16:00 〜 18:00
[PF47] 大学生の授業における動機づけの社会的伝達モデルの検討(3)
学習者の動機づけおよび期待の個人差による検討
キーワード:動機づけの社会的伝達, 期待認知, 内発的動機づけ
問題と目的
学習意欲を考える上で,重要な意味をもつかかわりの一つとして,教師―学生関係があげられる(中谷,2012)。近年では,教師がどう指導するかという教授の内容や質だけではなく,教師自身がどのような動機づけをもつかという情緒的な要因が注目されている(e.g.,Keller,Goetz,Becker,Morger,& Hensley,2014)。
教師の動機づけが学習者に伝わるプロセスを説明したモデルとして動機づけの社会的伝達モデル(Social contagion of motivation model:Wild & Enzle,2002)があげられる。このモデルは,教師の指導や課題内容が同じでも,教師自身が教えることに対してどの程度内発的動機づけをもつかによって,学習者の課題に対する内発的動機づけが影響されるというものである(Wild,Enzle,& Hawkins,1992)。Wild & Enzle(2002)は,学習者が教師の内発的動機づけを認知することで,学習内容や教師の教え方に期待をもち,その期待が学習者の内発的動機づけに影響するとしている。
動機づけの社会的伝達に関連する先行研究では,教師の教育活動に対する内発的動機づけを認知した場合に,学習者の内発的動機づけが高まることが示されている(e.g.,Radel,Sarrazin,Legrain,& Wild,2010)。しかし,動機づけの社会的伝達に関する研究において,学習者の個人差を考慮したものは少なく,重要な課題である(Wild & Enzle,2002)。そこで本研究では,学習者の個人差として大学への進学動機や学習全般に対する動機づけを設定し,これらの要因が動機づけの社会的伝達プロセスとどのように関連するか検討することを目的とする。
方 法
調査対象者と調査時期
初年次の学生を対象としたキャリア教育の授業にて質問紙を配布した。受講者は669名であった。本研究では全項目に回答している受講者(n=402)を分析対象とした。5月中旬(T1),6月初旬(T2),7月下旬(T3)の授業時に質問紙の配布を行った。
質問紙内容
1.キャリア教育の授業内容に対する内発的動機づけ(8項目) 鹿毛(1992)を参考に作成し,科目をキャリア教育に改変して用いた。T1からT3すべてで測定された。
2.認知された教授者の動機づけ(6項目) 鹿毛(2013)や桜井・高野(1985)を参考に作成した。本尺度は,教授者が教授活動に対する内発的動機づけ・外発的動機づけをどの程度認知しているかを尋ねるものであった。T1からT3すべてで測定された。
3.学習活動に対する期待(12項目) Wild & Enzle(2002)で示された概念的な定義をもとにして,田中・山内(2000)や鹿毛(2013)を参考に作成した。T1からT3すべてで測定された。
4.大学生の学習全般に対する動機づけ(12項目) 岡田・中谷(2006)の大学生用学習動機づけ尺度の各下位尺度から,因子負荷量の高い3項目を抜き出して使用した。T1のみで測定された。
5.大学への進学動機(12項目) 永作・新井(2003)の進学動機尺度を参考に作成した。T1のみで測定された。
結 果
大学生の学習全般に対する内発的動機づけ,同一化的動機づけ,大学への内的な進学動機は,T1の授業内容に対する内発的動機づけとの間に弱い正の相関(r=.38~.41,p<.001)がみられた。一方で,学習活動に対する期待は,T1からT3の授業内容に対する内発的動機づけとの間に,中程度から強い正の相関がみられた(r=.41~.71,p<.001)。
大学生の学習全般に対する内発的動機づけ,同一化的動機づけ,大学への内的な進学動機,学習活動に対する期待(T1)を独立変数,授業内容に対する内発的動機づけ(T3)を従属変数とした重回帰分析の結果,T1の期待において正のパスがみられた(β=.33, p<.001)。決定係数は0.18(p<.001)であった。
考 察
以上より,学習者が大学での学びに対して,どの程度内的な動機づけをもっているかという個人差にかかわらず,授業での学習内容や教師の教え方に対して期待を形成することが,授業内容に対する内発的動機づけにポジティブに影響することが示された。このことから,動機づけの社会的伝達プロセスにおける学習活動に対する期待認知要因の重要性が示唆された。
学習意欲を考える上で,重要な意味をもつかかわりの一つとして,教師―学生関係があげられる(中谷,2012)。近年では,教師がどう指導するかという教授の内容や質だけではなく,教師自身がどのような動機づけをもつかという情緒的な要因が注目されている(e.g.,Keller,Goetz,Becker,Morger,& Hensley,2014)。
教師の動機づけが学習者に伝わるプロセスを説明したモデルとして動機づけの社会的伝達モデル(Social contagion of motivation model:Wild & Enzle,2002)があげられる。このモデルは,教師の指導や課題内容が同じでも,教師自身が教えることに対してどの程度内発的動機づけをもつかによって,学習者の課題に対する内発的動機づけが影響されるというものである(Wild,Enzle,& Hawkins,1992)。Wild & Enzle(2002)は,学習者が教師の内発的動機づけを認知することで,学習内容や教師の教え方に期待をもち,その期待が学習者の内発的動機づけに影響するとしている。
動機づけの社会的伝達に関連する先行研究では,教師の教育活動に対する内発的動機づけを認知した場合に,学習者の内発的動機づけが高まることが示されている(e.g.,Radel,Sarrazin,Legrain,& Wild,2010)。しかし,動機づけの社会的伝達に関する研究において,学習者の個人差を考慮したものは少なく,重要な課題である(Wild & Enzle,2002)。そこで本研究では,学習者の個人差として大学への進学動機や学習全般に対する動機づけを設定し,これらの要因が動機づけの社会的伝達プロセスとどのように関連するか検討することを目的とする。
方 法
調査対象者と調査時期
初年次の学生を対象としたキャリア教育の授業にて質問紙を配布した。受講者は669名であった。本研究では全項目に回答している受講者(n=402)を分析対象とした。5月中旬(T1),6月初旬(T2),7月下旬(T3)の授業時に質問紙の配布を行った。
質問紙内容
1.キャリア教育の授業内容に対する内発的動機づけ(8項目) 鹿毛(1992)を参考に作成し,科目をキャリア教育に改変して用いた。T1からT3すべてで測定された。
2.認知された教授者の動機づけ(6項目) 鹿毛(2013)や桜井・高野(1985)を参考に作成した。本尺度は,教授者が教授活動に対する内発的動機づけ・外発的動機づけをどの程度認知しているかを尋ねるものであった。T1からT3すべてで測定された。
3.学習活動に対する期待(12項目) Wild & Enzle(2002)で示された概念的な定義をもとにして,田中・山内(2000)や鹿毛(2013)を参考に作成した。T1からT3すべてで測定された。
4.大学生の学習全般に対する動機づけ(12項目) 岡田・中谷(2006)の大学生用学習動機づけ尺度の各下位尺度から,因子負荷量の高い3項目を抜き出して使用した。T1のみで測定された。
5.大学への進学動機(12項目) 永作・新井(2003)の進学動機尺度を参考に作成した。T1のみで測定された。
結 果
大学生の学習全般に対する内発的動機づけ,同一化的動機づけ,大学への内的な進学動機は,T1の授業内容に対する内発的動機づけとの間に弱い正の相関(r=.38~.41,p<.001)がみられた。一方で,学習活動に対する期待は,T1からT3の授業内容に対する内発的動機づけとの間に,中程度から強い正の相関がみられた(r=.41~.71,p<.001)。
大学生の学習全般に対する内発的動機づけ,同一化的動機づけ,大学への内的な進学動機,学習活動に対する期待(T1)を独立変数,授業内容に対する内発的動機づけ(T3)を従属変数とした重回帰分析の結果,T1の期待において正のパスがみられた(β=.33, p<.001)。決定係数は0.18(p<.001)であった。
考 察
以上より,学習者が大学での学びに対して,どの程度内的な動機づけをもっているかという個人差にかかわらず,授業での学習内容や教師の教え方に対して期待を形成することが,授業内容に対する内発的動機づけにポジティブに影響することが示された。このことから,動機づけの社会的伝達プロセスにおける学習活動に対する期待認知要因の重要性が示唆された。