[JD04] 特別な教育的支援を要する児童生徒の学習支援における合理的配慮の提供について
何をどのように学ぶのかをプラン・実践する
キーワード:学習支援, 授業つくり, 合理的配慮
企画趣旨・討論
障害者の権利に関する条約の中にある「合理的配慮」の提供は,障害者差別解消法において,発達障害を含むと明記されて,公立学校でも義務とされた。障害の有無にかかわらず,特別な教育的支援を要する児童生徒すべてに対応が拡げていくことになろう。一方,学習指導要領の平成29年改訂では,「学習内容の削減は行わない」「質の高い理解を図るための学習過程の質的改善」「各学校におけるカリキュラム・マネジメントの実現」が提唱された。障害のある児童生徒で,学習に困難さを抱えている場合,そのスキルの獲得や支援ニーズをアセスメントし把握した上で,その支援ニーズのレベルや範囲に応じて,支援レベルⅠ(accommodation):教える内容は変更せずに,教材,学習時間・環境設定などを変えたり,伸ばしたり,工夫したりする段階,支援レベルⅡ(modification):教える内容を調整して修正を加える(学習量を減らしたり,内容を単純化する)段階,支援レベルⅢ(Substitution):認知機能の偏りが大きかったり,発達の遅れが著しいケースのなかには通常の教科を学習することに難しさがあるために,他の内容に大幅に代替していくなどの段階に応じた工夫・修正・代替などといった対応が求められてくることもあろう(理論上あり得る段階を例示した)。もちろん,均衡を失したり,過度な負担を課さないという条件(reasonableというニュアンス)があることも認識すべきであろう。過剰なサービスや必要であれば何でも導入されるわけではない。そうした意味では,援助の要求と提供という枠組みやその導入についても吟味することが必要であろう。何をどのように学ぶのかを援助するには,障害のある児童生徒の学習システム(個々の児童生徒にみられる学び方の特性を含む),授業における活動展開と支援方法の工夫,ICT活用や学習方法の工夫,援助の提供などが求められる。加えて,個別・グループ・学級といった階層的支援体制のなかで提供を考え,合理的配慮の最適な提供について検討する。
(橋本創一・松尾直博)
授業でみられる合理的配慮の実際―特総研インクルDBの事例から考える―
大崎博史
本研究所では,インクルーシブ教育システム構築に関連する様々な情報を掲載したインクルーシブ教育システム構築支援データベース(略称:インクルDB)を開設し,教育関係者の方々に対して,インクルーシブ教育システム構築支援に関する情報を提供している。その中の実践事例データベースには,現在362事例(2018年3月31日現在)が掲載され,対象児童生徒について,対象児童生徒等の学校における基礎的環境整備の状況,対象児童生徒等への合理的配慮の実際,取組の成果と課題などが記載されている。中でも,対象児童生徒等への合理的配慮の実際では,「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」(2012)による合理的配慮の3観点11項目についての取組が掲載されている。
本報告では,これらの事例の中から,授業でみられる合理的配慮の実際について例を挙げ,特別な教育的支援を要する児童生徒の学習支援における合理的配慮がどのように提供されているのかを考えていきたい。特に,学習上の困難を改善・克服するための配慮や学習内容の変更・調整などの教育内容の配慮がどのように行われているのか,また,情報・コミュニケーション及び教材の配慮や学習機会や体験の確保などの教育方法の配慮がどのように行われているのかを考察する。
作業段取りに焦点をあてたろう学校における授業づくりについて
廣野政人
聴覚に障がいのある生徒は,音が聞こえにくい,聞こえない(一次的障がい)ことから音声によるコミュニケーションに困難が生じ(二次的障がい),情報の不足から社会的思考モデルの習得に課題がみられ,多量な情報の処理困難や推論などの思考の困難,少ない経験・偶発学習の困難が見られるといわれている。このため,状況の推移について順序立てて考え,文脈に沿って関連付けながら理解する経験を積ませることが重要である。製作課題学習では時間の経過とともに,作業の早い学習者と遅い学習者との間に作業に大きな進度差が生じる。作業の遅い学習者は,作業手順の説明後に周囲の生徒の動きに目をやったり,その行動を真似たり,作業手順を聞き直すなどの行動が見られる。土井(2001)は,作業に遅れがちな学習者は,作業に入る前に作業の見通しや作業の方略を持たず,具体的な作業準備もせず,不十分な状態で作業に入ろうとしていると指摘している。日常生活や社会生活において,私たちは目標を定め,意識的行動をとる過程の中で,必ず作業段取りという,順序立てて考える行為を行っている。この作業段取りに焦点をあて,その方法を製作課題学習に導入することにより,合理的に作業を進めるための指導だけではなく,聴覚に障がいのある生徒に見られる課題に対する具体的な解決への糸口となる指導法について考察する。
読み・書き学習におけるICT活用や学習方法の工夫
中 知華穂
公立学校の中で「合理的配慮」を提供することが義務化され,LD児等の読み書きに困難を示す児童生徒への支援方法の充実が急務となっている。読み書き困難児に対する支援方法については,従来,医学的診断に基づくLD児を対象に研究がなされている。一方で,通常学級の中にはLD児とともに,医学的な診断はないが,読み書きに困難を示す児童生徒が存在する。我々は,低学年から高学年における複数の読み書きスキルを評価するために,「「読めた」「わかった」「できた」(YWD)読み書きアセスメント」(小池ら,2017)を東京都の委託研究で開発し,これを用いて,通常学級在籍児童の読み書きスキルの低成績の様相を検討した。その結果,複数の読み書きスキルの低成績が重複すると,漢字の読み書き困難が強く表れることを明らかにした。このことは,低成績の重複の程度の評価は,「なにをどのように学ぶのか」をという支援のプランの構築に直結することを意味する。
本報告では,まず,「YWD読み書きアセスメント」PCタブレット版を紹介し,これに基づく学習支援の実際について話題提供を行う。具体的には,一点目に,クラス単位で漢字の読み書き支援プリントを活用した支援の効果について話題提供を行う。二点目に,小集団場面における,読み書きスキルの習得状況や認知特性に合わせた漢字の書字支援の効果について話題提供を行う。三点目に,通級による指導を利用する児童を対象に,タブレット教材を用いた個別学習場面における音読支援の効果について報告する。その際に,通級における音読指導の実際に加え,通常学級内での読み困難に対する配慮について報告する。
子どものわからない・できないの意味を捉え学習支援につなげる
杉岡千宏
支援が必要な児童生徒における学習活動の合理的配慮というと,授業作りやICTに代表されるような,個人の障害特性を支援するためのツールを利用することであろう。しかし,実際には,通常学級・特別支援学級においては集団の指導であるため,個々に応じての支援には限界があるだろう。そこで,重要になるのは,本人が学習活動におけるつまずきを理解し適切に援助を求められることであろう。学習活動における援助要請には,①困難場面であるという状況を把握する②自分の実力と照らし合わせ自力解決を試みるべきか,他者に助けを求めるべきかを判断する③援助要請する場合,誰にどのような発言・ジェスチャーで表現するかを決定していく,といった段階があると考える。学習活動が滞っている際には,学習内容だけではなく,このような援助要請の段階のどこにつまずきがあるのか査定する必要がある。また,本人もそれを自覚し困難場面を解決していく必要がある。また,これらは学校教育や家庭生活の中で,低年齢期から教えていかなくてはならないだろう。他方,適切な援助を提供できることも同時に必要になってくるだろう。よく見られることとして,周囲が過剰に手助けをしてしまうという場面がある。しかし,理にかなった支援が必要なのであり,多大な援助提供は障壁をつくることにもなりかねない。よって,周囲は状況把握・判断・表現のどの段階につまずきがあるのかを見極めた上で,段階に応じて働きかけることが求められるだろう。
本報告では,こうした状況について通常学級や特別支援学級または個別学習の場面において具体的な援助要請行動の実態について,事例を交えて紹介し,本人の援助の要請と周囲の援助の提供について検討していきたいと考える。
(HASHIMOTO Soichi, OSAKI Hirofumi, HIRONO Masato, NAKA Chikaho, SUGIOKA Chihiro, MATSUO Naohiro)
障害者の権利に関する条約の中にある「合理的配慮」の提供は,障害者差別解消法において,発達障害を含むと明記されて,公立学校でも義務とされた。障害の有無にかかわらず,特別な教育的支援を要する児童生徒すべてに対応が拡げていくことになろう。一方,学習指導要領の平成29年改訂では,「学習内容の削減は行わない」「質の高い理解を図るための学習過程の質的改善」「各学校におけるカリキュラム・マネジメントの実現」が提唱された。障害のある児童生徒で,学習に困難さを抱えている場合,そのスキルの獲得や支援ニーズをアセスメントし把握した上で,その支援ニーズのレベルや範囲に応じて,支援レベルⅠ(accommodation):教える内容は変更せずに,教材,学習時間・環境設定などを変えたり,伸ばしたり,工夫したりする段階,支援レベルⅡ(modification):教える内容を調整して修正を加える(学習量を減らしたり,内容を単純化する)段階,支援レベルⅢ(Substitution):認知機能の偏りが大きかったり,発達の遅れが著しいケースのなかには通常の教科を学習することに難しさがあるために,他の内容に大幅に代替していくなどの段階に応じた工夫・修正・代替などといった対応が求められてくることもあろう(理論上あり得る段階を例示した)。もちろん,均衡を失したり,過度な負担を課さないという条件(reasonableというニュアンス)があることも認識すべきであろう。過剰なサービスや必要であれば何でも導入されるわけではない。そうした意味では,援助の要求と提供という枠組みやその導入についても吟味することが必要であろう。何をどのように学ぶのかを援助するには,障害のある児童生徒の学習システム(個々の児童生徒にみられる学び方の特性を含む),授業における活動展開と支援方法の工夫,ICT活用や学習方法の工夫,援助の提供などが求められる。加えて,個別・グループ・学級といった階層的支援体制のなかで提供を考え,合理的配慮の最適な提供について検討する。
(橋本創一・松尾直博)
授業でみられる合理的配慮の実際―特総研インクルDBの事例から考える―
大崎博史
本研究所では,インクルーシブ教育システム構築に関連する様々な情報を掲載したインクルーシブ教育システム構築支援データベース(略称:インクルDB)を開設し,教育関係者の方々に対して,インクルーシブ教育システム構築支援に関する情報を提供している。その中の実践事例データベースには,現在362事例(2018年3月31日現在)が掲載され,対象児童生徒について,対象児童生徒等の学校における基礎的環境整備の状況,対象児童生徒等への合理的配慮の実際,取組の成果と課題などが記載されている。中でも,対象児童生徒等への合理的配慮の実際では,「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」(2012)による合理的配慮の3観点11項目についての取組が掲載されている。
本報告では,これらの事例の中から,授業でみられる合理的配慮の実際について例を挙げ,特別な教育的支援を要する児童生徒の学習支援における合理的配慮がどのように提供されているのかを考えていきたい。特に,学習上の困難を改善・克服するための配慮や学習内容の変更・調整などの教育内容の配慮がどのように行われているのか,また,情報・コミュニケーション及び教材の配慮や学習機会や体験の確保などの教育方法の配慮がどのように行われているのかを考察する。
作業段取りに焦点をあてたろう学校における授業づくりについて
廣野政人
聴覚に障がいのある生徒は,音が聞こえにくい,聞こえない(一次的障がい)ことから音声によるコミュニケーションに困難が生じ(二次的障がい),情報の不足から社会的思考モデルの習得に課題がみられ,多量な情報の処理困難や推論などの思考の困難,少ない経験・偶発学習の困難が見られるといわれている。このため,状況の推移について順序立てて考え,文脈に沿って関連付けながら理解する経験を積ませることが重要である。製作課題学習では時間の経過とともに,作業の早い学習者と遅い学習者との間に作業に大きな進度差が生じる。作業の遅い学習者は,作業手順の説明後に周囲の生徒の動きに目をやったり,その行動を真似たり,作業手順を聞き直すなどの行動が見られる。土井(2001)は,作業に遅れがちな学習者は,作業に入る前に作業の見通しや作業の方略を持たず,具体的な作業準備もせず,不十分な状態で作業に入ろうとしていると指摘している。日常生活や社会生活において,私たちは目標を定め,意識的行動をとる過程の中で,必ず作業段取りという,順序立てて考える行為を行っている。この作業段取りに焦点をあて,その方法を製作課題学習に導入することにより,合理的に作業を進めるための指導だけではなく,聴覚に障がいのある生徒に見られる課題に対する具体的な解決への糸口となる指導法について考察する。
読み・書き学習におけるICT活用や学習方法の工夫
中 知華穂
公立学校の中で「合理的配慮」を提供することが義務化され,LD児等の読み書きに困難を示す児童生徒への支援方法の充実が急務となっている。読み書き困難児に対する支援方法については,従来,医学的診断に基づくLD児を対象に研究がなされている。一方で,通常学級の中にはLD児とともに,医学的な診断はないが,読み書きに困難を示す児童生徒が存在する。我々は,低学年から高学年における複数の読み書きスキルを評価するために,「「読めた」「わかった」「できた」(YWD)読み書きアセスメント」(小池ら,2017)を東京都の委託研究で開発し,これを用いて,通常学級在籍児童の読み書きスキルの低成績の様相を検討した。その結果,複数の読み書きスキルの低成績が重複すると,漢字の読み書き困難が強く表れることを明らかにした。このことは,低成績の重複の程度の評価は,「なにをどのように学ぶのか」をという支援のプランの構築に直結することを意味する。
本報告では,まず,「YWD読み書きアセスメント」PCタブレット版を紹介し,これに基づく学習支援の実際について話題提供を行う。具体的には,一点目に,クラス単位で漢字の読み書き支援プリントを活用した支援の効果について話題提供を行う。二点目に,小集団場面における,読み書きスキルの習得状況や認知特性に合わせた漢字の書字支援の効果について話題提供を行う。三点目に,通級による指導を利用する児童を対象に,タブレット教材を用いた個別学習場面における音読支援の効果について報告する。その際に,通級における音読指導の実際に加え,通常学級内での読み困難に対する配慮について報告する。
子どものわからない・できないの意味を捉え学習支援につなげる
杉岡千宏
支援が必要な児童生徒における学習活動の合理的配慮というと,授業作りやICTに代表されるような,個人の障害特性を支援するためのツールを利用することであろう。しかし,実際には,通常学級・特別支援学級においては集団の指導であるため,個々に応じての支援には限界があるだろう。そこで,重要になるのは,本人が学習活動におけるつまずきを理解し適切に援助を求められることであろう。学習活動における援助要請には,①困難場面であるという状況を把握する②自分の実力と照らし合わせ自力解決を試みるべきか,他者に助けを求めるべきかを判断する③援助要請する場合,誰にどのような発言・ジェスチャーで表現するかを決定していく,といった段階があると考える。学習活動が滞っている際には,学習内容だけではなく,このような援助要請の段階のどこにつまずきがあるのか査定する必要がある。また,本人もそれを自覚し困難場面を解決していく必要がある。また,これらは学校教育や家庭生活の中で,低年齢期から教えていかなくてはならないだろう。他方,適切な援助を提供できることも同時に必要になってくるだろう。よく見られることとして,周囲が過剰に手助けをしてしまうという場面がある。しかし,理にかなった支援が必要なのであり,多大な援助提供は障壁をつくることにもなりかねない。よって,周囲は状況把握・判断・表現のどの段階につまずきがあるのかを見極めた上で,段階に応じて働きかけることが求められるだろう。
本報告では,こうした状況について通常学級や特別支援学級または個別学習の場面において具体的な援助要請行動の実態について,事例を交えて紹介し,本人の援助の要請と周囲の援助の提供について検討していきたいと考える。
(HASHIMOTO Soichi, OSAKI Hirofumi, HIRONO Masato, NAKA Chikaho, SUGIOKA Chihiro, MATSUO Naohiro)