1:30 PM - 3:30 PM
[PE37] WM容量の小さい学習者の読解における体制化の支援可能性
後置質問を用いた手続き的説明文の読解支援
Keywords:文章理解, ワーキングメモリ, 後置質問
問 題
手続き的説明文では操作の遂行を目的とするため,順序の正確な読解が必要になる。ただし,読解を進めると情報量の増加に伴い,ワーキングメモリ(以下,WM)容量の小さい学習者は分配できる注意資源が少なくなり(苧阪,2014),読解につまずくことがある。このつまずきは認知負荷理論(Sweller,1988)に基づき,学習者のもつWM容量を超える認知負荷がかかるため,と解釈できる。
上記の解釈より,後置質問による体制化への支援がWM容量の小さい学習者に対して有効であると仮定でき,本研究はこの仮説を検証する。
実 験 1
目的
WM容量の小さい学習者に対して,読解における体制化への支援である後置質問が有効か検証する。
方法
参加者:大学生50名。WM容量を測定するために,小林・大久保 (2014) のOperation Span Testにより,WM容量の大群と小群に分けた。群を分ける基準は中央値であった。
説明文:「携帯電話からの119番電話のかけ方」(山本, 2011)を改編して用いた (支援無版)。この説明文の文末に後置質問を挿入した,支援有版を作成した。後置質問の内容は,「携帯電話からの119番電話のかけ方はどのように行えばよいですか」であった。
手続き:体制化のレベルを評価する文配列課題(山本・織田,2014),解答の提示,アンケート,再生テスト,Operation Span Testの順に実施した
結果と考察
まず,配列連得点について,WM容量の大小(2)×支援の有無(2)の分散分析の結果,交互作用に有意傾向がみられた(p <.10)。単純主効果の検定より小群において支援の単純主効果が有意に認められ(p <.05)後置質問が体制化レベルを高めた。また,支援無群においてWM容量の単純主効果が有意であり(p <.05)大群より小群の方が体制化レベルは低かった。次に,再生連得点でも同様の分析を行ったところ,支援の主効果(p <.05)とWM容量の主効果(p <.10)が示された。以上から,体制化レベルで仮説は支持された。一方,再生レベルで交互作用が認められなかった。
実 験 2
目的
読解において,WM容量の小さい学習者に対する後置質問の支援が操作レベルに有効か検証する。
方法
参加者:大学生と大学院生28名。
手続き:実験1と同様であるが,操作課題を加えた。課題内容は,携帯電話からの119番のかけ方についての正確な操作であった。評価指標は久保寺・山本・岸(2008)より,遂行連得点を用いた。
結果と考察
実験1と同様に,配列連得点について分析を行ったところ,支援(p <.05)とWM容量(p <.10)の効果が示された。また,再生連得点では支援の主効果が有意で(p <.01),遂行連得点でも支援の主効果が有意であった(p <.05)。以上から,後置質問主効果に関しては各指標で有意であったが,交互作用に有意差はみられなかった。
総合考察
実験1の体制化レベルで,仮説が支持された。つまり,手続き的説明文に後置質問を挿入すると,WM容量の小さな学習者の体制化を支援することが示されたからである。説明文の読解を進めるに伴い,WM容量の小さい学習者は分配できる注意資源が少なくなり(苧阪,2014),体制化に苦戦すると考えられるが,後置質問の挿入により支援可能性が示された意義は大きい。他方で,こうした体制化レベルへの支援可能性が,再生レベルや操作レベルにつながらなかった点については,そのメカニズムの解明という点で課題が残された。
手続き的説明文では操作の遂行を目的とするため,順序の正確な読解が必要になる。ただし,読解を進めると情報量の増加に伴い,ワーキングメモリ(以下,WM)容量の小さい学習者は分配できる注意資源が少なくなり(苧阪,2014),読解につまずくことがある。このつまずきは認知負荷理論(Sweller,1988)に基づき,学習者のもつWM容量を超える認知負荷がかかるため,と解釈できる。
上記の解釈より,後置質問による体制化への支援がWM容量の小さい学習者に対して有効であると仮定でき,本研究はこの仮説を検証する。
実 験 1
目的
WM容量の小さい学習者に対して,読解における体制化への支援である後置質問が有効か検証する。
方法
参加者:大学生50名。WM容量を測定するために,小林・大久保 (2014) のOperation Span Testにより,WM容量の大群と小群に分けた。群を分ける基準は中央値であった。
説明文:「携帯電話からの119番電話のかけ方」(山本, 2011)を改編して用いた (支援無版)。この説明文の文末に後置質問を挿入した,支援有版を作成した。後置質問の内容は,「携帯電話からの119番電話のかけ方はどのように行えばよいですか」であった。
手続き:体制化のレベルを評価する文配列課題(山本・織田,2014),解答の提示,アンケート,再生テスト,Operation Span Testの順に実施した
結果と考察
まず,配列連得点について,WM容量の大小(2)×支援の有無(2)の分散分析の結果,交互作用に有意傾向がみられた(p <.10)。単純主効果の検定より小群において支援の単純主効果が有意に認められ(p <.05)後置質問が体制化レベルを高めた。また,支援無群においてWM容量の単純主効果が有意であり(p <.05)大群より小群の方が体制化レベルは低かった。次に,再生連得点でも同様の分析を行ったところ,支援の主効果(p <.05)とWM容量の主効果(p <.10)が示された。以上から,体制化レベルで仮説は支持された。一方,再生レベルで交互作用が認められなかった。
実 験 2
目的
読解において,WM容量の小さい学習者に対する後置質問の支援が操作レベルに有効か検証する。
方法
参加者:大学生と大学院生28名。
手続き:実験1と同様であるが,操作課題を加えた。課題内容は,携帯電話からの119番のかけ方についての正確な操作であった。評価指標は久保寺・山本・岸(2008)より,遂行連得点を用いた。
結果と考察
実験1と同様に,配列連得点について分析を行ったところ,支援(p <.05)とWM容量(p <.10)の効果が示された。また,再生連得点では支援の主効果が有意で(p <.01),遂行連得点でも支援の主効果が有意であった(p <.05)。以上から,後置質問主効果に関しては各指標で有意であったが,交互作用に有意差はみられなかった。
総合考察
実験1の体制化レベルで,仮説が支持された。つまり,手続き的説明文に後置質問を挿入すると,WM容量の小さな学習者の体制化を支援することが示されたからである。説明文の読解を進めるに伴い,WM容量の小さい学習者は分配できる注意資源が少なくなり(苧阪,2014),体制化に苦戦すると考えられるが,後置質問の挿入により支援可能性が示された意義は大きい。他方で,こうした体制化レベルへの支援可能性が,再生レベルや操作レベルにつながらなかった点については,そのメカニズムの解明という点で課題が残された。