[PA04] 感謝生起場面における認知と行動を左右する個人特性(3)
共感性と自己愛を統合した分析
キーワード:感謝, 自己愛, 共感性
問題と目的
返報行動や第三者への向社会的行動などの感謝行動をもたらす要因として,個人が置かれた状況の認知や感情体験の関連が指摘され(蔵永・樋口, 2011, 2013),共感性(村上・藤原, 2017)と自己愛(藤原・村上, 2017)の関連の検討が別々に検討されている。しかしながら,これらパーソナリティや状況要因を同時に分析して相互に統制し合いつつ,行動に対する影響を確認することが重要であろう。本研究の目的は,青年期の感謝表明を左右するパーソナリティ変数として自己愛と共感性に注目し,状況評価の観点を加えて再検討を行うことである。
方 法
調査対象者 国公立大学1校ならびに私立大学1校に通う大学生計381名(男性220名,女性161名)を対象とした。
質問紙の構成 次の(1)~(3)について回答を求めた。(1)自己愛尺度:中山・中谷(2006)の尺度を用いた。誇大性(10項目)ならびに評価過敏性(8項目)について,5件法で尋ねた。(2)共感性尺度:登張(2003)の共感性尺度のうち,共感的関心(13項目)と「気持ちの想像」(5項目)の2下位尺度について,いずれも5件法で尋ねた。(3)感謝生起状況における状況評価と行動:蔵永・樋口(2011, 2013)が用いた5つの状況のうち,被援助,贈物受領,他者負担の3状況について,状況評価及びその後の行動について尋ねた。状況評価尺度については,恩恵の受領(9項目),他者のコスト(4項目)ならびに起こったことの当然さ(3項目)を,その後の行動については,感謝表現(感謝表明型 / 謝罪表明型),返礼行動,向社会的行動について,いずれも5件法で尋ねた。
調査時期 2017年11月であった。
結果と考察
自己愛(いずれも観測変数)と共感性(2下位尺度を観測変数,共感性を潜在変数化)を第一水準,感謝生起状況における状況評価を第二水準,同状況における行動を第三水準に配置し,男女別の多母集団分析を行った。その結果,適合度指標において十分な値が示された(χ2(16)=26.86, p<.05, GFI=.99, AGFI=.90, CFI=.99, RMSEA=.042)。男女とも有意であったパス係数は以下のとおりであった(特記がない場合にはp<.01)。
パーソナリティから状況評価に対する影響では,恩恵受領に対しては共感性(男性/女性でパス係数は.48/.62),他者コストへは共感性(.29/.40)と誇大性(-.15/-.21,前者のみp<.05),そして当然さ認知へは誇大性(.22/.22)と過敏性(.19/.16,後者のみp<.05)が,いずれも有意な関連を示した。
第3水準への影響のうち,感謝表明へは恩恵受領(.54/.36)と共感性(.16/.21,いずれもp<.05)が男女とも有意な関連を示した。謝罪表明と関連を有していたのは他者コスト(.39/.62)のみであった。返礼行動へは,共感性(.22/.36)と他者コスト(.35/.36)が有意であり,向社会的行動へは,共感性(.41/.58)が有意であった。第3水準に対する各変数の標準化総合効果をTableに示した。
以上より,感謝生起状況における対人行動に対する共感性の影響は強いが,感謝や謝罪の言明においてはパーソナリティ変数をモデルに投入しても状況評価の影響が比較的残る一方,返報や向社会的行動など,行動に遅延性があったり,第3者に対する行動についてはパーソナリティの影響を受ける割合が大きいと考えられる。
返報行動や第三者への向社会的行動などの感謝行動をもたらす要因として,個人が置かれた状況の認知や感情体験の関連が指摘され(蔵永・樋口, 2011, 2013),共感性(村上・藤原, 2017)と自己愛(藤原・村上, 2017)の関連の検討が別々に検討されている。しかしながら,これらパーソナリティや状況要因を同時に分析して相互に統制し合いつつ,行動に対する影響を確認することが重要であろう。本研究の目的は,青年期の感謝表明を左右するパーソナリティ変数として自己愛と共感性に注目し,状況評価の観点を加えて再検討を行うことである。
方 法
調査対象者 国公立大学1校ならびに私立大学1校に通う大学生計381名(男性220名,女性161名)を対象とした。
質問紙の構成 次の(1)~(3)について回答を求めた。(1)自己愛尺度:中山・中谷(2006)の尺度を用いた。誇大性(10項目)ならびに評価過敏性(8項目)について,5件法で尋ねた。(2)共感性尺度:登張(2003)の共感性尺度のうち,共感的関心(13項目)と「気持ちの想像」(5項目)の2下位尺度について,いずれも5件法で尋ねた。(3)感謝生起状況における状況評価と行動:蔵永・樋口(2011, 2013)が用いた5つの状況のうち,被援助,贈物受領,他者負担の3状況について,状況評価及びその後の行動について尋ねた。状況評価尺度については,恩恵の受領(9項目),他者のコスト(4項目)ならびに起こったことの当然さ(3項目)を,その後の行動については,感謝表現(感謝表明型 / 謝罪表明型),返礼行動,向社会的行動について,いずれも5件法で尋ねた。
調査時期 2017年11月であった。
結果と考察
自己愛(いずれも観測変数)と共感性(2下位尺度を観測変数,共感性を潜在変数化)を第一水準,感謝生起状況における状況評価を第二水準,同状況における行動を第三水準に配置し,男女別の多母集団分析を行った。その結果,適合度指標において十分な値が示された(χ2(16)=26.86, p<.05, GFI=.99, AGFI=.90, CFI=.99, RMSEA=.042)。男女とも有意であったパス係数は以下のとおりであった(特記がない場合にはp<.01)。
パーソナリティから状況評価に対する影響では,恩恵受領に対しては共感性(男性/女性でパス係数は.48/.62),他者コストへは共感性(.29/.40)と誇大性(-.15/-.21,前者のみp<.05),そして当然さ認知へは誇大性(.22/.22)と過敏性(.19/.16,後者のみp<.05)が,いずれも有意な関連を示した。
第3水準への影響のうち,感謝表明へは恩恵受領(.54/.36)と共感性(.16/.21,いずれもp<.05)が男女とも有意な関連を示した。謝罪表明と関連を有していたのは他者コスト(.39/.62)のみであった。返礼行動へは,共感性(.22/.36)と他者コスト(.35/.36)が有意であり,向社会的行動へは,共感性(.41/.58)が有意であった。第3水準に対する各変数の標準化総合効果をTableに示した。
以上より,感謝生起状況における対人行動に対する共感性の影響は強いが,感謝や謝罪の言明においてはパーソナリティ変数をモデルに投入しても状況評価の影響が比較的残る一方,返報や向社会的行動など,行動に遅延性があったり,第3者に対する行動についてはパーソナリティの影響を受ける割合が大きいと考えられる。