日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PG(01-81)

ポスター発表 PG(01-81)

2017年10月9日(月) 10:00 〜 12:00 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 〜 12:00

[PG15] 中学生の社会的行動についての研究(110)

自殺念慮の変化と,家庭および友だちの要因の関連

山本ちか1, 氏家達夫2, 二宮克美3, 五十嵐敦4, 井上裕光5 (1.名古屋文理大学短期大学部, 2.名古屋大学, 3.愛知学院大学, 4.福島大学, 5.千葉県立保健医療大学)

キーワード:中学生, 自殺念慮

目   的
 研究(108)では,中学生が自殺について考えたことがあるかどうか(自殺念慮)をとりあげ,中学2年生から3年生の間にどのように変化したのかを検討し,全体的自己価値および学校適応と,自殺念慮の変化との関連について検討した。その結果,男女とも多くの中学生は,自殺念慮がみられなかった。また中3時点で自殺念慮がなくなった群は,全体的自己価値の得点が上昇するという変化がみられた。本報告では,自殺念慮と関連する要因として,家庭の要因と友だちの要因をとりあげ,自殺念慮の変化とどのように関連しているのかについて検討する。
方   法
1.調査項目 (1)自殺念慮:自殺について考えたことがあるかどうかを4段階評定(何度もあった,数回あった,一度だけあった,一度もなかった)でたずねた。今回は,「あった(一度だけあった~何度もあった)」と「なかった」の2件法に変換して分析を行った。
(2)家庭の要因:①親との関係の知覚:親との関係をどのように知覚しているかについて,規制の強さ,暖かさ,愛着,虐待傾向などの点から6段階評定でたずねた。因子分析の結果,親との愛着関係や暖かさについての「暖かさ(12項目)」と虐待傾向や厳しさなどを示す「厳しさ(6項目)」の2因子が妥当であると判断した。②家の中での嫌なできごと:家の中で3ヶ月間にどれだけ嫌なできごとがあったかを4段階評定でたずねた。高得点ほど嫌なできごとがあったことを示している。
(3)友だちの要因:①友だちとの関係の知覚:友だちとの関係で安心感,暖かさ,心配する傾向などをどのように知覚しているかを6段階評定でたずねた。因子分析の結果,友だちとの関係に安心や暖かさを感じている傾向を示す「暖かさ(4項目)」と,関係を心配する傾向を示す「関係の不安感(5項目)」の2因子が妥当であると判断した。②友だちについての嫌なできごと:友だちについて3ヶ月間にどれだけ嫌なできごとがあったかを4段階評定でたずねた。
2.調査実施時期と調査協力者 自殺の項目についての調査は,中学2年2学期(2003年9月下旬)から,中学3年2学期(2004年9月下旬)までの間に,4回実施した。今回の分析には,中学2年2学期と中学3年2学期のデータを使用した。分析は自殺念慮の項目に2時点とも回答のあった愛知県と福島県の女子中学生227名について行った。中2時点で自殺念慮が「あった」49名のうち,中3時点でも「あった」のは27名,「なかった」のは22名であった。また,中2時点で「なかった」178名のうち,中3時点でも「なかった」のは153名,「あった」のは25名であった。
結果及び考察
1.自殺念慮の変化と家庭の要因の関連 親との関係の知覚の「暖かさ」と「厳しさ」,および「家の中での嫌なできごと経験」を従属変数とする時点×自殺念慮の変化4群(中2時点「あった・なかった」と中3時点「あった・なかった」の組み合わせ)の分散分析を行った。親との関係の知覚では,「暖かさ」については交互作用がみられ,「中2:なかった,中3:なかった」群(F=5.409, p=.021)と「中2:なかった,中3:あった」群(F=5.272, p=.022)は,暖かさが低下していた。また,家の中の嫌なできごと経験についても交互作用がみられ,「中2:なかった,中3:あった」群のみ,嫌なできごとが増加していた(F=20.481, p<.001)。
2.自殺念慮の変化と友だちの要因の関連 友だちとの関係の知覚の「暖かさ」と「不安感」,および「友だちについての嫌なできごと経験」を従属変数とする時点×自殺念慮の変化4群の分散分析を行った。友だちの要因については,家庭の要因とは異なり,「友だちとの関係の知覚」の2因子についても,「友だちについての嫌なできごと経験」についても,自殺念慮の変化4群の主効果はみられたものの,交互作用はみられなかった。
3.まとめ 中3時点で自殺念慮がみられるようになった群は,親との関係での「暖かさ」を感じられなくなり,「家の中での嫌なできごと」が増加しており,家庭の要因が自殺念慮の変化と関連することが示唆された。