16:00 〜 18:00
[PF33] 看護学生の情緒知能と他者とのかかわりに関する研究
入学時・1年後・2年後の縦断調査
キーワード:看護学生, 情動知能, かかわり先
問題と目的
高度な看護実践能力には,継続的学習が不可欠であり,その育成には省察的実践と臨床における学びの振り返りが有効といわれている。リフレクションの土台となるスキル“自己への気づき (Self-Awareness)”は,自身の情動の評価や分析によって可能であり(S. Atkinsら: 1993),リフレクションは他者とのかかわりや他者からの支援によって引き出され養われる(P. Smithら: 2001)。本研究者らは,看護師を養成する看護基礎教育課程において学生の情動知能(Emotional Intelligence, 以下EI)を教育によって高めていく必要があると考えた。一方で,現代の看護学生の周囲への無関心や対人関係の希薄が指摘されている(菱沼ら: 2013)。
本研究に先立って,本研究者らは,看護学生の入学時と入学半年後のEI及び他者とのかかわりの実態を調査した。その結果,入学時のEIは入学半年後に有意に上昇し,かかわり先では教員とのかかわりが増加する傾向があった(石井他: 2016)。本研究では引き続き,看護学生のEIと他者とのかかわりが学習進度とともにどのような特徴を示すのか,縦断調査により明らかにすることを目的とした。
方 法
調査協力施設及び対象者は,専門学校2校であり,2015年度に入学した3年課程の看護学生83名である。調査内容は,対象者の属性及び日本版Emotional Skills & Competence Questionnaire(豊田ら: 2005,以下ESCQ),日ごろ看護を学ぶ上で大切にしているかかわり先である。ESCQは24項目,下位尺度は[表現と命名],[認識と理解],[制御と調整],得点が高いほどEIが高い(5段階評定)。かかわり先は[クラスメイト][担任][学内の先輩]など11項目から上位3項目の回答を得た。調査票は,連結可能匿名化IDを付し,入学時と入学1年後・2年後の3時点で配布・回収した。分析は,入学時ESCQ平均得点を用い,2群化した。2群の3時点におけるESCQ24項目(以下[ESCQ])の平均得点を算出し,分散分析及び多重比較検定,さらに傾向検定を行った。かかわり先(多重回答)はクロス集計により比較した。
本研究は,責任研究者の所属機関及び調査協力施設倫理審査委員会の承認を得て実施した。
結果と考察
分析対象者は入学時83名,平均年齢18.6歳(SD 1.4),女子78名と男子5名であった。入学時ESCQ平均得点3.31(SD 0.52,範囲2.25-4.54)を用い,低群(n=41)と高群(n=42)に分けた。2群の3時点における[ESCQ]を分散分析(反復測定)した結果,2群ともに有意な差が見られた(低群{F(1.616, 58.18)=8.117,p<0.01},高群{F(2, 72)=7.623, p<0.01})。多重比較検定(Bonferroni補正)では,2群の入学時と1年後,入学時と2年後に有意な差が見られた(Table 1)。さらに,傾向検定(Jonckheere-Terpstra Test)の結果,低群に有意な差が見られた(p<0.01)。このことから,入学時にEIが低かった学生(低群)の[ESCQ]は,学習進度とともに有意に向上するといえる。
かかわり先は,入学時に教員([担任][担任以外の教員])を選択した者は,低群7.4%,高群11.1%であったが,1年後には低群24.6%,高群18.3%に増加していた。この理由として,1年次後学期の臨地実習指導が考えられる。高群と教員とのかかわりは2年後も22.5%と増加するものの,低群は17.0%に減少し,その代わり他校の学生とのかかわりが増加する傾向がみられた。また,高群は,学習進度とともにアルバイト先のかかわり先([先輩][同期])を減らし,入学時(7.3%)と1年後(4.2%)以上に就職している同級生とのかかわりを選択していた(2年後 13.5%)。2群とも学習が進むにつれてアルバイト先とのかかわりは減少していた。
低群と高群の3時点におけるかかわり先には明確な違いは見られなかった。しかし,低群[ESCQ]が学習進度とともに有意に向上すること,とくに1年後に有意に向上することを踏まえると,担任や教員とかかわりは[ESCQ]向上に影響を与えている可能性が高いことが示唆された。
高度な看護実践能力には,継続的学習が不可欠であり,その育成には省察的実践と臨床における学びの振り返りが有効といわれている。リフレクションの土台となるスキル“自己への気づき (Self-Awareness)”は,自身の情動の評価や分析によって可能であり(S. Atkinsら: 1993),リフレクションは他者とのかかわりや他者からの支援によって引き出され養われる(P. Smithら: 2001)。本研究者らは,看護師を養成する看護基礎教育課程において学生の情動知能(Emotional Intelligence, 以下EI)を教育によって高めていく必要があると考えた。一方で,現代の看護学生の周囲への無関心や対人関係の希薄が指摘されている(菱沼ら: 2013)。
本研究に先立って,本研究者らは,看護学生の入学時と入学半年後のEI及び他者とのかかわりの実態を調査した。その結果,入学時のEIは入学半年後に有意に上昇し,かかわり先では教員とのかかわりが増加する傾向があった(石井他: 2016)。本研究では引き続き,看護学生のEIと他者とのかかわりが学習進度とともにどのような特徴を示すのか,縦断調査により明らかにすることを目的とした。
方 法
調査協力施設及び対象者は,専門学校2校であり,2015年度に入学した3年課程の看護学生83名である。調査内容は,対象者の属性及び日本版Emotional Skills & Competence Questionnaire(豊田ら: 2005,以下ESCQ),日ごろ看護を学ぶ上で大切にしているかかわり先である。ESCQは24項目,下位尺度は[表現と命名],[認識と理解],[制御と調整],得点が高いほどEIが高い(5段階評定)。かかわり先は[クラスメイト][担任][学内の先輩]など11項目から上位3項目の回答を得た。調査票は,連結可能匿名化IDを付し,入学時と入学1年後・2年後の3時点で配布・回収した。分析は,入学時ESCQ平均得点を用い,2群化した。2群の3時点におけるESCQ24項目(以下[ESCQ])の平均得点を算出し,分散分析及び多重比較検定,さらに傾向検定を行った。かかわり先(多重回答)はクロス集計により比較した。
本研究は,責任研究者の所属機関及び調査協力施設倫理審査委員会の承認を得て実施した。
結果と考察
分析対象者は入学時83名,平均年齢18.6歳(SD 1.4),女子78名と男子5名であった。入学時ESCQ平均得点3.31(SD 0.52,範囲2.25-4.54)を用い,低群(n=41)と高群(n=42)に分けた。2群の3時点における[ESCQ]を分散分析(反復測定)した結果,2群ともに有意な差が見られた(低群{F(1.616, 58.18)=8.117,p<0.01},高群{F(2, 72)=7.623, p<0.01})。多重比較検定(Bonferroni補正)では,2群の入学時と1年後,入学時と2年後に有意な差が見られた(Table 1)。さらに,傾向検定(Jonckheere-Terpstra Test)の結果,低群に有意な差が見られた(p<0.01)。このことから,入学時にEIが低かった学生(低群)の[ESCQ]は,学習進度とともに有意に向上するといえる。
かかわり先は,入学時に教員([担任][担任以外の教員])を選択した者は,低群7.4%,高群11.1%であったが,1年後には低群24.6%,高群18.3%に増加していた。この理由として,1年次後学期の臨地実習指導が考えられる。高群と教員とのかかわりは2年後も22.5%と増加するものの,低群は17.0%に減少し,その代わり他校の学生とのかかわりが増加する傾向がみられた。また,高群は,学習進度とともにアルバイト先のかかわり先([先輩][同期])を減らし,入学時(7.3%)と1年後(4.2%)以上に就職している同級生とのかかわりを選択していた(2年後 13.5%)。2群とも学習が進むにつれてアルバイト先とのかかわりは減少していた。
低群と高群の3時点におけるかかわり先には明確な違いは見られなかった。しかし,低群[ESCQ]が学習進度とともに有意に向上すること,とくに1年後に有意に向上することを踏まえると,担任や教員とかかわりは[ESCQ]向上に影響を与えている可能性が高いことが示唆された。