日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PF(01-81)

ポスター発表 PF(01-81)

2017年10月8日(日) 16:00 〜 18:00 白鳥ホールB (4号館1階)

16:00 〜 18:00

[PF23] 十進数としての特徴に関する児童の認識

小学5年「整数と小数」の授業実践を通して

大西理加 (吹田市立山手小学校)

キーワード:十進数, 認識, 整数と小数

問題と目的
 本研究は,算数科において十進数としての特徴に関する通常学級在籍の小学5年生児童の認識を明らかにすることを目的とした実践研究である。
 大西(2016)は,支援学級在籍児童が与えられた小数を10倍するという課題をかけ算と結びつけて解いていくことは難しかったと述べている。対象児には,「小数点が移動する」という思考は,実感をともなって理解することが難しかったと推測される。そこで,本研究では大西(2014)の小数点の移動の指導について検証しながら,通常学級で小数の10倍,1/10の指導をし,数の大きさ,小数点の操作,位の変わり方の統合的理解を支える教授法研究の第1歩としたい。

方   法
 対象は,小学5年86名。実践は,2017年4月に実施された。授業は東京書籍5上「数のしくみをしらべよう」に基づいて5時間,テスト(喜楽研)を2回行った。3クラスをそれぞれ2分割し,担任と少人数指導担当教員で指導した。
 本研究では,2回目のテストの問いに対する記述を分析し,論じていく。その際,教師の指導の違いは考慮しない。

結果と考察
 今回,注目する課題は以下のものである。
42.195を10倍,100倍,1000倍,また,1/10倍,1/100倍にしたとき,小数点の位置がどのように移るか説明しましょう。
①10倍,100倍,1000倍にしたとき
②1/10倍,1/100倍にしたとき
(正答:①小数点はそれぞれ右へ1けた,2けた,3けたうつる。
②小数点はそれぞれ左へ1けた,2けたうつる。)正答の判別基準は①,②ともに正しく解答していることとした。
結果 調査の結果,正答 29人(34%),誤答 57人(66%)であった。誤答の原因を推測し,以下のように分類した。
[説明不十分型] 17人(20%)
問題は理解しているが,説明が不十分。(例:「小数点が右に動く」動く桁の数を説明していない。または,10倍や1/10の場合しか説明していない。)
[小数点と位の概念の混乱型] 22人(26%)
小数点の位置は変わらず,数字が動くイメージを持っていたり,小数点の左右の向きを逆にしたりするなどしており,小数点と位の概念が混乱していると推察した。(例:「位の数が1つ右にずれる」)
[操作方法説明型] 12人(14%)
日頃の問題の解き方をそのまま文章化している。(例:「0の数だけ動く」10倍なら0が1つなので,小数点は右に1つ動くという意味)
[図優位型] 6人(7%)
教科書の図や,その図を見て気づいた小数点の動きを書く。また,10倍,100倍した数字だけを書いていた。
考察 このように,全体の半数が説明不十分という観点では論じきれない誤りをしていた。大西(2016)は,支援学級在籍児童は数の10倍,1/10理解や操作の難しさについて述べているが,本研究では通常学級在籍児童にとっても数の大きさ,小数点の操作,位の変わり方の統合的な理解は容易ではないことが明らかになった。
 今後の課題として,2つの教授法の工夫を考えている。①「位が上がる,下がる」とはどういうことかを理解させるためのもの。②数の大きさを小数点や位の変化と関連づけて,変化を実感できるような教授法の工夫である。また,調査についても,指導者の違いを観点に加えるなど,より詳細なデータ収集・分析を行い,数の大きさと小数点の操作,位の変わり方の統合的な理解の道筋に迫りたい。