16:00 〜 18:00
[PF28] 学習全般に対する学習観と英語学習に対する学習観の関連
交差遅延効果モデルによる因果関係の検証
キーワード:学習観, 英語学習, 領域固有性
問題と目的
学習者が学習をどのように捉えているかという個人の信念は,学習行動に大きな影響を与える心理的要因である。近年は,特定の学問領域における信念の機能や,学問領域ごとの信念の機能の違いを検証した研究,すなわち信念の領域固有性に注目した研究が行われている。
Buehl & Alexander(2006)は,信念の領域固有性に関するモデルを提案し,どの学問領域にも共通するような信念が特定の学問領域に対する信念を規定することを示唆している。また,領域共通の信念と領域固有の信念の双方を取り上げた研究でも,前者から後者への因果関係を仮定したモデルが示されている(Schommer-Aikins & Duell, 2013)。その一方で,赤松(印刷中)は,特定の教科における学習経験に基づく信念が,学習全般に対する信念に一般化されるという逆方向の因果関係も存在する可能性を指摘している。そのため,両者の厳密な因果関係の検証が求められる。
本研究では,学習の成立や効果的な学習に対する信念である学習観を取り上げる。また,大学1年生の4月と7月における英語学習を対象とする。我が国では,高校との授業形式の違いから,大学の英語学習に対して戸惑いを覚える学生は少なくない(金岡, 2013)。学習全般についても同様で,大学入学時の学習観に対する支援は高等教育実践における重要な課題である(清水・三保, 2011)。両者の因果関係を明確にして,原因となる方の学習観への支援を図ることが,結果的にもう一方の学習観の改善にもつながり,学問領域を越えた学習観の包括的な支援が可能になると考えられる。
方 法
調査時期 2015年4月(T1)および2015年7月(T2)に実施した。
調査協力者 西日本の大学に在学する大学1年生351名(男性131名,女性220名,平均年齢18.41歳(SD=0.61歳))。
質問紙 領域共通の学習観 鈴木(2013)より,学習内容の意味理解を重視する「意味理解志向」6項目を取り上げた。英語学習に対する学習観 赤松(印刷中)より,英語学習において日常生活場面における英語使用を重視する「活用志向」5項目を取り上げた。
結 果
まず,意味理解志向と活用志向に関して確認的因子分析を行った。T1の意味理解志向において因子負荷量の低い1項目を削除し再度分析を行った。その結果,意味理解志向,活用志向いずれにおいても,適合度指標は許容できる値を示した。
次に,交差遅延効果モデルによる因果関係の検証を行った(Figure 1)。自己回帰のパスに加えて,T1の意味理解志向からT2の活用志向へのパスが有意であった(b*=.18, p<.01)。その一方,T1の活用志向からT2の意味理解志向へのパスは有意ではなかった(b*=.04, p=.41.)。
考 察
交差遅延効果モデルの結果,意味理解志向から活用志向への因果関係のみが示された。この結果は,領域固有の信念が領域共通の信念から生じると示唆した知見(Buehl & Alexander, 2006)と整合し,先行研究のモデルの妥当性を裏付けるものである。学習全般において学習内容の意味理解を重視する学習観が,英語学習において日常生活での英語使用を重視する学習観に影響を与えると考えられる。学習全般に対する学習観への支援を大学入学時に行うことで,英語学習に対する7月の学習観も改善されることが示唆される。本研究では,学問領域は英語に限定したが,学習全般に対する学習観が,英語に限らない多様な領域に対する信念に影響を及ぼす可能性も考えられる。
本研究の課題を以下に挙げる。本研究では4月と7月の2時点を対象とした。長期発達的な観点では,領域共通の信念と領域固有の信念の間には相互的な因果関係があることも示唆されている(Muis et al., 2006)。今後は,さらに長期的にデータを収集し,時期に応じて信念間の因果の方向性が変化することを視野に入れた検討が求められる。
学習者が学習をどのように捉えているかという個人の信念は,学習行動に大きな影響を与える心理的要因である。近年は,特定の学問領域における信念の機能や,学問領域ごとの信念の機能の違いを検証した研究,すなわち信念の領域固有性に注目した研究が行われている。
Buehl & Alexander(2006)は,信念の領域固有性に関するモデルを提案し,どの学問領域にも共通するような信念が特定の学問領域に対する信念を規定することを示唆している。また,領域共通の信念と領域固有の信念の双方を取り上げた研究でも,前者から後者への因果関係を仮定したモデルが示されている(Schommer-Aikins & Duell, 2013)。その一方で,赤松(印刷中)は,特定の教科における学習経験に基づく信念が,学習全般に対する信念に一般化されるという逆方向の因果関係も存在する可能性を指摘している。そのため,両者の厳密な因果関係の検証が求められる。
本研究では,学習の成立や効果的な学習に対する信念である学習観を取り上げる。また,大学1年生の4月と7月における英語学習を対象とする。我が国では,高校との授業形式の違いから,大学の英語学習に対して戸惑いを覚える学生は少なくない(金岡, 2013)。学習全般についても同様で,大学入学時の学習観に対する支援は高等教育実践における重要な課題である(清水・三保, 2011)。両者の因果関係を明確にして,原因となる方の学習観への支援を図ることが,結果的にもう一方の学習観の改善にもつながり,学問領域を越えた学習観の包括的な支援が可能になると考えられる。
方 法
調査時期 2015年4月(T1)および2015年7月(T2)に実施した。
調査協力者 西日本の大学に在学する大学1年生351名(男性131名,女性220名,平均年齢18.41歳(SD=0.61歳))。
質問紙 領域共通の学習観 鈴木(2013)より,学習内容の意味理解を重視する「意味理解志向」6項目を取り上げた。英語学習に対する学習観 赤松(印刷中)より,英語学習において日常生活場面における英語使用を重視する「活用志向」5項目を取り上げた。
結 果
まず,意味理解志向と活用志向に関して確認的因子分析を行った。T1の意味理解志向において因子負荷量の低い1項目を削除し再度分析を行った。その結果,意味理解志向,活用志向いずれにおいても,適合度指標は許容できる値を示した。
次に,交差遅延効果モデルによる因果関係の検証を行った(Figure 1)。自己回帰のパスに加えて,T1の意味理解志向からT2の活用志向へのパスが有意であった(b*=.18, p<.01)。その一方,T1の活用志向からT2の意味理解志向へのパスは有意ではなかった(b*=.04, p=.41.)。
考 察
交差遅延効果モデルの結果,意味理解志向から活用志向への因果関係のみが示された。この結果は,領域固有の信念が領域共通の信念から生じると示唆した知見(Buehl & Alexander, 2006)と整合し,先行研究のモデルの妥当性を裏付けるものである。学習全般において学習内容の意味理解を重視する学習観が,英語学習において日常生活での英語使用を重視する学習観に影響を与えると考えられる。学習全般に対する学習観への支援を大学入学時に行うことで,英語学習に対する7月の学習観も改善されることが示唆される。本研究では,学問領域は英語に限定したが,学習全般に対する学習観が,英語に限らない多様な領域に対する信念に影響を及ぼす可能性も考えられる。
本研究の課題を以下に挙げる。本研究では4月と7月の2時点を対象とした。長期発達的な観点では,領域共通の信念と領域固有の信念の間には相互的な因果関係があることも示唆されている(Muis et al., 2006)。今後は,さらに長期的にデータを収集し,時期に応じて信念間の因果の方向性が変化することを視野に入れた検討が求められる。