日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PA] ポスター発表 PA(01-78)

2018年9月15日(土) 10:00 〜 12:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PA06] 幼児の向社会的行動に関する研究

共感性と「あえて何もしない」判断との関連

廣戸健悟 (東京大学)

キーワード:向社会的行動, 共感性

問題と目的
 向社会的行動の発現には様々な要因が関与しているとされているが,その中でも共感性との関連を調べた研究は数多くみられる。しかし,これまで両者の関係がある程度支持されているものの,一貫した見解が得られていない。その原因として,これまで扱われてきた共感性は認知的側面が強調されており,他者の悲しみそのものを感じる情動的側面が十分に扱われていなかったことが考えられる。そのため本研究では,共感性を認知的共感性と情動的共感性の両側面に分けて捉える。
 また,従来の向社会的行動研究では,向社会性を行動として表すことが前提とされてきた。これまでは,いわゆる表出的な行動が取り上げられることが多く,非表出的な行動に焦点が当てられことは相対的に希薄であった。そのため本研究では,向社会的行動の中でも,「直接的な向社会的行動(以下,直接行動)」と,「間接的な向社会的行動(以下,間接行動)」に区別する。その上で,あえて援助を抑制したり,あからさまな表出をしない向社会的判断に焦点を当てることを目的とする。 
 本研究では以下の仮説を立てる。
仮説1:他者が援助要請を求めている場面において,共感性が高い幼児は共感性が低い幼児に比べて,直接行動を選択する者が多い。
仮説2:他者が援助要請を求めていない場面において,共感性が高い幼児は共感性が低い幼児に比べて,間接行動を選択する者が多い。

方  法
調査時期:2017年11月
調査対象:仙台市内の幼稚園に通う5歳児クラスの幼児52名(男児24名,女児28名)
課題:絵カードを用いて一対一の個別調査を行った。調査では以下の2課題を用いた。1)共感性課題:主人公の悲しみの高低によって2種類の場面を設定,2)向社会的判断課題:主人公の援助要請の高低によって2種類の場面を設定。

結  果
 共感性課題の得点の平均値を基準に,低群・中群・高群の3群に分類し共感得点群とした。共感得点群ごとの各場面における向社会的判断課題の合計得点をTable 1に示した。
 仮説1 の検証として,共感得点群を独立変数,向社会的判断課題の高援助行動要請場面における直接行動得点を従属変数とした一元配置の分散分析を行った。その結果いずれにおいても有意差はみられなかった (F (2, 49) =1.42, n.s.)。
 仮説2 の検証として,共感得点群を独立変数,向社会的判断課題の低援助行動要請場面における間接行動得点を従属変数とした一元配置の分散分析を行った。その結果いずれにおいても有意差はみられなかった (F (2, 49) =0.43, n.s.)。
 また,年齢差を検討したところ,向社会的判断課題の高援助行動要請場面において,6歳の直接行動得点が5歳の直接行動得点に比べて有意に高かった (t (50)=2.49, p <.05)。

考  察
 仮説1および仮説2が支持されなかった原因として,向社会的判断課題においてほとんどの参加児が,課題場面に関わらず直接行動を選択しており,その結果として間接行動得点が低くなったと考えられる。参加児が間接行動を選択しなかった原因としては,調査で用いた絵カードの表情が分かりづらかったことが挙げられる。直接行動の登場人物に比べて,間接行動の登場人物が悲しそうな表情だったために,その表情に引きずられて参加児が間接行動を選択しなかったのだと推察される。今後は,絵カードの表情や教示内容をニュートラルな表現に変えていく必要性が示唆された。
 しかし,その他の分析結果から,向社会的判断課題の高援助行動要請場面において,年齢差が有意であった。この結果から,年齢が上がるにつれて,困窮状態にある他者に対して表出的な向社会的行動をとるようになることが示唆された。