10:00 〜 12:00
[PG38] 教員が学び合う「学習コミュニティ」の構築
小学校における協働の過程についての考察
キーワード:協働, 対話, 省察
問題と目的
近年,学校が抱える課題は激しく変動しながら多様化している(e.g.,文部科学省,2015)。しかも,その課題は絶対的な正解を想定し難いものばかりである(e.g.,秋田,2006)。学校がこうした課題に対応するためには,教員の協働が必要不可欠であり,そのありようの実際を精緻に検討することは研究上の喫緊の課題である。そして,そこでは,課題構造を静的に記述するだけでは十分でなく,動的で詳細な記述が求められている(金田,2010)。
本研究の目的は,(小学校教員であると同時に教職大学院生でもあった)第1著者が他の教員とともに校内に創設した教員が学び合う場としての「学習コミュニティ(Learning Community;以下LCと表記)」での協働の過程を記述しながら,その成果と課題について考察することである。
なお,本研究での「教員が学び合う」とは,日々の実践のなかで現れる課題が教員間で共有され,その解決のためにあらゆる知が道具的に用いられつつ,新たな知の創出に向けて「対話」と「省察」を基礎に相互作用が展開される過程のことである。
方 法
本研究のフィールドは,兵庫県内の公立小学校(第1著者の当時の原籍校)。第1著者は,教職経験17年目(当時),対象校での勤務は10年目であった。本研究は,第1著者が教職大学院生として対象校にかかわった約9ヶ月間の記録である。
活動の具体
LCは,次の3つの活動から構成された。
(1)ワークショップ(以下WSと表記)の実施
(無自覚的に行われていることの多い)日常の教育活動を言語化するとともに,そのなかにあって自明視される既存の知や前提を問い直し,新たな実践知を創出することを企図するいくつかのWSが企画された(「学級経営のワザ開発WS」など)。
(2)ジャーナルの刊行
不定期にジャーナルを執筆・配付した。その企図は,①LCの背景となる学問知をエピソードとともに漫画でわかりやすく紹介することで学問知と実践知を架橋すること,②WSの内容やそこで創出される実践知を参加できなかった教員とも共有すること,③省察の材料とすること,であった。
(3)LCの評価と改善
Wenger, McDermott, & Snyder(2002 野村監修・櫻井訳 2002)は,コミュニティが正当性,影響力を得るために,コミュニティが自発的に自らを評価し管理することを提唱している。本研究でも,WS参加者へのグループ・インタビュー,質問紙調査,対象校の教員と大学院ゼミの「コラボ・ミーティング」等によってLCの評価が行われた。
学習に集中しづらい子どもが学級に多いと悩んでいた教員の語りは,LCでの活動を通して自らの子どもへのかかわりを省察し,自らの行動を変化させたことで子どもとのよりよい関係を取り戻すことができたと判断できた。そこには,「子どもは素直に勉強するもの」という自明的前提への問い直しが大きく寄与していたと考えられた。
質問紙調査の結果,「自分の教育実践を振り返ることができた」「他の人の教育実践を知ることができた」という項目に比べ,「考えたことを行動に移そうと思った」という項目を参加した感想として選択した教員は多くなかった。本研究のWSは,省察や実践知の共有にとっては(ある程度)有効であったと思われるものの,それらを実際の具体的行動に変換するためには,生み出した知の行動化を促すWSの開発が必要であろうと考えられた。
コラボ・ミーティングでは,LCという新しい取組を学校に根付かせるうえで起こりうる問題点について率直な指摘がなされた。たとえば,教員がLCに学級経営上の問題を相談するような場合,おそらく解決に向けた数多くの選択肢が提供されるだろうが,当該教員がそれらを取捨選択することができなければ,かえって混乱してしまうのではないか。あるいは,その際,自らの提案が採用されなかった教員はLCから距離をとってしまうのではないかといった懸念であった。これらは,LCのなかで教員同士はどのようにかかわることが望ましいのかといった論点に繋がるものであろう。
総合的考察
本研究で記述されたような,LCでの対話と省察を通して教員同士の学び合いが行われる状態こそ,教員の力量が組織的に向上している状態なのではないかと考察された。
今後も,評価と改善を積み重ねながらLCでの活動を継続していくことが教員の力量形成にとって重要であるとともに,本研究が他の学校での新たなLCの創設や教員の学び合いに挑む実践者の礎となることが期待されよう。
近年,学校が抱える課題は激しく変動しながら多様化している(e.g.,文部科学省,2015)。しかも,その課題は絶対的な正解を想定し難いものばかりである(e.g.,秋田,2006)。学校がこうした課題に対応するためには,教員の協働が必要不可欠であり,そのありようの実際を精緻に検討することは研究上の喫緊の課題である。そして,そこでは,課題構造を静的に記述するだけでは十分でなく,動的で詳細な記述が求められている(金田,2010)。
本研究の目的は,(小学校教員であると同時に教職大学院生でもあった)第1著者が他の教員とともに校内に創設した教員が学び合う場としての「学習コミュニティ(Learning Community;以下LCと表記)」での協働の過程を記述しながら,その成果と課題について考察することである。
なお,本研究での「教員が学び合う」とは,日々の実践のなかで現れる課題が教員間で共有され,その解決のためにあらゆる知が道具的に用いられつつ,新たな知の創出に向けて「対話」と「省察」を基礎に相互作用が展開される過程のことである。
方 法
本研究のフィールドは,兵庫県内の公立小学校(第1著者の当時の原籍校)。第1著者は,教職経験17年目(当時),対象校での勤務は10年目であった。本研究は,第1著者が教職大学院生として対象校にかかわった約9ヶ月間の記録である。
活動の具体
LCは,次の3つの活動から構成された。
(1)ワークショップ(以下WSと表記)の実施
(無自覚的に行われていることの多い)日常の教育活動を言語化するとともに,そのなかにあって自明視される既存の知や前提を問い直し,新たな実践知を創出することを企図するいくつかのWSが企画された(「学級経営のワザ開発WS」など)。
(2)ジャーナルの刊行
不定期にジャーナルを執筆・配付した。その企図は,①LCの背景となる学問知をエピソードとともに漫画でわかりやすく紹介することで学問知と実践知を架橋すること,②WSの内容やそこで創出される実践知を参加できなかった教員とも共有すること,③省察の材料とすること,であった。
(3)LCの評価と改善
Wenger, McDermott, & Snyder(2002 野村監修・櫻井訳 2002)は,コミュニティが正当性,影響力を得るために,コミュニティが自発的に自らを評価し管理することを提唱している。本研究でも,WS参加者へのグループ・インタビュー,質問紙調査,対象校の教員と大学院ゼミの「コラボ・ミーティング」等によってLCの評価が行われた。
学習に集中しづらい子どもが学級に多いと悩んでいた教員の語りは,LCでの活動を通して自らの子どもへのかかわりを省察し,自らの行動を変化させたことで子どもとのよりよい関係を取り戻すことができたと判断できた。そこには,「子どもは素直に勉強するもの」という自明的前提への問い直しが大きく寄与していたと考えられた。
質問紙調査の結果,「自分の教育実践を振り返ることができた」「他の人の教育実践を知ることができた」という項目に比べ,「考えたことを行動に移そうと思った」という項目を参加した感想として選択した教員は多くなかった。本研究のWSは,省察や実践知の共有にとっては(ある程度)有効であったと思われるものの,それらを実際の具体的行動に変換するためには,生み出した知の行動化を促すWSの開発が必要であろうと考えられた。
コラボ・ミーティングでは,LCという新しい取組を学校に根付かせるうえで起こりうる問題点について率直な指摘がなされた。たとえば,教員がLCに学級経営上の問題を相談するような場合,おそらく解決に向けた数多くの選択肢が提供されるだろうが,当該教員がそれらを取捨選択することができなければ,かえって混乱してしまうのではないか。あるいは,その際,自らの提案が採用されなかった教員はLCから距離をとってしまうのではないかといった懸念であった。これらは,LCのなかで教員同士はどのようにかかわることが望ましいのかといった論点に繋がるものであろう。
総合的考察
本研究で記述されたような,LCでの対話と省察を通して教員同士の学び合いが行われる状態こそ,教員の力量が組織的に向上している状態なのではないかと考察された。
今後も,評価と改善を積み重ねながらLCでの活動を継続していくことが教員の力量形成にとって重要であるとともに,本研究が他の学校での新たなLCの創設や教員の学び合いに挑む実践者の礎となることが期待されよう。