[JA02] 特別支援教育に関する学校現場のニーズと課題
キーワード:特別支援, 発達障害, コーディネーター
企画趣旨
武田明典
近年の日本の学校教育では,欧米諸国の教育にみられるようなインクルージョンの教育理念は一通り浸透し,特別支援学校のみならず一般の学校においてもその充実が進展している。また,これらを支持する社会制度的な環境面も整いつつあり,例えば,2016年に発達障害者支援法が改正され,同年,障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律が施行された。さらに,文部科学省の大学教職課程カリキュラム改定により,2019年度から「特別支援教育」科目が必修となる。
このように,日本における特別支援教育の体制は急速に展開している。一方で,学校現場の実像としては,教員による認識の差異や支援を行う上での課題など,必ずしも児童生徒に対して十分な教育支援や合理的配慮が行われているとは言い難い現状があるといえるのではないだろうか。
本シンポジウムでは,ますます重要となる特別支援教育に関して,学校現場からのニーズや課題についてのニーズ調査をふまえ,また,実践を行っている教師からの具体的な課題点を話題提供することにより,学校における教育実践,大学教育のプログラム開発,さらには,研究における貢献など,本学会員による貢献の可能性について示唆が得られることをねらいとする。
ニーズ調査の結果より
村瀬公胤・武田明典・北島善夫・池田政宣
本発表では,特別支援教育に関する学校現場のニーズを把握するための質問紙調査の結果について報告する。
構成:質問紙は調査対象者の属性を尋ねるフェイスシートと,特別支援教育に関する現場でのニーズを尋ねる質問項目から構成され,全体でA3判型×2面に印刷されて配布。質問項目は,コアカリキュラム「特別の支援を必要とする幼児,児童及び生徒に対する理解」の(1)~(3)の目標を含む形で構成する。
対象:調査対象者は小・中・高校の教員約400名である。このうち,特別支援学校教諭免許法認定講習の受講者であった対象者を特別支援教育に関心の高い群とみなし,一般的な教員免許更新講習や自治体教育委員会主催の講習を受講したそれ以外の群と比較する。
特別支援学校のセンター的機能と教師の学び
太田英樹
特別支援学校のセンター的機能は,いわゆる6つの機能を中心に地域の支援機関として定着してきた。特に小中学校等の教師からは,発達障害児支援に関する助言を求める声は多く,巡回相談,事例検討に対する期待は大きい。センター的機能の活用は,近隣で費用もかからず,同じ教師という連携のしやすさもあって,教師支援の有効な手段と考えられた。
発達障害児を支援するためには,様々な角度からその困難を検討し,支援の方向性を仮説的に決め,支援者の役割分担を整理し,支援体制を機能させることが重要となる。この10年で,特別支援教育について教師が研修する機会は急激に増加した。しかし,個々の困難に合わせた支援策の検討と実行となると,未だ試行錯誤段階なのが多くの学校の現状だろう。
特別支援学校のコーディネーターは,巡回相談の依頼を受け小中学校等を訪問し,アセスメントに取り組み,教師と共に支援策を検討できる立場にある。このコンサルテーションがうまく機能すれば,この取り組み自体が教師にとっての学びの場となり,教師の専門性を高めていく可能性が考えられる。教師が学び,自らの実践を省察するためには,困難が起こっている学校現場において,より具体的に検討できるシステムが求められている。話題提供では,実際の展開例を紹介し,検討することとしたい。
LD等通級指導教室担当が行う子ども理解支援の工夫
花城 毅
学級担任は,特別な教育的ニーズのある児童に対する指導において何に困っているのか。小学校LD等通級指導教室担当として学級担任に関わってきた経験から,以下の3点を困りとして集約した。①同じ行動を繰り返す子をどのように理解すればよいのか。②どのように個別に関わればいいのか。③学級経営をどのように工夫すればよいのか。
これらの困りに対し,学級担任が指導に手応えを感じることを目指して,特別な教育的ニーズのある子どもを理解するための支援(以下,子ども理解支援)を行った。①子どもの教育的ニーズを学級担任がつかめるように整理すること,②学級経営の中に特別な教育的ニーズへの対応を位置付けること,③学級担任と通級担当が子どもの状態や経過を共有し,特別な教育的ニーズに応じた指導を促進することの3点が主な支援内容である。
ただし,学級担任の通級担当に対する支援ニーズによって支援の程度や経過は変わる。土居(1992,「新訂 方法としての面接」)は,精神科臨床において被面接者の面接者に与える印象を分類した図を提示し,印象から推察した対人関係の有り様を診断の手がかりとする試みをした。この視点を参考に,シンポジウムでは,通級担当に対する支援ニーズの有り様を分類し,それに応じた子ども理解支援の工夫について提案する。最後に,これまでの実践に基づいて特別支援教育の研修内容に関する話題を提供する。
指定討論の論点
北島善夫
特別支援教育に関しては,学校現場で実際に実践を通して知識や技能を高めることが大きいと,日頃より感じている。教員養成段階での学びでは重点をどこに置き,その後の研修等はどのような形態・内容がニーズに応えることになるのか,討論していきたい。
浜崎美保
多様な学び方をする児童・生徒が教室にいることが前提となり,そのような児童・生徒に対して,教師がどれだけ多様な教え方をできるかが問われている。この課題に学校全体で取り組み,どのように支援体制を充実させるか検討したい。
武田明典
近年の日本の学校教育では,欧米諸国の教育にみられるようなインクルージョンの教育理念は一通り浸透し,特別支援学校のみならず一般の学校においてもその充実が進展している。また,これらを支持する社会制度的な環境面も整いつつあり,例えば,2016年に発達障害者支援法が改正され,同年,障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律が施行された。さらに,文部科学省の大学教職課程カリキュラム改定により,2019年度から「特別支援教育」科目が必修となる。
このように,日本における特別支援教育の体制は急速に展開している。一方で,学校現場の実像としては,教員による認識の差異や支援を行う上での課題など,必ずしも児童生徒に対して十分な教育支援や合理的配慮が行われているとは言い難い現状があるといえるのではないだろうか。
本シンポジウムでは,ますます重要となる特別支援教育に関して,学校現場からのニーズや課題についてのニーズ調査をふまえ,また,実践を行っている教師からの具体的な課題点を話題提供することにより,学校における教育実践,大学教育のプログラム開発,さらには,研究における貢献など,本学会員による貢献の可能性について示唆が得られることをねらいとする。
ニーズ調査の結果より
村瀬公胤・武田明典・北島善夫・池田政宣
本発表では,特別支援教育に関する学校現場のニーズを把握するための質問紙調査の結果について報告する。
構成:質問紙は調査対象者の属性を尋ねるフェイスシートと,特別支援教育に関する現場でのニーズを尋ねる質問項目から構成され,全体でA3判型×2面に印刷されて配布。質問項目は,コアカリキュラム「特別の支援を必要とする幼児,児童及び生徒に対する理解」の(1)~(3)の目標を含む形で構成する。
対象:調査対象者は小・中・高校の教員約400名である。このうち,特別支援学校教諭免許法認定講習の受講者であった対象者を特別支援教育に関心の高い群とみなし,一般的な教員免許更新講習や自治体教育委員会主催の講習を受講したそれ以外の群と比較する。
特別支援学校のセンター的機能と教師の学び
太田英樹
特別支援学校のセンター的機能は,いわゆる6つの機能を中心に地域の支援機関として定着してきた。特に小中学校等の教師からは,発達障害児支援に関する助言を求める声は多く,巡回相談,事例検討に対する期待は大きい。センター的機能の活用は,近隣で費用もかからず,同じ教師という連携のしやすさもあって,教師支援の有効な手段と考えられた。
発達障害児を支援するためには,様々な角度からその困難を検討し,支援の方向性を仮説的に決め,支援者の役割分担を整理し,支援体制を機能させることが重要となる。この10年で,特別支援教育について教師が研修する機会は急激に増加した。しかし,個々の困難に合わせた支援策の検討と実行となると,未だ試行錯誤段階なのが多くの学校の現状だろう。
特別支援学校のコーディネーターは,巡回相談の依頼を受け小中学校等を訪問し,アセスメントに取り組み,教師と共に支援策を検討できる立場にある。このコンサルテーションがうまく機能すれば,この取り組み自体が教師にとっての学びの場となり,教師の専門性を高めていく可能性が考えられる。教師が学び,自らの実践を省察するためには,困難が起こっている学校現場において,より具体的に検討できるシステムが求められている。話題提供では,実際の展開例を紹介し,検討することとしたい。
LD等通級指導教室担当が行う子ども理解支援の工夫
花城 毅
学級担任は,特別な教育的ニーズのある児童に対する指導において何に困っているのか。小学校LD等通級指導教室担当として学級担任に関わってきた経験から,以下の3点を困りとして集約した。①同じ行動を繰り返す子をどのように理解すればよいのか。②どのように個別に関わればいいのか。③学級経営をどのように工夫すればよいのか。
これらの困りに対し,学級担任が指導に手応えを感じることを目指して,特別な教育的ニーズのある子どもを理解するための支援(以下,子ども理解支援)を行った。①子どもの教育的ニーズを学級担任がつかめるように整理すること,②学級経営の中に特別な教育的ニーズへの対応を位置付けること,③学級担任と通級担当が子どもの状態や経過を共有し,特別な教育的ニーズに応じた指導を促進することの3点が主な支援内容である。
ただし,学級担任の通級担当に対する支援ニーズによって支援の程度や経過は変わる。土居(1992,「新訂 方法としての面接」)は,精神科臨床において被面接者の面接者に与える印象を分類した図を提示し,印象から推察した対人関係の有り様を診断の手がかりとする試みをした。この視点を参考に,シンポジウムでは,通級担当に対する支援ニーズの有り様を分類し,それに応じた子ども理解支援の工夫について提案する。最後に,これまでの実践に基づいて特別支援教育の研修内容に関する話題を提供する。
指定討論の論点
北島善夫
特別支援教育に関しては,学校現場で実際に実践を通して知識や技能を高めることが大きいと,日頃より感じている。教員養成段階での学びでは重点をどこに置き,その後の研修等はどのような形態・内容がニーズに応えることになるのか,討論していきたい。
浜崎美保
多様な学び方をする児童・生徒が教室にいることが前提となり,そのような児童・生徒に対して,教師がどれだけ多様な教え方をできるかが問われている。この課題に学校全体で取り組み,どのように支援体制を充実させるか検討したい。