型の生起確率を説明する適合モデルでは,担当学年が高い場合,または生徒指導効力感が低い場合,あるいは他児童問題度が低い場合に感情焦点型よりも関係焦点型の判断を行う傾向が示された。
考 察
以上より,児童のネガティブ場面の実践過程において,教師効力感は,教師が場面を問題化する過程ではなく,具体的な実践行動を判断する過程において影響することが示唆される。
付記 本研究は博報児童教育振興会「第11回 児童教育実践についての研究助成」の支援を受けた。
初等教育現場において,児童の情動面に配慮した教育実践の重要性が指摘されて久しい(Mayer, 2014)。しかし,児童に対する情動的支援(emotional support)の効果を検証した先行研究が多く(e.g., Pianta & Stuhlman, 2004),情動的支援を行う教師側に焦点を当てた研究は少ない。
先行研究では,教師が児童のネガティブ情動を問題視し(Eisenberg et al, 1993),対応に情動的消耗を感じることが指摘されている(Tsoulupas et al.,2010)。またこの情動的消耗は,教師効力感が高い教師ならば低減できることもわかっており(Tsoulupas et al.,2010),児童のネガティブ場面に対して蓄積される教師の長期的な問題認識に教師効力感が影響を及ぼすと考えられる。
しかし従来の研究は,児童のネガティブ場面に対する教師の問題認識を,教師が児童に対して指導や支援を行う実践過程において検討していない。そのため,実践を想定した教師の問題認識や実践判断に教師効力感が及ぼす影響については明らかになっていない。そこで本研究は,児童のネガティブ場面における教師の問題認識と実践判断に対し,教師効力感が及ぼす影響を明らかにする。
方 法
公私立小学校22校の教師344名(男性136名,女性208名,平均教職年数13.16年)に協力を依頼し,質問紙調査を行った。
仮想場面の提示 児童がネガティブ情動を表出する仮想場面を提示し,場面における問題認識と実践判断をたずねた。仮想場面は,現職の小学校教員数名と協議し,教師間で問題認識と実践判断の差異が現れやすいと考えられる状況を設定した。
「授業中です。明日の学年発表に向けて準備をしています。まだ発表の準備は終わっていません。そんななか,Aが作った作品をBがあやまって壊してしまいました。Aは怒り,Bの作品を壊して仕返しをしました。2人の様子が気になったCの子たちが,自分たちの活動の手を止め,そばにやってきました。」(Figure 1)
問題認識 当該場面に対する問題認識を(1)他児童問題度(Cの子どもたちに対する問題度)(2)学習重要度(学年発表の準備を進める重要度)の2つの観点から7件法でたずねた。
実践判断 情動の衝動性や一過性,また実践状況のジレンマを鑑み,指導のタイミングと指導場所の2つの観点から対応を選択式でたずね,その選択理由を自由記述式で問うた。その後,選択理由の内容について分類し,3つの実践判断型を得た(「感情焦点型」「学習焦点型」「関係焦点型」)。
教師効力感 教師効力感尺度(春原,2007)の各因子から計16項目を選定した(5件法)。因子分析の結果,「教科指導効力感」(M=3.61, SD=0.91)「生徒指導効力感」(M=3.55, SD=0.96)が得られた。
結果と考察
問題認識に対する教師効力感の影響 他児童問題度(M=2.84, SD=1.46)と学習重要度(M=4.96, SD=1.60)を目的変数とする階層的重回帰分析を行った。Step1 に担当学年,Step 2に担当学年と各教師効力感,Step3 にStep2で投入した説明変数に加え2つの教師効力感の交互作用項を投入したところ,他児童問題度と学習重要度の双方で,いずれのStepにおいても回帰モデルが有意ではなく,AdjR2も.00~.02と低かったことから,問題認識に対する教師効力感の影響は認められなかった。
実践判断に対する教師効力感の影響 指導のタイミングに対する実践判断型を目的変数,各教師効力感,担当学年,各問題認識,また各教師効力感と各問題認識の交互作用項を説明変数として,変数増加法(Wald法)による二項ロジスティック回帰分析を行った。その結果,関係焦点型と学習焦点型の生起確率を説明する適合モデルにおいて,教科指導効力感が高い場合,または他児童問題度が高い場合に,関係焦点型よりも学習焦点型の判断が行われやすいことが明らかとなった。また関係焦点型と感情焦点型の生起確率を説明する適合モデルでは,担当学年が高い場合,または生徒指導効力感が低い場合,あるいは他児童問題度が低い場合に感情焦点型よりも関係焦点型の判断を行う傾向が示された。
考 察
以上より,児童のネガティブ場面の実践過程において,教師効力感は,教師が場面を問題化する過程ではなく,具体的な実践行動を判断する過程において影響することが示唆される。
付記 本研究は博報児童教育振興会「第11回 児童教育実践についての研究助成」の支援を受けた。