日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PH(01-78)

ポスター発表 PH(01-78)

2017年10月9日(月) 13:00 〜 15:00 白鳥ホールB (4号館1階)

13:00 〜 15:00

[PH04] 幼児期における関係性攻撃

心の理論及び情動環境との関連の検討

溝川藍1, 浜名真以2 (1.椙山女学園大学, 2.東京大学・日本学術振興会)

キーワード:関係性攻撃, 心の理論, 情動環境

問   題
 幼児期を通して,子どもは自他の行動の背後にある心的状態を推測したり説明したりする能力(心の理論)を発達させていく。この心の理論の発達は,良好な社会的関係の構築と密接に関連することが示されてきた(Slaughter et al., 2015)。他方で,心の理論は,欺き等の反社会的な目的にも使用され得る。拒絶や社会的排除のような他者を操作するタイプの攻撃行動やいじめには,心の理論のような社会的認知能力が必要であることが指摘されており(Sutton et al., 1999),国内でも,幼児期の心の理論と関係性攻撃(仲間関係を意図的に操作し,壊すことによって他者を傷つける攻撃行動; Crick & Grotpeter, 1995)の間に弱い相関(r = .16)を見出している研究もある(森野・磯部,2005)。しかし,関係性攻撃と社会的認知の発達の関連を検討した研究は未だ少ない。
 また,子どもは幼い頃から養育者の情動表出に敏感である。養育者との温かい関係は子どもの向社会性に結びつくと考えられている。反対に,養育者による子どもに対する強いネガティブ情動表出は,子どもの向社会性に結びつきにくく,攻撃行動等の反社会的行動をもたらす可能性がある(Eisenberg et al., 1998; Eisenberg et al., 2006)。
 本研究では,幼児期において,心の理論と家庭の情動環境が,子どもの園での関係性攻撃とどのように関連するのかを検討する。
方   法
参加者:保育所に通う幼児のべ48名(年中児26名; 平均年齢5歳5か月,年長児22名; 平均年齢5歳11か月),その母親のべ41名(年中クラス21名,年長クラス20名),クラス担任の保育者4名(年中クラス2名,年長クラス2名)。年中クラスの調査の約半年後に,同じクラス(年長に進級)を対象に再度調査を実施した。参加者に入れ替わりがあったため,データは横断的に扱った。
材料と手続き:幼児を対象に個別に誤信念課題(Harris et al., 1989)と絵画語彙発達検査(PVT-R; 上野・名越・小貫, 2008)を実施し,心の理論と言語能力を測定した。また,質問紙調査により,母親の我が子に対する情動表出性(Halberstadt et al., 1995の修正版; Mizokawa, 2013の19項目を母親対象に実施)と,幼児の関係性攻撃(磯部・佐藤, 2003の5項目を保育者対象に実施)を測定した。
結果と考察
関係性攻撃と心の理論及び情動環境の関連
 関係性攻撃と心の理論及び家庭の情動環境(母親の我が子に向けたポジティブ情動表出並びにネガティブ情動表出)の関連を検討するため,学年ごとに,心の理論との単相関が有意であった言語年齢(年中児; r = .65, p = .00,年長児; r = .48, p = .02)を統制した偏相関分析を行った。その結果,年中児においてのみ,関係性攻撃と心の理論の関連と,関係性攻撃と母親の我が子に向けたネガティブ情動表出の関連が認められた(Table 1)。ここから,心の理論及び情動環境の関係性攻撃との関連の在り方が年齢によって異なることが示された。
心の理論と情動環境が関係性攻撃に及ぼす影響
 年中児において,心の理論と情動環境が関係性攻撃にどのように影響するかを調べるために,関係性攻撃を従属変数として,階層的重回帰分析を行った。第1ステップでは性別と言語年齢を,第2ステップでは二種類の情動環境の得点を,第3ステップでは誤信念課題の得点を説明変数として投入した。その結果,回帰式は有意であり,心の理論が発達している子どもほど関係性攻撃をすること(B = 4.37, p = .01)が示された。他方で,母親の我が子に向けたポジティブ情動表出(B = -.03, p = .90)とネガティブ情動表出(B =.39, p = .12)の影響は有意ではなかった。本研究の結果から,少なくとも年中児においては,心の理論の発達が園での関係性攻撃に影響することが示された。
付   記
 本研究に使用したデータは,国立教育政策研究所プロジェクト研究「非認知的(社会情緒的)能力の発達と科学的検討手法に関する研究(平成27~28年度)」(研究代表者:遠藤利彦)において収集された。