日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PH(01-78)

ポスター発表 PH(01-78)

2017年10月9日(月) 13:00 〜 15:00 白鳥ホールB (4号館1階)

13:00 〜 15:00

[PH56] 自分を表現できない高校生が学校に適応していくまでの一過程

学校側とSCとの協働を中心に

金子信一 (医療法人さつき会中川クリニック)

キーワード:高校生, コミュニケーションの困難さ, 協働

問   題
 教員の関係性について,教員は言いたいことが言えない雰囲気だったり,自分たちの指導等にあまり干渉されたくないという気持ちがあったりすると報告している(文部科学省,2013)。この報告について,原(2015)は教員同士がそれぞれの業務に関わりを持ちにくい風土が学校にあると指摘する。つまり,教員は連携・協働して問題解決することが難しいのではないかと考えられる。
 これまで,教員間の連携・協働についての研究はコミュニケーションに関する研究が多く,円滑に連携・協働していくには,SC及び教員がどのように行動すればいいかということに言及している研究はほとんど見受けられない。したがって,本研究では教員間が連携・協働するには,どのような経過を辿るのかを事例を通して明らかにする。
事例の概要
 Aさんは話しかけても返事をしない。学力は平均的だが,長期欠席で一年留年している。父親は自分の意見以外認めず,幼少期から家族に厳しい躾を行う。母親は理解力が乏しく,整理整頓及び清潔概念がない。学校・保護者からのニーズは「欠席・遅刻が多くて,進級できないので,何とか学校に適応させてほしい」であった。
経   過
 担任及び養護教諭(以下,支援教員)とコンサルテーションを行い,Aさんへの支援方法を計画した結果,支援教員を頼りに登校できるようになり,進級する。進級後,Aさんの遅刻・欠席の増加及び他教員に理解されにくいことをSCに訴えられた。SCは支援教員の苦労に寄り添い労いつつ,Aさんが変化していることを伝え,みんなでAさんをサポートした。その結果,Aさんが再び変わり始め,さらにAさんの変化に他の教員が気付き始め,他教員がAさん及び支援教員への声かけが増え,連携・協働の和が拡がっていった。
考   察
 大人は,何をどう行なっていけばよいかを提示することにより,見通しが持てること,主体性をもって取り組むこと,安心感をもつことが可能となる(埼玉県立総合教育センター,2009)。
 本事例において,Aさんとの面接終了後に必ず支援教員とコンサルテーションを実施し,支援方法及び目標設定を行なった。その結果,①登校頻度,②支援教員との会話の増大,③進級することができた。したがって,①見通しが持てること,②主体性をもって取り組むこと,③安心感をもつことは①連携・協働しようという動機付けを高めること,②みんなでAさんを支えていける安心感が生まれるのではないかと考えられる。
 教員間の連携・協働を促すために,岩壁(2011)は困難な感情と陽性感情体験からなる内的リソースの両方に対するクライエントの気づきを高めることによって,クライエントが小さな変化を実感して希望を見失うことなく,困難な作業に取り組み続けることができたと述べる。
 本事例では,Aさんが様々な体験から気付きが増し,変化が起こったが,同時に教員もAさんの変化に気付くと,支援への動機付けが高まり,多くの教員が支援に参加するようになった。したがって,小さな変化への気付きは支援する側にも大きな影響を与えると考えられる。
 小さな変化に気付いてもらう方法について,増井(2006)は専門家は支援者達の葛藤共有者であり,それぞれが同じ権利で内的世界と葛藤を持ち,それぞれが悩んでいることを大切にして,それぞれの食い違いをまず「判っていてくれる」という安心感がそれぞれに発生しないと子供の問題は収まりにくいと述べる。つまり,SCは各教員の葛藤を共感的に受け止め,理解され,労われることによって,困難を乗り越えられるようになる。
 支援者達の葛藤を和らげる方法について,三谷(2005)によると,起きた事実は事実としてそのまま認めるが,事実を支える枠組みのほうを変えることによって,全体としての意味をガラリと変えてしまうと述べる。つまり,SCは教員が何も変わらないと思っていたことを支援したことで変化が起きていたと伝えることで葛藤が和らぐのである。
 本事例において,支援の長期化及び周囲の理解が得られにくい時期は,支援職員に疲弊感があった。その時,SCはAさんの面接場面で出てきた言葉を使いながら①変化を起こしたのは支援職員であること,②支援職員がネガティブに捉えている事象をポジティブな意味に変えていくことを伝えていった。その結果,Aさんの支援は継続していき,最後は学校全体が連携・協働していった。
 したがって,教員間の連携・協働が難しい時は,当該生徒の変化に気付いてもらえるように支援していくことが重要であることが示唆された。そして,SCは支援の中枢にいる教員に寄り添い,労い,そして気付きを深めていってもらうことによって,しなやかな連携・協働ができると考えられる。