10:00 〜 12:00
[PG60] アレキシサイミア空間からみた大学生のキャリア意識・行動
キーワード:アレキシサイミア, キャリア意識, 大学生
問題と目的
後藤(2012)は,アレキシサイミア傾向が感情認識言語化困難と空想内省困難の2次元から構成されることに基づいて,これらの2次元空間上に第3の変数を布置することによって,単にアレキシサイミア傾向の強弱のみならず,感情性と空想性の心理・病理を記述しようと試み,このアプローチを「アレキシサイミア空間」と命名した。病理的観点以外でも,自己注目(後藤・加藤, 2014a),マインドフルネス(後藤・加藤, 2014b),批判的思考的態度(後藤・安念, 2015)など一般心理特性との関連において,深い認知処理を要する課題に対する困難感・逃避傾向が示唆されている。
キャリア意識の形成は,大学生は社会人への準備段階であり,重要な課題であるが,自己に対する深い認知処理を要する課題であるので,アレキシサイミア傾向(とくに空想内省困難)が関連しているものと思われる。もしアレキシサイミア傾向がキャリア意識の方向性に影響しているとすれば,事前のアセスメントによって,より適切なキャリア発達支援が可能となるだろう。
そこで本研究ではアレキシサイミア傾向がキャリア意識・行動に与える影響を検討し,アレキシサイミア空間上に布置することを目的とする。
方 法
(1)調査参加者:ウェブ調査によって2つの大学に所属する大学1~4年生の127ケースのデータが得られた。そして複数回の回答や回答態度への疑義が認められなかった大学生110名(女性81名,男性29名)のデータを分析に用いた。(2)質問紙構成:①アレキシサイミア傾向:Gotow Alexithymia Questionnaire(GALEX; 後藤ら, 1999),②キャリア意思:キャリア意思決定尺度(清水・花井, 2007), ②キャリア決定・就職活動状況:㈱リクルートキャリア就職みらい研究所(2016)が用いた10項目(民間企業への就職志望・教員志望・公務員志望など)を用いた。また回答態度を検出するために「ここでは2に回答してください」のような回答指示項目を3項目配置した。(3)調査手続き:Google Formsを用いたウェブ調査を行った。まず,学内情報配信システムや講義授業内で調査への協力依頼を文面で行い,回答フォームのURLを案内した。依頼文およびウェブ調査フォームの1ページ目には,調査の趣旨,調査は匿名で行われること,調査参加および中止の任意性,プライバシー保護,不参加・中止による不利益のなさなどを明記し,調査に積極的に同意した参加者のみが調査質問紙に回答する形式とした。
結 果
(1)アレキシサイミア傾向がキャリア意思に与える影響:従属変数をキャリア意思決定尺度の6下位尺度,独立変数をGALEXの2下位尺度尺度(感情認識言語化困難・空想内省困難),学年,交互作用項とした重回帰分析(ロバスト法)を行った。交互作用項が有意であった変数に対して単純傾斜分析を行った結果,感情認識言語化困難・空想内省困難がともに高いと 「葛藤」が強いことが見いだされた。また,低学年の場合,感情認識言語化困難・空想内省困難がともに高いと「情報・自信不足」「決定不安」「モラトリアム」「逃避」が強く,感情認識言語化困難が高いと「葛藤」が強く,感情認識言語化困難と空想内省困難がともに低いと「障害不安」が弱いことが見いだされた。一方,高学年では,感情認識言語化困難・空想内省困難がともに高いと「障害不安」が強いことが見いだされた。(2)キャリア選択に与える影響:従属変数をキャリア決定・就職活動状況の10項目,独立変数をGALEXの2下位尺度,学年,交互作用項としたプロビット回帰分析を行った。交互作用項が有意であった変数に対して単純傾斜分析を行った結果,結果,感情認識言語化困難・空想内省困難がともに高いと教員志望率が低くなることが見いだされた。また低学年では,感情認識言語化困難・空想内省困難が低いと,それぞれ大学院への進学志望率が高く,感情認識言語化困難・空想内省困難が高いと進路未決定率が高くなることが認められた。一方,4年生では,空想内省困難が高いと, 民間企業に対する就職活動率が高い傾向が見いだされた。
考 察
低学年ではアレキシサイミア傾向(感情認識言語化困難×空想内省困難)は,大学生のキャリア意思に関する不安感や逃避的意識・行動を強めていた。これは,キャリア決定は深い内省的情報処理が要求される課題であり,その苦手意識を反映したものと思われる。一方,高学年では障害不安を強めており,「不安→逃避→受動的選択」の結果,就職活動をはじめとする進路選択行動に出遅れたことの反応と思われる。さらに4年生では空想内省困難が強いと,民間企業への就職活動の割合が高いアレキシサイミアの場合,避けられない現実への対処として,受動的・消極的に「周囲と同じ」キャリア選択をするのではないだろうか。
以上のような特徴を踏まえ,アレキシサイミア傾向が強く,内省的課題が難しかったり,深く考える課題を回避したりする大学生には,学生自身の自律的なキャリア選択を促すアプローチよりも,支援スタッフが学生の資質に合わせた進路を適材適所的に当てはめていくアプローチの方が向いているかもしれない。
後藤(2012)は,アレキシサイミア傾向が感情認識言語化困難と空想内省困難の2次元から構成されることに基づいて,これらの2次元空間上に第3の変数を布置することによって,単にアレキシサイミア傾向の強弱のみならず,感情性と空想性の心理・病理を記述しようと試み,このアプローチを「アレキシサイミア空間」と命名した。病理的観点以外でも,自己注目(後藤・加藤, 2014a),マインドフルネス(後藤・加藤, 2014b),批判的思考的態度(後藤・安念, 2015)など一般心理特性との関連において,深い認知処理を要する課題に対する困難感・逃避傾向が示唆されている。
キャリア意識の形成は,大学生は社会人への準備段階であり,重要な課題であるが,自己に対する深い認知処理を要する課題であるので,アレキシサイミア傾向(とくに空想内省困難)が関連しているものと思われる。もしアレキシサイミア傾向がキャリア意識の方向性に影響しているとすれば,事前のアセスメントによって,より適切なキャリア発達支援が可能となるだろう。
そこで本研究ではアレキシサイミア傾向がキャリア意識・行動に与える影響を検討し,アレキシサイミア空間上に布置することを目的とする。
方 法
(1)調査参加者:ウェブ調査によって2つの大学に所属する大学1~4年生の127ケースのデータが得られた。そして複数回の回答や回答態度への疑義が認められなかった大学生110名(女性81名,男性29名)のデータを分析に用いた。(2)質問紙構成:①アレキシサイミア傾向:Gotow Alexithymia Questionnaire(GALEX; 後藤ら, 1999),②キャリア意思:キャリア意思決定尺度(清水・花井, 2007), ②キャリア決定・就職活動状況:㈱リクルートキャリア就職みらい研究所(2016)が用いた10項目(民間企業への就職志望・教員志望・公務員志望など)を用いた。また回答態度を検出するために「ここでは2に回答してください」のような回答指示項目を3項目配置した。(3)調査手続き:Google Formsを用いたウェブ調査を行った。まず,学内情報配信システムや講義授業内で調査への協力依頼を文面で行い,回答フォームのURLを案内した。依頼文およびウェブ調査フォームの1ページ目には,調査の趣旨,調査は匿名で行われること,調査参加および中止の任意性,プライバシー保護,不参加・中止による不利益のなさなどを明記し,調査に積極的に同意した参加者のみが調査質問紙に回答する形式とした。
結 果
(1)アレキシサイミア傾向がキャリア意思に与える影響:従属変数をキャリア意思決定尺度の6下位尺度,独立変数をGALEXの2下位尺度尺度(感情認識言語化困難・空想内省困難),学年,交互作用項とした重回帰分析(ロバスト法)を行った。交互作用項が有意であった変数に対して単純傾斜分析を行った結果,感情認識言語化困難・空想内省困難がともに高いと 「葛藤」が強いことが見いだされた。また,低学年の場合,感情認識言語化困難・空想内省困難がともに高いと「情報・自信不足」「決定不安」「モラトリアム」「逃避」が強く,感情認識言語化困難が高いと「葛藤」が強く,感情認識言語化困難と空想内省困難がともに低いと「障害不安」が弱いことが見いだされた。一方,高学年では,感情認識言語化困難・空想内省困難がともに高いと「障害不安」が強いことが見いだされた。(2)キャリア選択に与える影響:従属変数をキャリア決定・就職活動状況の10項目,独立変数をGALEXの2下位尺度,学年,交互作用項としたプロビット回帰分析を行った。交互作用項が有意であった変数に対して単純傾斜分析を行った結果,結果,感情認識言語化困難・空想内省困難がともに高いと教員志望率が低くなることが見いだされた。また低学年では,感情認識言語化困難・空想内省困難が低いと,それぞれ大学院への進学志望率が高く,感情認識言語化困難・空想内省困難が高いと進路未決定率が高くなることが認められた。一方,4年生では,空想内省困難が高いと, 民間企業に対する就職活動率が高い傾向が見いだされた。
考 察
低学年ではアレキシサイミア傾向(感情認識言語化困難×空想内省困難)は,大学生のキャリア意思に関する不安感や逃避的意識・行動を強めていた。これは,キャリア決定は深い内省的情報処理が要求される課題であり,その苦手意識を反映したものと思われる。一方,高学年では障害不安を強めており,「不安→逃避→受動的選択」の結果,就職活動をはじめとする進路選択行動に出遅れたことの反応と思われる。さらに4年生では空想内省困難が強いと,民間企業への就職活動の割合が高いアレキシサイミアの場合,避けられない現実への対処として,受動的・消極的に「周囲と同じ」キャリア選択をするのではないだろうか。
以上のような特徴を踏まえ,アレキシサイミア傾向が強く,内省的課題が難しかったり,深く考える課題を回避したりする大学生には,学生自身の自律的なキャリア選択を促すアプローチよりも,支援スタッフが学生の資質に合わせた進路を適材適所的に当てはめていくアプローチの方が向いているかもしれない。