日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PF(01-81)

ポスター発表 PF(01-81)

2017年10月8日(日) 16:00 〜 18:00 白鳥ホールB (4号館1階)

16:00 〜 18:00

[PF04] 子どもの行動を引き出す保育士の言葉がけ方略

保育場面の発話分析から

佐々木宏之1, 栗原ひとみ2 (1.新潟中央短期大学, 2.植草学園大学)

キーワード:保育士, 言葉がけ, 発話分析

背景と目的
 保育士は状況や対象に応じた言葉がけを選ぶことで,子どもの意欲を引き出し,あるいは行動を制止して,子どもの自己制御機能の発達を促している。Sasaki & Hayashi(2015)は子どもの自己制御を促す言葉がけに関して質問紙を作成し,親や保育士が場面に応じてポジティブ表現(元気になれる・バイ菌がないなくなる)とネガティブ表現(元気になれない・バイ菌が取れない)を使い分けることを見出した。佐々木・栗原(2016)は,保育場面での保育士の発話を記録し,ポジネガの使い分けが実際に採られていることを確認した。
 佐々木・栗原(2016)の分析は,言葉がけの限られた一面に焦点をあてているため,本研究では子どもの行動を引き出すために行っている多様な言葉がけを分類し,保育士の言葉がけの工夫の実際を検討した。
方   法
調査対象:新潟県内の保育園に勤務する保育士11名(保育経験年数2~40年)。
調査期間:2015年1~3月。
記録方法:保育士のエプロンにピンマイクを装着し,午前中の約2時間の発話をICレコーダーで録音した。同時に,発話状況の把握のため,保育の様子をハンディカメラで撮影した。
分析方法:保育士の発話データから子どもの行動を促す,あるいは制止する言葉がけを抽出し,Dennis et al. (2002)やDennis(2006),佐々木・栗原(2016)のコーディング方法をもとに,保育士の言葉がけを次の8通りのカテゴリーに分類した。
指示:「~して」「~します」のように,子どもに求める行動を命令文や平叙文で明言する。
確認:「~する?」「~できる?」「~してくれる?」のように,子どもにする意思があるか,することが可能かを疑問文で尋ねる。
勧誘:「~しよう」のように勧誘の助動詞を伴う表現や「~しようかな?」「~できるかな?」のように子どもの意欲や行動を誘い出す表現。
提案:「~すれば」「~したら」のように,行動のヒントを与え,子どもに判断を委ねる。
許可:「~していいよ」「どうぞ」のように,子どもの行動を許可する。
代弁:「~だって」のように,他の子どもの要求などを代弁する。
ポジティブ焦点:「大丈夫」「きれい」「喜ぶ」など,ポジティブな事態に焦点を当てる。
ネガティブ焦点:「危ない」「壊れる」「悲しい」など,ネガティブな事態に焦点を当てる。
 以上の分類に加えて,子どもの応答を喚起する疑問形の発話の頻度と,言葉がけにやわらかい印象を付加する終助詞「な」「よ」「ね」の頻度を検討した。
結果と考察
 いずれの保育士も指示的な言葉がけが大半を占めるという結果は,和田(2008)などの先行研究と一致している。全体的に見ると,指示,確認,勧誘,提案の順で頻度が高い。この順で子どもへの統制力は強く,したがって逆に提案,勧誘,確認,指示の順で子どもの主体性を期待する度合いが高いと考えられる。こうした言葉がけの使い分けと対象児の年齢の間に関係は見出されなかった。