日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PA] ポスター発表 PA(01-78)

2018年9月15日(土) 10:00 〜 12:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PA05] 感謝生起場面における認知と行動を左右する個人特性(4)

特性感謝と特性負債感に着目して

村上達也1, 藤原健志2 (1.高知工科大学, 2.埼玉学園大学)

キーワード:感謝, 負債感, 対人行動

問題と目的
 感謝感情の生起後に,ヒトは感謝表現や返報行動,向社会的行動といった対人行動を行う。そうした対人行動をもたらす要因として,個人が置かれた状況への認知や感情体験の関連が指摘されてきた(蔵永・樋口, 2011, 2013)。近年では,特に状況認知に注目が集まり,状況認知を左右する個人差変数について研究が行われている。例えば,藤原・村上(2017)では自己愛に,村上・藤原(2017)では共感性に焦点を当て,それらが状況要因にどのように影響を及ぼしているのかを検討してきた。本研究では,その流れを受けて,特性感謝と特性負債感が,感謝生起状況に対する評価(状況評価)に影響を及ぼし,さらに対人行動にどのように影響するのかを検討する。

方  法
調査対象者 株式会社クロスマーケティングが保有するモニタから,全国の18歳から22歳の青年700名(平均20.74±1.18歳)を対象に調査を行った。350名は大学生,350名は非大学生であった。
質問紙の構成 次の(1)~(3)について回答を求めた。(1)特性感謝尺度:羽鳥・石村(2012)のGQ6を用いた。(2)特性負債感尺度:相川・吉森(1995)の尺度を用いた。(3)感謝生起状況における状況評価と行動:蔵永・樋口(2011, 2013)を参考に,状況評価およびその後の対人行動について尋ねた。状況評価については,「恩恵受領」,「他者コスト」,「当然さ」を,その後の行動については,「感謝表明」,「謝罪表明」,「返報行動」,「向社会的行動」について尋ねた。
調査時期 2017年2月であった。

結果と考察
 特性感謝と特性負債感を第一水準,状況評価を第二水準,対人行動を第三水準に配置し,性別を統制して構造方程式モデリングによる解析を行った。なお,同水準間の誤差変数同士には共分散を仮定した。Wald検定の結果を参照し,モデルの修正を行った。最終モデルの適合度指標は,χ2(49)=8.05, p=.24, AGFI=.979, CFI=.999, RMSEA=.022)であった。
 ここでは,モデルの標準化総合効果(Table1)についてのみ言及する。まず,感謝表明と謝罪表明に対して,特性感謝は感謝表明にのみ影響を及ぼし,謝罪表明には影響を及ぼさなかった。一方,特性負債感は両方に影響を及ぼしていた。Tsang(2006)は,感謝と負債感の差異として,善意の有無を指摘しており,特性感謝が高い個人は相手の善意を検出しやすく,感謝表明を行いやすい一方,特性負債感の高い個人は,より善意を検出しにくいため,同様の状況においても謝罪表明につながるのではないかと考えられる。また,返報行動と向社会的行動に対する影響力は基本的に,負債感の方が大きかった。Watkins et al.(2006)は,感謝と負債感の差異として,返報期待の有無を指摘している。本研究の結果も,負債感を感じやすい個人は,相手が返報を期待していると認知しやすく,その結果として返報行動や向社会的行動を取りやすくなるのではないかと解釈できる。以上から,個人差変数である特性感謝と特性負債感によって,対人的行動に対する影響が異なることが示唆された。