16:00 〜 18:00
[PF21] 科学技術の社会問題に対する大学生の意志決定と知識活用
遺伝子医療技術を事例として
キーワード:科学技術の社会問題, 知識活用, 意思決定
問題・目的
市民の科学参加が求められる現在,基本的な科学の知識を保持し,意思決定等に活用することは,重要な市民リテラシーである。しかし,科学技術の社会問題を扱った研究では,議論や意思決定で,科学的知識があまり使われない実態が示されている(Zohar & Nemet, 2002他)。本研究では,Venville & Dawson(2010)の課題を参考に,遺伝に関する内容知識の獲得とその活用を,大学生で調査する。
方 法
参加者と手続き:大学生124名に,集団で質問紙調査を実施した。対象者の内訳は,男性78名,女性46名,理系専攻28名,文系専攻96名であった。
課題:遺伝に関する知識を問う選択肢問題6問,遺伝病を扱う記述式問題5問からなる知識理解課題と,遺伝子医療技術の社会問題2件を提示し意思決定を記述させる知識活用課題2問を出題した。
結果・考察
1.遺伝に関する知識理解
知識理解課題の小問ごとの正答率をTable 1に示す。解答の分布を考慮し,複対立遺伝,第2世代の遺伝子型の分布,感染の可能性,第2世代の表現型(検査後)の4小問に部分点を設定した。選択肢問題6問の得点の合計を選択得点,記述式問題5問の得点の合計を記述得点とした。満点は7点,10点となる。参加者全体の平均値は,選択得点3.3(SD= 1.2) ,記述得点6.1(SD=2.7)であり,どちらの得点にも,性差ならびに現在の専攻による差はなかった。Table 2は,高校時代の生物関係科目の履修状況ごとの平均得点である。履修状況による差が記述得点で認められ,複数科目履修者の得点が他の2群を上回っていた。
2.意思決定での知識活用
知識活用課題における意思決定の理由の記述を,遺伝に関する内容知識を用いたもの,その他の理由を用いたもの,理由記述なし,の3カテゴリーに分類した。問題ごとの分類結果をTable 3に示す。内容知識の活用に性差,専攻差はなかった。内容知識を活用した者とその他の者とで,選択得点と記述得点の平均値を比較したところ,ジレンマ強の社会問題で,記述得点に有意差が見られた(知識活用群7.1点(SD=2.3)>その他群6.0点(SD=2.7))。
3. 結論
遺伝に関する知識の獲得は,内容によって差があり,また,現在の専攻に関わらず,高校時代に生物関係科目を複数受講していた者の得点が高かった。意思決定における内容知識の活用は多くはなかったが,問題によっては,内容知識の豊富さが知識活用と関わることが明らかになった。
附記 JSPS科研費(17H01979,15K12381)の助成ならびに所属の研究倫理審査委員会の承認を受けた。
市民の科学参加が求められる現在,基本的な科学の知識を保持し,意思決定等に活用することは,重要な市民リテラシーである。しかし,科学技術の社会問題を扱った研究では,議論や意思決定で,科学的知識があまり使われない実態が示されている(Zohar & Nemet, 2002他)。本研究では,Venville & Dawson(2010)の課題を参考に,遺伝に関する内容知識の獲得とその活用を,大学生で調査する。
方 法
参加者と手続き:大学生124名に,集団で質問紙調査を実施した。対象者の内訳は,男性78名,女性46名,理系専攻28名,文系専攻96名であった。
課題:遺伝に関する知識を問う選択肢問題6問,遺伝病を扱う記述式問題5問からなる知識理解課題と,遺伝子医療技術の社会問題2件を提示し意思決定を記述させる知識活用課題2問を出題した。
結果・考察
1.遺伝に関する知識理解
知識理解課題の小問ごとの正答率をTable 1に示す。解答の分布を考慮し,複対立遺伝,第2世代の遺伝子型の分布,感染の可能性,第2世代の表現型(検査後)の4小問に部分点を設定した。選択肢問題6問の得点の合計を選択得点,記述式問題5問の得点の合計を記述得点とした。満点は7点,10点となる。参加者全体の平均値は,選択得点3.3(SD= 1.2) ,記述得点6.1(SD=2.7)であり,どちらの得点にも,性差ならびに現在の専攻による差はなかった。Table 2は,高校時代の生物関係科目の履修状況ごとの平均得点である。履修状況による差が記述得点で認められ,複数科目履修者の得点が他の2群を上回っていた。
2.意思決定での知識活用
知識活用課題における意思決定の理由の記述を,遺伝に関する内容知識を用いたもの,その他の理由を用いたもの,理由記述なし,の3カテゴリーに分類した。問題ごとの分類結果をTable 3に示す。内容知識の活用に性差,専攻差はなかった。内容知識を活用した者とその他の者とで,選択得点と記述得点の平均値を比較したところ,ジレンマ強の社会問題で,記述得点に有意差が見られた(知識活用群7.1点(SD=2.3)>その他群6.0点(SD=2.7))。
3. 結論
遺伝に関する知識の獲得は,内容によって差があり,また,現在の専攻に関わらず,高校時代に生物関係科目を複数受講していた者の得点が高かった。意思決定における内容知識の活用は多くはなかったが,問題によっては,内容知識の豊富さが知識活用と関わることが明らかになった。
附記 JSPS科研費(17H01979,15K12381)の助成ならびに所属の研究倫理審査委員会の承認を受けた。