The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PH(01-78)

ポスター発表 PH(01-78)

Mon. Oct 9, 2017 1:00 PM - 3:00 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

1:00 PM - 3:00 PM

[PH54] 自己の可変性に関する信念と適応

理想自己と現実自己の差異との関連から

笠原千秋1, 平野真理2, 鹿毛雅治3 (1.東京家政大学大学院, 2.東京家政大学, 3.慶應義塾大学)

Keywords:可変性についての信念, 理想自己, 現実自己

目   的
 Rogers(1951)は,理想自己と現実自己の差異が適応状態に影響することを見出した。しかし,近年の研究を概観した遠藤(1991)によれば,理想―現実自己の差異と適応状態との関係には,一貫した研究結果が見出せていない。また,その差異と適応状態を自己受容が媒介することを検討した伊藤(1992)を始め,何らかの媒介する変数が存在する可能性も模索されている。そこで,本研究では「自己の可変性についての信念」が理想―現実自己の差異と適応状態との関係に影響している可能性に着目した。自己の可変性についての信念とは,自らの人間性が変化するか否かについての信念であり,類似した概念として知能の可変性についての信念である「知能観」がある。Dweck(2006)によれば,「知能は変化しない」という知能観を持つほど抑うつの程度がひどくなるという。したがって,自己の可変性についての信念の場合も,この信念が低い場合に,理想―現実自己の差異がより強く不適応に影響する可能性があると考えられる。
 そこで本研究では自己の可変性についての信念を測定する尺度を検討した上で,その信念の高低によって,理想―現実自己の差異と適応との関連が異なるかを検討することを目的とした。
方   法
1. 実施時期 2016年12月
2. 対象者と手続き 18歳以上の男女142名(うち男性75名,女性67名)に対しWebアンケートでの調査を行った。
3. 質問紙 [1]理想自己と現実自己:SD自己観尺度(伊藤,1992)17項目(7件法),性格を表す形容詞対「大胆な―臆病な」など。「理想の自己像」と「現在のあなた」についてそれぞれ回答を求め,その差の二乗の平均値を差異得点とした。[2]自己の可変性についての信念:Dweck(2006)及び及川(2005)の知能観に関する尺度を参考に,「知能」という文言を「性格」に置き換えるなどして6項目(4件法)を設定した(Table 1)。[3]自己受容:共同体感覚尺度(高坂,2001)の自己受容因子に含まれる6項目を使用した(4件法)。[4]自尊心:自尊感情尺度(山本,1982):10項目(4件法)。[5]抑うつ:ベックの抑うつ尺度(林・瀧本,1991)より5項目(4件法)を使用した。
結   果
1. 自己の可変性についての信念尺度 因子分析(主因子法,プロマックス回転)を行った結果,1因子構造が妥当であると判断された。信頼性を検討するためCronbachのα係数を求めたところα=.68であった。また,他の変数との相関を検討したところ,それぞれ差異得点(r=-.18, p<.05),自己受容(r=.25, p<.01),自尊心(r=.33, p<.01),抑うつ(r=-.20, p<.05)という有意な関連が見られた。
2. 理想―現実自己の差異と適応との関連 自己の可変性についての信念得点の中央値(M=17.00)を用いて高群(n=72)と低群(n=70)分け,それぞれの群において,説明変数を差異得点,目的変数に適応の変数(自己受容・自尊心・抑うつ)とした単回帰分析を行った。その結果,すべての適応の変数において,高群より低群のほうが標準偏回帰係数(β)が高いという結果が示された(自己受容:低群β=-.47, p<.01,高群β=-.24, p<.05,自尊心:低群β=-.46, p<.01,高群β=-.33, p<.01,抑うつ:低群β=.46, p<.01,高群β=.36, p<.01)。
考   察
 自己の可変性についての信念と,現実―理想自己の差異との相関は,有意ではあるものの弱く,また,その他の適応の指標との間にも弱い相関が確認された。したがって自己の可変性についての信念は適応に直接的な影響をもたらすのではないことが示唆された。一方で,可変性の信念が低い人々の方が,現実―理想自己の差異得点で説明できる適応の変数への影響(β)は大きいことが示されたことから,理想―現実自己の差異と適応との関連を考える上で,自己の可変性についての信念が媒介として影響している可能性が推察された。今後サンプルを増やしてのモデル検討が望まれる。